ゾーコ
三度目の正直とはいかなかったらしい。
どこかでそんなことになるんじゃないかなと薄々は感じていた。
だからそこまで驚かない。でもこれはさすがに酷過ぎる。
テルファーもアンも完全装備。僕なんか素っ裸なのにさ。
これでフィールドに立てばモンスターの格好の餌食。
その前に捕まってしまう気もするが。
混浴温泉によくあること。
温泉着と言うお洒落なもので楽しむ。
これを着ればたとえ他人がいてもその目を気にする必要がない。
恥ずかしがり屋で心配性な僕にはぴったりな代物。
でもテルファーたちがせっかく気合を入れてくれたのにこれでは意味がない。
大体なぜ事前にきちんと言ってくれないんだよ?
無駄に興奮して緊張したじゃないか。
もう絶対にわざとやってるだろう?
「そんな情けない顔するなよ。見れなくても触れれば…… 」
「できる訳ないだろうそんなこと! もういいよ! 」
アンやゾークの前でそんな真似ができるか。
テルファーは常識がないからそんな簡単に考るんだよ。
他の客が来たらどうにもならなくなる。
「ダメだよカズ君! 」
必死に止めるアン。まさか僕のことを本気で? それなら悪い気がする。
テルファーばかり見ていたけどアンは本当に魅力的なお姉さんだ。
「済まないアン…… 」
「ホラこっちに来てきちんと浸かろうね」
どうやらアンは臭いを消そうと真面目に考えてるらしい。
でもそれが目的じゃないだろう? もっと明確な目的があったはずなのに。
「ふふふ…… これがファンタジーの世界のお約束さ。誰も逆らえない」
ついに爺さん登場。もうこんな大事な時に。
「爺さんは邪魔しない! こっちにはゾーコがいるの」
「ちょっとテルファー! ゾーコって誰? 新メンバーなんて聞いてないよ? 」
「いいからカズは大人しくそこに。臭いだってまだ取れてないだろうが」
どうやら僕はまだ入ってろと言うことらしい。
それは入るさ。もう目的を失ったんだから。
今夜は徹底的に入ってやる。もうやけ風呂だ。
「もう少し我慢してねカズ君」
「それでゾーコって? ねえってば! 」
ダメだ。二人は行ってしまった。残るは爺さんとゾーコだけ。
あれ…… そう言えばゾークはどこに? 混乱の中で先に上がったか?
それから五分が経ってもゾーコは動こうとしない。
爺さんも帰ればいいのにまだ監視を続けると聞かない。
こんなに聞き分けの悪い爺さんだったっけ?
「ゾーコちゃんもそろそろ上がって! のぼせちゃうよ」
心配したアンがゾーコの手を引っ張り風呂から強引に上がらせようとする。
「でも…… 」
どうも緊張してるらしい。
「ほらカズ君は見ないの。ゾーコちゃんってば慌てて入ったから着てないんだ。
ねえゾーコちゃん? だから見ないであげて」
「そうだぞカズ」
テルファーも堪らず戻って来る。
アンと着替完了。これでゲームオーバー。僕の楽しみは奪われた。
「分かってるよ。知らない女の子にそんなことする訳ないだろう? 」
だからって気を使って先に出る訳にも。臭いをどうにかしないとならない。
そう言えばゾーコもずっとここにいたことになる。長風呂だな。
もしかして目的は僕と同じだったりして。
「うわあ! 何を? 」
いきなりセーフティゴーグルを装着させる爺さん。
これでは見えるものも見えないじゃないか。
「ぐふふふ…… お仕置きじゃ! では一人で楽しむとするかの」
「ちょっと外してくださいよ神様! 」
「ダメだな。神を蔑ろにした罪だ。しっかり反省してもらわんとな」
こうしてまたしてもファンタジーの神の妨害でゾーコの裸が見れない悲劇が。
まあいいか。見たことも会ったこともない子の裸を見たいとは思わない。
でもこの爺さんはそうでもないらしい。
「いつになったらこのゴーグル外してくれるんです神様? 」
「フン。どんなに早くても一時間は無理だな。その間反省するように」
怒ってるか。まあ当然だよね。神を恐れぬ愚か者だからな。
「ではお先にもう充分臭いは取れたので」
結局テルファーが大げさ。あるいは徐々に臭いは取れて行ったんだろう。
「うむ。それは立派な心掛け。では行くがよい」
この爺さん大丈夫か? それだとただの覗き魔だよな。
まあ後のことはどうでもいいや。ゾークを追いかけるか。
先に行くんだから困るよな。それにしてもいつの間に?
こうして運悪く今回もテルファーとの約束を果たせなかった。
でもどっちも悪くない。混浴だから起きたことさ。
ぐふふ……
爺さんの嫌らしい声が響く。もう見てられないし聞いてもいられない。
アンとテルファーが消え代わりに爺さんが残った。
ちっとも嬉しくない展開。もうどうでもいいよ。
それにしてもゾーコって誰だろう? ここで知り合ったお友だち?
そうだとしたらこの覗きの爺さんから遠ざけてあげないと可哀想。
でももう爺さんは僕の話など聞いてない上に眼中にない。
ゾーコにロックオンしてしまった。
今日知り合った大人しい女の子を爺さんに捧げるんだから僕も酷いよな。
それにしてもゾークはどこに? 一緒に臭みを取っていた同士なのに。
何も言わずに勝手に先に帰るなよな。
どうでもいいけどこのモヤみたいなのどうにかならないの?
足元がよく見えないんですけど。
「ちょっと…… 」
ゆっくり退場してると後ろから嫌がる声がする。
どこかで聞いたことがあると思うんだけど気のせい?
「おいカズ! 悪いな。今度は二人っきりで楽しもうぜ」
「いやいいよ別に」
テルファーは大胆だけどどうも何歩も先を行くよう。
一緒に楽しめるはずがない。できるはずがない。
分かってるんだそんなこと。単純じゃないさ。だからもういいんだ。
僕には父さんにアンにハイだっているんだから。そう言えばゾークもいたな。
「いやあああ! カズ君助けて! 」
これは本当に聞いたことのある声。でもそれも空耳だろう。
ゾーコの正体が誰かなどどうでもいい。悪いなゾーコ。僕は耳を塞ぐぞ。
「おいおい面白いから見て行こうぜカズ。見物だろう?
あの爺さん何だかんだ言っていつも覗いてたからな。
これもあの変態をどうにかまともにするためだと思って楽しめ。ははは! 」
テルファーはとんでもないことを言う。
仕返しで爺さんをまともにするってどう言うことだ?
まったく意味が分からない。
「もうテルファーってば意地悪しないで。ゾーク君だって困ってるよきっと」
アンがゾーコがゾークだと認めた。
するとあの残された女の子らしき人物はゾークの変装。
でもなぜそんなことする必要がある?
続く




