天罰! 見えないものを見ようとして
テルファーは聞くところによると素っ裸らしい。もちろん見えない。
タオルを巻くつもりはないと堂々としている。だからって見えないが。
見えない! 見えない! なぜ見えないんだ?
オオカミよ! まずいまずい。危うく人喰いオオカミを降臨させるところだった。
では気を取り直してと…… おお! 神よ!
するとすぐに心の中に語りかけてくれた。これはまさに奇跡。
「だから言ったであろう? 欲張るなと。ここはファンタジーの世界。
それを無視して覗こうとするなど…… ブッブワ! まずい…… 」
あれ…… どうしたんだろう? 神のありがたいお言葉の最中なのに。
聞こえなくなった。まさか見放されたのか? 嫌だ! 嫌だ!
辺りを見回しても振り返っても何も…… いや血だ! 血が垂れている。
これは事件発生か? ファンタジーがいつの間にかミステリーに?
ははは…… そんな訳ないよね。それにしても一体この血は何だろう?
ゾークに相談だ。でも体調悪いしな…… 大体もう寝てるか。
「どうしたカズ? お前の後ろに立っていた爺なら走って出て行ったぞ」
テルファーにも見えていた。聞こえていた。奇跡の体験。
いや待てよ…… 爺ってまさか…… ファンタジーの神?
くそ! あの爺覗いてやがったな! しかもきっと見えたに違いない。
「本当にどうしたんだよカズ? お前人格変わってないか? 興奮してる? 」
テルファーがからかうがそれは当然だろう。でも見えないんだけどね。
「あの僕…… 」
何も言えない。今何を言っても言い訳になる。
「なあやっぱり見えてるんじゃないのか? 」
「だから見えないんだって! 」
「ほらよく目を見開いてみろ」
なぜか見せようとするテルファー。もう何がしたいんだか。
「ダメだ。やっぱり見えない。このセーフティゴーグルが見えなくしてる」
仕組みは理解できたが肝心の解除方法が見当たらない。
もうどうしていいか分からずに固まる。
「でもちょっとずつ…… ホラまた大きくなった。これって反応してないか? 」
「いや誤解だ。大体見えなくてもたまにあるし周りは普通に見えてるんだって」
「へえ…… でもそうは見えないけどな。もう我慢できずに倍に。いや三倍か?」
メインヒロインのテルファーのとんでもなくはしたない言動にはついて行けない。
どうしてもう少しまともな反応ができない?
「見るなって! そっちばっかりずるいぞ! 」
つい恥ずかしさからおかしなことを言ってしまう。
ダメだ。これではますます相手のペースに。これからどうなるんだ?
「ははは…… いい加減隠せよ! こっちが恥ずかしくなるぜ」
どうも今度のヒロインはかわいいやきれいより格好いいが似合う。
感覚も言葉遣いも男っぽいし何だか雑なんだよな。
それだから逆に助かってる部分もあるが。
「いいだろう? ここは温泉なんだから」
「ははは…… まあそうだな。一緒に楽しくやろうぜ」
「まさか父さんがいきなり泊まろうって言いだしたのは…… 」
「そう。ここは混浴だけどどうするってね」
「嘘だろう? 自分を犠牲にするつもりだったのか? 」
「へへへ…… 何か面白そうだったからさ。前に一度ジャックと泊まってよ。
だから知ってた訳だ」
テルファーはベネットへの案内役。当然何度も行っててこの手のことにも詳しい。
まさか父さんとハイがのぼせたのってそう言うこと?
「よし一つ試してやる。後ろを向くから見えるか確認してくれ」
テルファーは余裕だ。からかってるのだろうか? それとも純粋に興味があって?
どっちみち僕は遊ばれてるに違いない。なぜこうなったかは当然分かっている。
あの爺さんがすべて悪い。しかもずっとこのまま。
何と言っても零時を回らないと取り外せないからな。
「ほら見てみろ! 」
どうやらテルファーは本気らしい。馬鹿め。後ろはきっと……
絶望。どうやらお尻にまでセーフティーが掛かってる。もう僕は立ち直れない。
一体何を楽しみに生きていけばいいんだ?
そんな風につい感情的になる。ダメだな。まだ人間ができてない。
決めた! 修行の旅に出よう。そしていつか戻ってこよう。
立派な尊敬される聖人になって困ってる人々を救うんだ。
だからベネットの旅はここで終えようと思う。
父さんたちに後を任せて僕は修行までの間ゆっくりしてようと本気で考えている。
「ははは…… どうやら尻も見えないらしいな。ははは…… 残念でした! 」
はしたなく尻と。下品な。僕を馬鹿にするためだけに何をする気だよ?
「頼むテルファー! もう少しだけ。零時を回ればきっと元通りさ」
こんなこと頼むようなことじゃないけど。
でもテルファーならきっといいって言ってくれるさ。
「見たい気持ちも分かるがな…… お前も男だと分かった。続きは明日にでも」
どうやらテルファーは本気じゃなかった。見せたいはずがないんだ。
だから時間が経ち魔法が解けたら逃げるように去ろうとする。
意外にも情けない。怖がってるだけじゃないか。格好悪いぞ。
「いや待ってくれ…… 今じゃなきゃ嫌なんだ! 」
「ははは…… 我がままだな。だが楽しみは後にとっておくものだぜ」
「テルファー! 」
「きゃああ! 」
らしくない声で驚かす。テルファーだってやればできるじゃないか。
すると遠くから足音が。
「おいテルファー? 」
「悪いな。のんびり付き合ってられないんだ。お前は最高だよ。
だから特別に明日楽しませてやる。今度はヘマするなよ。
さあ早く逃げな。人が来るぜ」
そう言って急いで逃げるように指示。どうやら本気じゃないらしい。
勢いよく戸が開く。
テルファーに注意が惹きつけられてる隙に脱出。
「どうしました何かありあましたか? 」
駆け付けたのは女性二名。悲鳴に反応したらしい。
「でっかい虫が這ってたからつい…… 」
テルファーの下手な言い訳を信じて帰って行く。
どうにかやり過ごして部屋へ。
そう言えばあの爺さんがいなかったな。まったく人騒がせな爺さんだ。
結局ただ恥ずかしい想いをしただけだった。
せっかくの温泉が全然ゆっくりできなかったな。
でもテルファーは僕のために約束してくれた。
明日見せてくれるらしい。だが当てにはできない。
とりあえず修行の旅はまた今度だな。
続く




