夕日からのレストラン
港町・ドラクリオの夕暮れ。
その一角に人だかりが……
ハイを追いかけてると商人風の男に壺を持っているように頼まれる。
五分程度で戻ると言われたので黙って持っていただけなのに酷い言われよう。
しかも周りの男たちもどうも男の方にばかり味方してる。これは何かある。
「さてはお前たちこの男の仲間だろう? または金で雇われたな? 」
数名の男たちの怪しい動きを見てピンとくる。どう考えてもこいつらはグルだ。
するときっと僕みたいな不慣れな奴を騙して金を奪おうとしてるに違いない。
でも残念だけどあるのはこのドラゴンカードぐらい。これは換金できないぞ。
あれ…… そう言えば父さんに言われて…… 返しそびれた。
まあいいか。どうせ父さんが持っててもロクなことに使わないんだから。
「ふざけるなガキ! この方の壺を壊しておいて何を抜かす! 」
「そうだ! 大人しく反省して弁償してやれ」
「あるいは言うことを聞いてやるんだな」
数人の仲間。明らかなのはこいつらだが後ろの野次馬にいてもおかしくない。
「僕は悪くない…… 」
幼く弱い小さな男の子の振りをする。
実際はもう立派な勇者。
巨大アリクイを切り刻んだばかり。成長だってしてる。
だけど野次馬は弱い者の味方。特に大人は子供に甘い。
奴らとの言い合いしても勝てるはずもない。
そもそも相手は少なくても三人はいるからな。嘘泣きでもする?
ただ最終手段の嘘泣きをするのにもタイミングがある。
今は違う。今は奴らの注意を引いて闇に逃げるのがいい。
ただ壺を持ったままだと何かと動きづらい。ここは強行手段に出るか?
「ああん? 何を舐めたこと言ってやがる? 」
「そうだそうだ! 」
「言うことを聞け! 」
怒り狂い脅かそうとする三人組。言ってることはさっきとと変わらない。
しつこくやるから周りも一緒に僕を責め立てる。さすがにそれはないよ。
僕が何をしたって言うんだ? ただ壺を言われた通りに持ってただけ。
それは確かに壊れたのは事実だけどそれは前からで。
言い訳するが弁償するまで許してもらえなさそう。
こう言う時に正義の味方が現れてくれるといいんだけど。
五分経っても現れない。困ったな。
きっと父さんも来ないだろうし。爺さんも当てにならない。
やっぱり主人公だから自分で解決するしかないか。
ではレアイテム合成物のカチコチを壺に塗る。すると壺は元通り。
三十分もすれば戻るがこの状況さえ乗り越えればいいんだ。
後のことは知らない。どうせその時にはここにはいないさ。
ただの詐欺師で人から金を巻き上げようとする最低な奴らだから問題ない。
「おいどうした? 弁償しないつもりか? 」
そうやって何人もで取り囲む。この街はどうやら治安が相当悪いみたいだ。
きっとこうやってここに来る金持ちから巻き上げるつもりなんだろう。
だが相手が悪かったな。最強勇者の上に貧乏人だ。
「さっきからうるさいな。壊れてる? どこが? 確認してみてよ」
壺をカチコチで一時的に固めたのでもう漏れる心配はない。
水で隠れてるので多少痕が残ってても大丈夫。
「はあ何を言ってる? 貸せ! あれ? 」
「おいどうした? 」
「いやそれがよ…… 」
商人と仲間が慌てて壺の確認。野次馬は逆に奴らの方を怪しむ。
慌てた奴らは明らかに仲間にしか見えない。
「じゃあ壊れてないから僕はこれで。もう二度と来ないでね詐欺師の皆さん! 」
そう言うと振り返らずに歩く。奴らも追いかけてまでは来ない。
今度は野次馬たちに囲まれ責められる番だ。
まあ危機を脱したのでもうこれくらいでいい。
僕は優しいから許してやるさ。
再びハイを探す。あれ? テルファーが近くに。ゾークも。父さんとアンまで。
もうどうなってるんだよ。結局僕一人除け者かよ。気分悪いぜ。
「おお…… アンが夕日スポットがあるからぜひにと誘ってくれたんだ」
「そうなんです。そうなんですけど…… 」
アンは言いにくそう。もしかして父さんが勝手に勘違いしてる? 言い出し辛い?
父さんはご機嫌だし怒らせたら怖いと思えばこうなるか。
アンに迷惑ばかり掛けて。僕が何とかしてあげなくちゃ。
「ダメだよ父さん。アンが嫌がってるだろう? 」
「そうなのか? 」
「いえ…… そんなこと…… 」
アンは遠慮して黙ってしまった。
「いいから勝手に僕のアンを連れ出さないで! 」
「何だとカズ! おっといけない。ははは…… 冗談ですよ」
父さんは本気でアンを狙ってるらしい。困ったな…… 迷惑だって分からない?
他はゾークがテルファーを誘ってそこにハイが無理やり。
それにしても一体ここに何しに来たんだ?
「おいおいカズ。そんな目で見るなよ」
「母さんに言うよ」
これで静かになる。
「まあまあ二人とも…… 」
ハイの奴が嫌な空気を感じ取って間に入る。やればできる。
「それでカズ君はどうしたの? 」
ゾークが話を変える。
「それが壺男が現れてさ。大変だったんだから」
トラブルを報告。
「へえそうなんだ。こっちもハイを抑えるのに苦労したんだから」
ゾークはハイとテルファーを奪い合っただけだろうな。
「もう怒らないでカズ。私とカズの仲じゃない」
テルファーが絡んでくる。そして耳元でささやく。今日も一緒にと。
どうやら昨夜の続きがしたいらしい。でも僕は別にそこまで望んでなくて……
ただこのままだとテルファーだけでなくアンまで取られかねないから。
「分かってるって。それで夕日は? 」
「ほれ…… もうほぼ沈んだな」
父さんが笑う。ハイも釣られる。ゾークだけは吐きそう。
体調が優れないなら大人しくしてばいいのに。
このままでは旅も最後まで行けるか分からない。
「よし皆で食いに行くぞ! 」
お洒落な高級宿屋にはもちろんレストランもある。
でもここは奮発して地元の美味しいレストランへ。
港町ならではの新鮮な幸を食べようとらしくない父さん。
だが魂胆は見え見えなんだよな。
どうせレストランが終わったら二軒目に行こうと。
お洒落なバーにでもとアンを連れて行って僕たちは帰らせる。
そんなセコイ真似をしようとしてるんだろう。
子供をダシにアンを独占しようとするんだから。
でもごちそうは大歓迎。それに今夜はアンではなくテルファーと楽しみたい。
うわ…… 何を言ってるんだ?
いつの間にか僕も最低人間の仲間入りを果たしたらしい。
続く




