知らない振り
スローの恐怖。
僕たちだけでなく父さんたちまで捕まる緊急事態。
こんな時に頼れるのがハイ。どうせまだ島中を駆け回ってるんだろうな。
疲れてその辺の原っぱで寝てるかもしれないが。そんな奴にしか頼れない状況。
救世主ハイはいつになったら僕たちを助けてくれるのか?
「おいカズ…… やっぱりあの爺さんに頼もうぜ? 」
こだわるテルファー。でもこのピンチの場面でも現れない以上期待できない。
「無理だって。どうせケチだから」
期待する方がどうかしてる。今頃どこかの店で寛いでるだろうさ。
わざわざ離れ小島になど来やしない。来たとしても僕たちを助けるとも限らない。
あの爺さんはファンタジーの神であって僕たちを守るお助けキャラではない。
ただ健全なファンタジーの世界を守ってるだけだそう。
どうせ今頃は団子食って茶でも飲んでそろそろ昼寝しようと考えてる頃さ。
当てになるはずがない。
「おいそこ! 何度言えばいい? お前たちもだぞ? 」
魚顔たちはやる気がなさそう。ただの見張りだと正直飽きるだろう。
でも人が増えた分だけやりがいがある。ただその分一人に対する監視が緩む。
皆で力を合わせればきっと何とかなる。
仲間を信じて自分を信じれば絶対突破口が見つかる。
ははは…… でもそれは通常の場合か? スロー状態ではどうする事もできない。
だからって大人しくもしていられない。動くだけ動く。
「なあ自己紹介ぐらいさせてくれよ」
テルファーが頼み込むと無駄だが好きにしろと投げやり。
これでますます隙ができて動きやすくなった。
「初めましてカズです。旅行中に逸れて…… どこに行ったのかなあいつら? 」
まずは僕から。多少真実を混ぜて自己紹介。真面目にやらないと笑いそう。
早く来てくれよハイ。このままだと何か起こりそう。仲間割れかな?
「それはわざわざどうも。僕はゾークって言います。よろしくねカズ君」
そう言って握手を求められる。もちろん止められるが。
ゾークって何を考えてるか分かり辛いからかこう言う時には有効。
「こちらこそゾーク。顔色が悪いが大丈夫か? 」
魚男にゾークの異変を知らせる。
いつものことは言え心配だ。この極限状態でゾークは限界かもしれない。
「お前らはもういいからさっさと続けろ! 」
どうやらゾークと長話させるのは危険と踏んだよう。
でもどうすることもできない以上そこまで騒ぎ立てなくてもいいのに。
「よし次だな。テルファーって言うんだよろしくな!
ちなみにカズの妻だ。以後よろしく」
テルファーがとんでもない設定をぶち込んで来た。
なぜ余計なことを言う? さっきまでちっとも夫婦らしくしてなかったのに。
「ほおどうも頭の切れそうな…… あんたの父さんは凄い立派そうに見える」
どう言う訳か僕を褒め自分までよく見せようとするセコイ父さん。
そんな父さんは嫌だな。
「はあ…… それでそちらのきれいな人は? 」
「はい。私はアン。貧しい子たちに勉強を教えてます」
アンは真面目だ。嘘にまで品がある。さすがだ。
でも確かここには母親の薬をもらいに来たんじゃなかったっけ?
「よし全員自己紹介を終えたな? もう充分だ。後は大人しくしてろ」
魚男はやる気なし。後を任せて自分は見回りに行くと。
どうやら疲れたよう。それはそうか。僕たちが引っ掻き回してる訳だから。
「あの初めまして。改めて自己紹介を」
真面目なアンが魚顔たちに挨拶をしようとする。
だが当然拒否。大人しくしてろと釘を刺されてしまう。
「ねえあなた? もう少しくっ付いてましょう」
ロープで縛られてる訳でなくただ監視付きなだけで自由だからテルファーが絡む。
別に二人っきりの時なら構わないけど何も今することか?
「おいお前たち! 」
「放っておけ。夫婦なら構うことはない。どうせ何もできないさ」
一人が注意しようとするが好きにさせておけともう一人が。
どうせボスが帰って来るまでの間だから構うなと。
こっちとしてはハイが助けに来てくれるまで辛抱強く我慢するしかない。
「ほらカズ。恥ずかしがるなよ。二人は夫婦なんだからよ」
テルファーが大胆で積極的。できるなら本当に人のいない時にして欲しい。
「おいテルファー! 皆に見せびらかしてどうする気だ? 」
コソコソすると余計に疑われる。
「いいからお前も協力しろって! 爺さんを召喚するんだからよ」
どうやら僕たちがイチャイチャすれば爺さんが来ると思ってるらしい。
それは逐一監視してる場合のみ。今は恐らく寛いでるって。
いくらファンタジーの神だとしてもそう簡単には来ないさ。
「いいからもっと激しく! 」
「分かったよ」
三人に見せつけるように。何て恥ずかしいんだろう?
あれ…… 父さんたちの様子がおかしいぞ。
これも爺さんを呼ぶための儀式のようなもの。真に受けなくてもいいのに。
巻物集めにへんてこな島に舞い降りた僕たちに待っていたのはおかしな顔の種族。
自己紹介などまともにするはずもなく得体が知れない。
決して強い訳ではないがどう言う訳かスローを操っている。
幻覚かもしれないがどうもアニマ博士が作ったものをこの島全体にばらまいたと。
風の影響もあって周りの地域にも影響してるかもしれないが平和なら影響は僅か。
恐らく気づかないだろう。ただこの状況は長続きせずに明日の午後には元通り。
だが奴らのボスが戻ってくれば処分されるのは間違いない。
ほぼ全員捕まってどうにもならない状況。僕たちに残されたのは救世主ハイのみ。
ハイには父さんがふざけてハイスピードを付与しておいた。
これは昨夜のこと。レストランテ・ハイプライスに感動して。
朝から妙に興奮してるなと思ってたんだ。
だからこそ僕たちのピンチに気付かずに島中を駆け回ってる訳だ。
スローの影響を受けてもハイなら問題なく動けるはずだ。
「ちょっとテルファーってば! 」
必要以上に絡んでくるテルファーをどうにかしたいがおかしかことを言う。
大体人前でそんなことできるか。父さんだっているんだぞ。
「ほら恥ずかしがるなよ。昨夜の続きをしようってんだ」
うわ! 何を? 昨夜は僕たちは会ってないことになってるのに。
もう父さんも見れない。アンはどうしようと見回す。
アンも昨夜はテルファーと一緒にふざけて僕をいたぶった。
だから焦る。もうテルファーってば迷惑ばかりかけるんだから。
ゾークはもう吐きそう。現実を受け止めきれずに体調を悪化させたらしい。
続く




