テルファーの企み
町一番の高級旅館で一泊。
現在十一時三十分。
急がないとシャワーの時間が終了してしまう。
そんな時に前の客に絡まれるトラブル。
何とその正体はファンタジーの神。もう時間がないのにおかしな説得される。
本当に迷惑なんですけど。
ファンタジーの神はいつだって優しく協力的じゃなきゃ。
言葉が悪くてもしっかり僕たちを見守っていて欲しい。
できればただの変態爺ではなくまともな人であってくれたらな。無理だけど。
「そう何を隠そうこの世界を司る神。その名もファンタジーの神だ。
そのファンタジーの世界を壊そうとしてるのがお前でありあのテルファーだ。
情けないではないか。女に現を抜かし鼻を伸ばして。それではお前の父と同じだ。
それでもいいのか? ああん! 勇者・カズ! 」
そんな風に理性に訴えかけても無駄。無駄だって。
僕は勇者ではない。ただの冒険者で合成師。今はまだ子供だし。
「でも僕まだ子供だから…… 」
「ならば余計に行かん! 何を考えてるんだこのクソガキが! 」
説得でも諭すでもなくただの悪口になってるぞ。僕が悪いのか? 違うだろう。
二人の邪魔をする爺さんが悪い。いい加減しつこいんだよな。
おっと…… つい心にもないことを思ってしまう。悪い癖だ。
「何だと! しつこい? 聞き捨てならん! そこに座れ! 」
正座させられて反省文まで書かされる。もう本当にやってられないよ。
だから時間がないんだって。爺さんの世話はまた明日にでもゆっくりするから。
ここはできれば大人しく寝てくれないかな。
まずい…… またしても心にもないことを思ってしまった。
でも何度も言うが思うだけで言ってない。だからギリギリセーフのはず。
ただ神にはすべてお見通しと言う訳だ。
「神様! それだけはご勘弁ください! 」
一応は謝罪の気持ちを示す。もちろん形だけどね。
大体ピンチの場面で助けるならそれは救世主でひれ伏しもするけどさ。
ここはフィールドではなく町なんだからこっちの好きにさせてよね。
どうもこの爺さんはお節介だから困る。
テルファーだっていいって言ってるんだから放っておいて欲しいな。
「おいカズ! 聞いておるのか? 」
「いいからもう出て行ってよ! 客でもないのに勝手に使って!
後三十分でシャワー室の電気が切れるんだからさ」
急かす。もうこれ以上余計なことされても迷惑でしかない。
何考えてるんだ? このファンタジーの神様はよ。いつもいつも邪魔ばかりして。
チャンスを逃すだろう? せっかくテルファーがその気になってるんだからさ。
「よかろう。では忠告はした。後は好きにしろ。もうどうなっても知らん!
一緒にいてやりたいが刺激が強すぎるので今回は遠慮するわ」
こうして余計なのが退場。もう本当に三十分切った。
ではシャワー室で一汗を流して…… きっと合図があるはず……
昨夜約束して昼間だってしつこく言ってたのはテルファーの方。
危うくテルファーが離脱するところを頭脳プレーでどうにか回避。
さあもう本当に邪魔はいらない。早くテルファー来てくれないかな。
うん? 出て来ないぞ。故障させたなあの爺。どうして邪魔ばかりするんだよ!
ファンタジーの神の計らいってただの余計なことじゃないか。
故障なら仕方ない。では隣のシャワー室を利用するか。
それにしても贅沢だな。この町で一番の宿屋だからな。
うん…… 赤いけどこのマークって何か意味あるの? あっちは青かったけど。
初めてだから…… 父さんに聞いておけばよかった。
でもきっと父さんは真面目に答えてくれないんだろうな。
まあいいや細かいことは。それではさっそく使おうっと。
うん気持ちいい。冒険の後のシャワーは最高だな。
それにしてもテルファーはどこ? 忘れたか怖気づいたかだな。
まあ仕方ないさ。それが人間。僕だって少しだけ後悔してるもん。
「ヤッホー! 」
ははは…… ここは山じゃない。田舎者が騒いでるな。
それとも爺さんがまだ小細工してる? だからって関係ない。無視無視。
さあ体を洗ったら今度は…… うん? 声がする。たぶん女性の声だ。
しかも一人じゃない。二人が何だか楽しそうにお喋り。
まずい。まずいぞ! まさかここは女性用シャワー?
すると僕は今とんでもないことをしてしまってるのか? どうしよう?
あれ…… 目に違和感が。何だか重い気がする。どうしたんだ?
まずい! どんどん近づいて来る! 隠れなきゃ。ダメだ! 間に合わない。
まずい。これではゲームオーバーだ。爺さんの言うことを聞いてればよかった。
今更後悔しても遅いんだよね?
「うん? 先客? ヤッホー! 」
「ほらテルファー」
このシャワー室にはシャワーが二つあるので一緒に入ることもある。
爺さんが間違ってシャワーノズルを壊し使用不能に。
もう一つはいくら回しても捻っても出て来ない。
だからこっちに移った訳だけど……
「きゃああ! 」
アンが叫ぶとテルファーが口を押える。するとテルファーのタオルが外れる。
これはとんでもないハプニング。しかし予想できた。昨夜言ってたことだから。
「おいおい律儀だな! 待っててくれたのかカズ? いやただの変態か? 」
そう言いながら大笑い。きっとからってるんだろうな。
「もう何するのテルファー! 最初から変だと思ってたんだ。
一緒にシャワーに行こうなんて。二人がそうでも私は関係ないでしょう? 」
怒りのアン。確かにその通り。なぜテルファーはアンを連れて来たのか?
「悪いな。でも大丈夫だ。まだ被害ないだろう? 」
一応はタオルで隠してるが見ようと思えば見えなくもない。
でもさすがに図々しくはできない。
騒がれたり悲鳴上げられたらお終いだから。その時のためのテルファーだけどね。
「そう言うことだからアン。悪いな。それでカズはきちんと全部見れたか? 」
そう言ってからかう。でも何を考えてるんだろう? 人にそんなに見せたいか?
どう考えてもどこかおかしい。異常だ。まるで僕を愛してるよう。
いや実際は子供だからその辺のところはよく分からない。
テルファーの企みは成功したのか?
「それが見えないんだ…… 」
「おい冗談だろう? 眼鏡ないだろう? 」
テルファーの疑いの目。それはアンも同じ。
僕だってそうだ。でも事実見えないものは見えない。
一体どうしてしまったんだろう?
考えらえるのは僕の体が拒否反応を起こしたかだが…… それはさすがにないか。
するとファンタジーの神による罰。呪いだろうか?
でもどっちも違う気がするんだよな。
続く




