我慢の限界
昨日の約束を忘れてなかった。
それどころかこの時を心待ちにしていたよう。
ただ一人では心細いのかアンを無理やり誘ったらしい。
そんなテルファーは口ではからかうが実際は恥ずかしがり屋さん。
僕には分かるんだ。いや誰だって自分のすべてをさらけ出すのは勇気がいる。
そんな勇気を振り絞って来てくれた彼女に僕は応えてあげられない。
体が拒絶してるはずもなくファンタジーの神の怒りを買ったのでもないだろう。
すると考えられるのは昨日と同じ理由。
「おい見えないって何だよ? せっかく楽しもうとしたのによ! 」
テルファーの怒り爆発。でも僕にはどうすることもできない。
「それが昼に爺さん呼んだ時についクーリングオフして新しいのに交換したんだ。
まだ一日も経ってないだろう? あれって少なくても八日間は返品可能なんだ。
グレードアップ版に交換。それがこのシームレスグラスでその効果は半日で……」
だから見えない。いくら見ようとしても肝心なところがぼやける。
「おい言い訳はいい。しっかり見てくれよ! 」
とんでもないことを言う。からかってるのではなく本気のよう。
「僕だってできるなら見たいよ。でも無理! 」
見えなかった。あれだけ目の前にいるのに見えない。これはある意味呪い。
あの爺さんに会ったばかりに呪いを受けたに違いない。
「そうか。あの時は十二時過ぎ。半日ってことは少なくても十二時間は効果継続。
すると零時まではやっぱり外れない。ははは! 面白い奴! 」
ダメだ。テルファーってば笑ってる。アンの方はまだ理解できてない様子。
「するとこんな風に裸になってもまったく見えないってこと? 」
アンがなぜか大胆な行動に出る。
いや僕だから助かってるんであって他の人で試しては絶対にダメ。
「見えない? だったら問題ないか」
「でもよく見てみろ! こいつってば一丁前に大きくなってるだろう」
またとんでもないことを言うテルファー。あまりに下品でついて行けない。
ここでふざけて笑いを取ってどうする?
ここは励まし合って解決策を見つけるべきだろう。
いや解決策は簡単さ。見なければいいだけ。
大人しくしてればいい。見ようとするから難しくなるんだ。
それに十二時になればグラスの効果も切れる。
「どうしようテルファー? 」
「そうだな。洗ってやるか。そうすれば少しはまともな人間になるさ。
カズがあのおっさんみたいになったら他の奴に迷惑だからな」
どうも悪ふざけでもなさそう。本気でやる気に見える。どうしよう逃げ場なし。
「待ってくれ! あとニ十分も待てばきっと元に戻る。それまで我慢してくれ」
無理だとは思うが頼む。
「うるせえ! 大人しく洗われりゃあいいんだよお前は! 」
ハイなテルファー。どんどん言葉遣いが雑になって行く。
「そうだよ。じっとしてようね」
上品だけど決して反対はしない流されやすいアン。
テルファーの悪ふざけに乗るなんて信じられない。ただの同類さ。
「うわ! やめてくれ! 来るな! 」
「ははは…… 往生際の悪い奴め。いいから遠慮するな」
二人して僕の体を無茶苦茶にしようとする。
これは何だ? 拷問か? 悪夢か? もしかしてご褒美?
どっちとも捉えられるからどう反応していいのか分からない。
「だから十二時の鐘が鳴ってから頼む! もう少しだからさ」
「ははは! 甘いこと抜かすな! やるぞアン! 」
「もう仕方ない。付き合いましょうか。ごめんねカズ君」
テルファーは諦めるとしてもアンまで一緒になってやるなんて酷いよ。
「だからさ…… 見えないんだって。それじゃ二人とも楽しめないだろう? 」
苦し紛れの言い訳。同情してくれるはずないか。
「うわ…… そこはやめろって! デリケートな部分だから雑に扱ってはダメ」
「お仕置きだからいい! せっかく楽しもうとしたのにまた爺さんに嵌められて。
こっちだって怒ってるんだからな! 」
怒ってると言うがこれはどちらかと言うと楽しんでいる。
「熱いってアン。もっと優しくぬるいのがいい。ヌルヌルヌメヌメでお願い」
「ほら大人しく。お姉さんが洗えないでしょう? 」
言葉遣いが上品でもやってることは無茶苦茶なアン。
頼りのアンがこれではどうにもならない。
こうしてお姉様たちによる悪ふざけはどんどんエスカレートしていく。
おお神よ! どうぞこの哀れな子羊をお助け下さい。
もはや神頼み。でもファンタジーの神は退場したから戻ってくる訳がない。
それでもこの苦しみだか喜びだかから解放されるなら。
「フォフォフォ…… だから言っただろうに」
なぜか心に話しかける爺さん。幻聴か? でもきっと存在するんだろうな。
「爺さん! ふざけるな! 」
つい怒りがマックスに。どうしてこんなものを?
お陰で何も…… いやギリギリまでは確かに見える。シルエットレベルなら。
でも僕の求めてるのはこれじゃない。どうしてこうなるんだ?
「フォフォフォ…… 同情はする。しかし今回は自分が忘れていただけ。
あの時きちんと説明した。装着すると半日取れなくなると。
それが大体十二時。だからお前には悪いがこれは仕方がないことだ」
ファンタジーの神は今回は悪くないと。確かに僕が悪いさ。
情けないしどうしようもない。でも待てよ? 果たしてそうだろうか?
あのセーフティゴーグルは十二時まで外せない。見た目にはないよう。
重くなく邪魔でもないので装着してるの忘れたが結局初めから半日は無理だった。
それは今夜楽しめないことを意味する。
ファンタジーの世界を守るための処置とは言え酷いじゃないか。
「やっぱり爺さんがロクなものを渡さないからこうなったんだろうが! 」
もう怒りはマックス。二日続けてのお預けを食らわして何を考えてるんだ?
「人のせいにするでない! お前が選んだ道であろう。最後まで突き進め!
己の信念を貫き通せ。それが勇者であろう?
ファンタジーの世界に相応し者になって戻って来い! 」
「爺さん…… いえ参りました師匠! 」
「うむ。師匠は言い過ぎだが分かったならそれでいい。それでブブブ…… 」
急におかしくなったと思ったら鼻血がドバドバ垂れて来る。
あっと言う間に周りは血の海。まさか惨劇でも起きたのか?
続く




