最後の夜
コンコン
コンコン
呼び出され行ってみるとテルファーが笑顔で迎えてくれた。
いつもと違ってかわいらしさが見られる。お仕置きと復讐を果たしご機嫌だ。
「どうしたのテルファー? かわいいね」
つい正直に言うと赤くなって何も言えなくなってしまう。
やっぱりテルファーはかわいいな。
「うるせよ! かわいいより格好いいにしろよ! 」
まだ赤くなってるのに凄む。恥ずかしいなら恥ずかしいでいいのに。
「それで何だっけ? 」
焦らす気はないしすべて分かってること。でも自分から言いだすのもどうかなと。
悪いなと思いながら結局テルファーに頼ってしまう。
最後の夜ぐらい格好つけたいけど似合わないと言われそうでそのまま。
「ほらこっちに来いって! 」
「優しくね」
「それはこっちのセリフだろうが! 」
「ははは…… そうだアンは? いやもちろんそう言う意味ではなくて…… 」
「おいおいまさか一人じゃ満足しないのかよ? 嘘だろう? 」
「いやいやそんなことは決して…… 」
「だったらもっと嬉しくしろよな。こっちが不安になる」
「悪い。何だか凄く緊張しちゃって。どうしたんだろう? 」
「いいから早くしろ! 」
「分かったってテルファー」
アンがいないのも分かっていた。それでも時間稼ぎと確認のためにやっている。
皆明日は船でベネットだと浮かれている。
父さんがアンをまた連れ出した。その辺はゾークに頼んでるので大丈夫だろう。
後はハイだが近くのレストランにかわいい子がいるよと教えたので向かったはず。
ここから三十分近く歩かないとたどり着かない場所で迷えば余裕で一時間掛かる。
その往復にレストラン滞在を加えれば四時間は帰って来ない。充分な時間だ。
一番の問題は爺さんだ。ファンタジーの世界を守ると躍起になってる。
今日だって結局拝めなかった。これはもう爺さんの邪魔と言うか呪いだろう。
本当に困った人だな。でもそんな爺さんも追いやる秘策がある。
それは…… 風呂に入ると言えばいい。そうすれば疑わず風呂の前に待機する。
でも実際僕はテルファーの部屋を訪問してる訳で。
これではいくらファンタジーの神でもどうにもならないだろう。
そもそも今日は忙しいとも言っていたのでどこかに行った可能性もある。
では邪魔者もいないことだし楽しみますか。
「テルファー! 」
「カズ! 」
抱き合った。ようやく二人が一緒になれた気がする。
長かった。遠かった。でも…… 今夢が叶ったんだ。
「おいおい何を泣いてるんだカズ? おっぱじめようって時に台無しじゃないか」
いつの間にか涙を流していたようだ。嬉しいだけでなくどうも恐れているらしい。
父さんたちから離れ竜人として孤独に生きていく。はぐれ竜って奴だ。
これはその通過儀礼のような気がしてならない。
もしかしたらマリッジブルーなのかもな。
村のお姉さんが契りを結ぶ前日に泣いていたのを思い出す。
あの時はてっきり村を離れるのが寂しくて嫌だからと思ってたけど違ったみたい。
「大丈夫だよ。またすぐに戻れるよ」
そんな風に声をかけたら驚かれた。
たぶんそうじゃないんだろうと母さんが言っていた。
「嫌な奴なら振ればいいんだよ」
まだガキだと言うのに大人の意見を言って泣かせてしまった。
きっといい人だったんだろう。それでもよく分からずに泣いていたんだろうな。
大人の話に勝手に入らないのと叱られたな。でもそれが今自分の身に。
そう僕は大人になったんだろうな。もう充分な勇者さ。
「どうしたカズ? 早く服を脱げ! 」
命令に従う。だって怒らせると怖いしいつケリが来るか分からない。
かわいいのに言動が男っぽいから。皆から…… 特に父さんから勘違いされてる。
「ちょっと恥ずかしいよテルファー」
「情けないこと言うな! 誰も見てる奴もいないさ」
「でも神様が…… 」
「そいつは忙しいってどこかに行っただろうが。忘れたのか? 」
「ああそう言えば…… 」
どうやら本当に忙しいらしい。僕としてもこれで邪魔されずに済んだ訳で。
でもいつもの寸前で回避されるのに慣れてるからかどうしても落ち着かない。
いつの間にか神頼みさえしてる自分がいる。恐ろしいな習慣ってのは。
「だったら僕が脱いだらそっちも一枚」
提案してみる。どうも時間をかけてじっくりやりたいんだよな。
楽しみたいもあるがやはり怖いと言うか不安がある。
もう邪魔者がいないと言うのも逆にやりにくいものだ。
今まで爺さんたちが邪魔してくれることが前提になってたからな。
「まったくおかしなカズだぜ。いいさ。まずはカズからな」
これでいい。これで少しは時間稼ぎになるだろう。
おかしなことに罪悪感があるらしい。
「ハイ一枚脱いだよ」
まずはソックス。ホワイトソックスがいつの間にか血でレッドソックスに。
動き回ったからな。これも勇者の宿命さ。
「おい大丈夫か? 」
「大丈夫。レッドソックスも悪くない。当然血も止まったし連勝も止まったから」
「おい本当に大丈夫かカズ? おかしなことを言ってるぞ。
それにしてもお前に憑いてた神様はどうやら完全消滅したらしいな」
ここで爺さんが来なければもう阻止することは難しい。
それが分かってるからテルファーも気にしている。
どうやら本当に今回はあの爺さんは現れないようだ。
するとストップさせるにはやはり自分で何とかするしかない。
「次はテルファーの番でしょう? 」
「ほらよ。まずはソックスだろう? でも全部脱がなくてもやれるんだがな」
テルファーは納得はしてないらしい。困ったな。
そうしてゆっくり時間をかけて脱いで行く。
「ノロノロするな! もうこれくらいでいいだろう? さっさとやっちまおうぜ」
互いに下着だけとなりあともう少しとなったところで我慢の限界のテルファー。
仕方ない。ここは大人しく従いますか。
ゆっくり楽しむほどの余裕は僕たちにはないさ。
本当にいいんですね神様?
哀れな子羊たちの愚かな行為を止めるのはもう今しかありませんよ?
ここからはもう引き返せないぞ。
「でも僕…… 」
「いいから早く抱きしめろ! 何をチンタラやってるんだ? 」
情けない。テルファーに全部リードされて僕は何て情けないんだ。
「でもさ…… 」
「ほら早く! そうだ! 思いっきり抱きしめろ! 」
こうして二人は抱き合った。
ファンタジーの世界がバラバラと崩れる音がした気がする。
続く




