レストランテ・ハイプライス
いつになくご機嫌な父さん。
高級そうなレストランに連れて行ってくれると。
ハイはもう堪らないと涎を垂らしてる。うわ汚ねえ!
「太っ腹ですね親方! でも六人分っすよ」
「そうだろハイ? 大丈夫。高くてもドラゴンカードがあるからどうにでもなる」
そんなお気楽なことを。でもこの店で使えるかな?
テルファーの支払いはジャックの教えで現金払い。
だから今日までにカードを使う場面はなかった。
マーケットでは当然現金払いが基本。
ロープウェイも馬車代も現金で。
『レストランテ・ハイプライス』
お洒落なライトに照らされ読めない暗号のような文字が浮かび上がる。
その下にもぎっしり何か書いてあるが読む気がしない。
「ここがいい。ハイだとよ。お前の名前があるぞハイ? 」
父さんはもう酔ってるのかと疑いたくなるほど上機嫌。
それほどアンとの出会いが嬉しかったんだろうな。
でもあっちは何とも思ってないだろう。どうせ父さんの勘違いだし。
相変わらず女の人には弱いんだから。息子として恥ずかしいよ。
「ちょっとここは…… 」
地元と言うだけあってアンはこのレストランも当然知ってるのだろう。
アンが止めようとするがテルファーは気にしない気にしないと適当でいい加減。
「ねえカズ君。ハイプライスってきっと…… 」
ゾークは僕に次いで常識人だ。
テルファーだってこのレストランぐらい知ってるはず。
でも何も言わず放っておくとは酷いな。僕の家が破産しちゃうよ。
目が飛び出るほどの値段だって笑いながらテルファーが。
「大丈夫かな? 」
「いいから行こうゾーク。父さんならきっと何とかしてくれるさ」
どうにでもなる。何って言ってもドラゴンカードが……
うわまずい! そう言えばドラゴンカードは僕が黙って借りてたんだった。
たまに高くて手が出せないレアアイテムをこっそりこの万能カードでお支払い。
返すタイミングが難しくて返しそびれていた。
父さんに言われた時に返せばよかったんだけどついつい後回しに。
これが僕の少ない欠点の一つだ。
仕方ない。ここは後払いで。すぐにクエストするか洞窟に潜るかしかないな。
「これは美味い! 」
「そうっすね。親方」
バンバン頼むがまったく料金を見ない。僕も怖くて見れてない。
ゾークは確認してるが声にならないほどの驚きよう。
今朝取れた魚介類を使った店名物のシチュー。
この時期だから暑くて仕方ないがでも美味しい。
これで充分腹一杯なのにドンドン出て来る。
ダイオウイカの姿揚げ。
深海を潜った時にたまたま見つけたそう。一年に一回の超レア。
価格はまさかの時価だそう。カニもエビも高そうだ。
美味しいかどうかなどもうどうでもいい。
続けてグソクムシの踊り食い。
見た目はグロテスクだけどきっと美味しいですからと勧められる。
「痛いよ父さん。この食べ方で本当に合ってるの? 」
「いいから黙って食べろ! 田舎者だと思われるだろうが! 」
「でもさ…… 血が出るんだよ。何か痛いし」
「ほら隣の男も同じように美味そうに食ってるだろうが。
間違ってない。これがグソクムシの基本的な食べ方。
もっと違うのがいいなら最近の流行りの食べ方してもいいがな」
どうも言ってることが怖いし怪しいので遠慮する。
そもそもグソクムシ自体が僕にはちょっと……
グロいと言うか本当に食べていいものか。まるで冗談。
もう無理とゾークとアンが食べ残す。仕方ないので残りの者で食い尽くす。
父さんとハイはいつもだから分かるがテルファーはとんでもない胃袋してるな。
言っては悪いけど化け物か?
「どうしたのカズ? 」
「いや…… いいんだ」
最後に生魚のアニサキスまみれを食す。
もう一口も入らないので父さんに任せる。
本当は食べたいけどマローンおばさんが生魚には気をつけなといつも言ってた。
だから本当に残念だけどアニサキスまみれは手を付けないことにした。
すると父さんは僕が食べれないのをいいことに美味い美味いと大げさ。
分かってるんだよ。それが物凄い美味しいって。でももう限界。
デザートは港町ならではの特別メニュー。
その名もウオーターメロンの滅多打ち。
直前に親子連れから頂いた余りを提供するのだとか。
ここで経費削減をするらしい。ちゃっかりしてるな。
いつもあるとは限らない夏限定メニューだそう。
完食!
いやもう限界だって。お腹が膨れてどうにかなりそう。子供には多いって。
何だか砂とか汗が混じってる気がするんだよな。
それが味だと父さんは言うけど…… 何でも味じゃない?
「ちょっと待ってくれ! ウオーターメロン滅多打ちって一人一万もするのか?」
ケチをつける父さん。でも時価の上にお任せコースだから文句は言えない。
「お客様。お払いになられませんか? 」
「払う払う! ドラゴンカードでいいよな? あれないぞ」
まずい。父さんが焦り出した。
やっぱりにドラゴンカードがないんだ。僕が借りてたから。
一枚しかないドラゴンカードが父さんのところにあるはずがないんだ。
あんなに焦る父さんを見て笑う僕はやっぱりいけない子?
そろそろドラゴンカードを返そう。これ以上はまずい。
もう二度と貸してくれなくなる。
「父さんこれ…… 」
「大変失礼しました。会計済みです」
どうやら奇跡が起きたらしい。
でもどう言うことだろう? まさかファンタジーの神が降臨した?
でもあの爺さんケチだしな。大体いつも金取って貸してるし。
「あの皆さんお揃いで…… 」
「あれ町長さん…… そうですよね? 」
町長は眼鏡をかけた温厚な老紳士。僕たちに何の用だろう?
「君にも迷惑を掛けたね。ロープウェイは壊れて復旧にはめどが立たない状態だ」
「町長。これからどうすればいいんでしょうか? 」
アンによって一部始終を知った町長。
迷惑料と口止め料と言う形でさっきのを勝手に払ってくれたよう。
しかも町長のポケットマネーだ。
「いや実は今月に入って目撃情報が多発してね。
まさかロープウェイにまで被害があるとは思わなかった」
「そう言えば町の子が目撃したって騒いでた。でもただの冗談だと思ってました」
アンは真面目だから気づくのが遅れた。でも実際遭遇すればあんな化け物だから。
恐怖で叫び続ける訳だ。
「あなたたちが退治してくれたそうだね。改めてお礼を言おう。
それで勇敢な者たちに一つ頼みがある。
どうか竜神の滝に行き竜神の怒りを鎮めてくれないか? 怒り狂っての事だろう」
町長は竜神なるものを語ってくれた。それはまるで僕たちの神であるかのよう。
続く




