壊れたシャワー
港町・ドラクリオの夜。
町長の依頼を受け巻物探しをすることに。
別れて調査するも手掛かりがないとどうにも。
十時になり宿に戻る。
どうせこの短い間では誰も何もできなかっただろうさ。
それでも一応は聞いてみる。何だか自慢して来そうで嫌だけど。
「それで父さんとアンはどうだった? 」
「バーに行って楽しんだよ。でもガードが固くて行けねえな」
そんな風に真面目に探そうとしない父さんにはお仕置きだ。
テルファーの怒りの三連続ボール。
「おいおいどこを狙ってるんだよ。ここだここ。もっと右。
お前から見て左に投げろっての! 」
なぜか投げ方を教えようとするどこにでも出没するコーチ魔。
だがテルファーは構わずに続ける。
「うげ! 痛い! 」
テルファーの怒りのスイーパーが直撃。
父さんは想定外のことに堪え切れずに吹っ飛ぶ。情けない。
それでも怒りは収まらずにもう一発。
するとまるで追撃砲のように父さんの方に向かいかわそうとジャンプするが直撃。
痛がるところを見てようやく機嫌を取り戻した。
これからのこともあるのでよかったかな。
「おお痛! 話を聞けテルファー! 何もアンと楽しく飲んでたんじゃない。
情報をキャッチして訪ねて行ったんだ。そうだよなアン? 」
「はい。こっちにあるんじゃないかと勝手に連れて行かれまして。
それでそこのマスターが偶然巻物を持っていたんです」
「ほら見ろ。俺たちはクエストに一生懸命だったんだ。
お前らは歩き回ったが結局何も見つけられなかった。そうだろう?
無駄に歩き回ったお前たちより立派さ。なぜ巻物をゲットした俺を責める? 」
父さんの隙のない反論でテルファーが追いつめられる。
「悪かったな…… てっきり楽しんでるとばかり…… 」
テルファーが素直に謝る。珍しい。ただ調子に乗った父さんは嫌らしい目つき。
ろくでもないお願いする気だろう。
「もういいよ。テルファーだって皆だってよくやった。今日はゆっくり寝よう」
父さんの言い訳はもう充分。場の雰囲気が悪くなるから僕が仕切ることに。
おいカズお前は何もしてないだろうと攻撃的だ。でも誰かがまとめないと。
きちんとコントロールしないとまたトラブルが。
何と言っても僕はお世話係だから。
「それで調子に乗ってボトルキープしたから随分掛かってよ。
町長に請求しておけ。経費まできちんと持ってくれるはずだからよ」
結局ただお酒を飲んで運よく巻物をゲットしただけじゃないか。
とにかくこれで三巻だ。残り四巻見つければ竜神様に会える。
できるならドラゴンアイランドへの道のりを教えてもらえたらな。
それから大きなアトリエも紹介してもらえると助かるんだけど。
まあそれはさすがに無理かな。
十一時になりハイもゾークも父さんも寝室へ。
山越えの上に武蔵と太陽の化け物に巨大アリクイと体力など残ってない。
その上巻物探しまですれば子供だけでなく大人だってもう眠くて仕方ないはず。
僕だってどうにか耐えてるが欠伸が止まらない。
気力でどうにか保ってるが今すぐにでも寝たい。
そんな無理してまで夜更かしするのにはちょっとした訳がある。
でも今はゆっくり体を休めたい。ただそれだけ。体を休めるのも冒険者の務め。
皆が寝た頃にゆっくりのんびり温泉に浸かるのが密かな楽しみ。
ただ今夜の宿は温泉ではなくシャワーのみ。ちょっぴり残念。
うわ…… ハイの奴だらしない。これは父さんの忘れ物だ。
シャワーだけだから一人十分もあれば充分。
だから一時間経った今はもういびきを掻いてる。
疲れたからぐっすりさ。寝れなければ特製のドリンクを飲ませればいい。
体調が優れないと言っていたゾークもそれで眠りに落ちた。
完全に寝たのを確認してからシャワー室へ。
世話係だから人が寝た後もいろいろと動かないといけない。
明日のこともあるし経費や細かい計算も父さんに任されてる。
本当はこう言うのはテルファーでもいいが別料金取られそうなので遠慮してる。
ではそろそろシャワー室で汗を流すとしますか。
今日はさすがに邪魔はないだろう。ただ逆にテルファーが忘れてるパターンも。
ワクワクドキドキしてさっきからどうにもならない状況。
「おいそこの若いの! 」
シャワー室から男が出て来た。何をしてるんだこの人? かなり怪しい。
「僕ですか? 」
「そうだ。お前しかいないだろう? 時間稼ぎはいい。どうも臭うんだよ」
どこかで聞いたような…… 昨夜とまったく同じシチュエーション。
昨夜は廊下にレアアイテムを広げたおかしな爺さんだった。
ファンタジーの神を自称するおかしな爺さん。
変装してるけどこの男ももしかして……
「僕が臭う? 確かにずっと冒険してて今もクエストしてたから汗臭いと思うよ。
だからシャワーしに来たんじゃないおじさん」
おかしな人に絡まれたな。どうも見たことがあるような気が。
やっぱりあのファンタジーの神なんじゃないのか?
「違う! 臭うと言ったのはそうではなくお前から危険な香りがするんだ。
だからシャワーなど浴びずに急いで部屋に戻れ! 大人の言うことは聞くものだ」
まるで怒ってるみたいだけどたぶん違う。これはただ言い辛い感じなんだと思う。
シャイで言葉選びが下手。ゾークもそう言うところがあるがそれでも聞き取れる。
しかしこの人は初めてだからな。でもやっぱりどこかで見たことがあるんだよな。
「実はシャワーの調子が悪くて苦労した。お前もきっと苦労するだろう。
だから子供は大人しく寝なさい」
うるさいな。こっちの勝手だって。汗かいてるんだから早くシャワー浴びたいよ。
これじゃ気持ち悪くて寝れない。
「おじさんの言ってることが変。そろそろ正体を現したらどう? 」
もう我慢できない。ただの怪しい人。子供を誘拐するやばい人かただの爺さんか。
「フォフォフォ…… 気づいておったかカズ? 鋭い。いい勇者になれるぞ」
そんな風にいい加減なことを言う。
「やっぱりあなたは爺さん。それもファンタジーの神ですね? 」
追及するとようやく正体を現す気になったらしい。
疫病神登場。これで一気に雲行きが怪しくなる。
僕とテルファーの二人っきりの楽しい時間を邪魔しないで欲しい。
続く




