セーフティゴーグル ファンタジーの神からの贈り物
落石村。
危うく親切な村人のお世話になるところだった。
それはそれで悪くないけどこっちには体調不良のゾークがいる。
いつもこうではないが緊張したのか慣れないテントで調子を崩したのか。
だからこそそんなゾークのためにも宿屋でのんびりしたい。
父さんがテルファーに何を吹き込まれたか知らないけど助かった。
さあ情報収集も終えたことだし風呂に入って寝るとするか。
うわ何だあの爺は?
風呂場につながる大きな廊下には不気味な老人が座っている。
肝心なのは立ってるのではなく座っていること。
図々しくも宿の敷地内で軒を構える。
爺さんだからか堂々としている。これでは注意できない。
おそらく宿の人も初めは注意したんだろう。
でもそれでも言うことを聞かずに居座った結果がこれだろう。
無視して通り過ぎるかな。でも何か言ってる気もする。
「そこの君…… 」
爺さんが話しかけて来た。
「僕ですか? 」
「つまらん時間稼ぎをするな! お前しかいなかろう! 」
おかしな爺さんは僕を捕まえ何かするつもりだ。あまり関わりたくないな。
「はあ…… それでどうしたんですか? 」
嫌々ながら答える。きちんと爺さんに僕の気持ちが伝わるといいんだけど。
「宿泊仲間の君にぜひお近付きの印にサービスがしたくてね。
全部一万でいいや。好きなのを持って行きなさい」
そんな気前のいいことを言うが最終的には何かを売りつけるつもりだろう。
分かってるんだからそんな甘くないってことぐらい。
まったくとんでもない爺だ。爺の風上にも置けない。
大体勝手に廊下に商品を並べて商売していいのか?
どうもおかしい。これはもしかして幻? 昔ここで切腹した爺の祟りか?
だったらお祓いして悪霊退散しないとな。
よしここは交渉モードに切り替えるか。
「でも僕はまだ子供で…… 買っても法定代理人の親権者が勝手に取り消すよ。
それにおじさん古物商の免許を持ってないでしょう? いくら行商でもさ。
それからクーリングオフはもちろん効くんだよね? 」
一応はおじさんと行っておこう。どう見ても不気味なマントの爺だけど。
まるで僕を連れて行こうとする死神みたいだがちっとも怖くないぞ。
「ははは! 何を生意気なガキみたいなことを言う? 喰っちまうぞ! 」
「ごめんなさい僕…… 」
「ああ悪い悪い。つい君がファンタジーの世界を無視するから。
こっちも驚かせてみたんだ。よしお詫びの印にこれを一時間ほど貸してやる。
どうだ? とっても役に立つメガネなんだ。一時間後に返してくれればいい。
無理だったら次の日でもいいさ」
随分と気前のいい。立派なお爺さんなのかな?
いやこれだけで信用しちゃだめだ。
「ありがとうございます。ちょっと待って! それで本当に全部一万なの? 」
「ああ今だけの限定価格。一時間以内に申し込んだ者限定サービスだ。
まあ今はそのメガネで楽しんで来るといい」
並べられたアイテムは世界お宝コレクションと言われてもおかしくない代物。
レアアイテムだらけ。それから高価な武器と防具も揃っている。
おいおいこれはとんでもない掘り出し物だぞ。それこそプライスレス。
ヨダレが止まらない。今買わないでいつ買うんだ?
「食いついて来たな。だが今はこっちにするんだ。欲出せばロクなことがないぞ」
爺さんは僕に売りたくない様子。でも僕は欲張りだから。
メガネも借りるしこのレアアイテムだって買うさ。
「仕方ない。よし好きにするといい。だが今手元に現金はあるのか? 」
「いや…… あるのは父さんから借りたドラゴンカードだけ。
ポイントを貯めると何と抽選でドームにご招待だって」
「悪いね。使えるのは現金のみなんだ」
「現金のみか…… それでこれ本当に全部一万? 」
「すべて一万ポッキリだよ。ただ今はこれを試すといいさ」
そう言って無料貸し出しの眼鏡を紹介する。
どこにでもある水中眼鏡。ゴーグルってとこかな。
色は青か緑か赤から選べるそうで僕は青を選ぶことに。
「どうだい? きつくないかな? 」
意外にも丁寧で親切。思ってもみなかった。
何だか裏があるような気もするけどお近付きの印だからと言う言葉を信じる。
「ちっとも」
「これはセーフティゴーグルと言ってもし溺れそうになっても浮く優れもの。
のぼせて意識を失っても浮くので特にお年寄りに。子供にもお勧めだよ」
これはラッキー! 思う存分温泉を楽しめるぞ。
「へえ…… 凄いね」
「最後に。装着すると取り外すには一時間掛かるので注意」
そんな風に気遣う。本当に立派な人だ。どうやら人は見かけによらないようだ。
「それであなたのお名前は? 」
「名乗るような者でもないさ」
「はいそうですか。それではまた…… 」
「おいおい本当にいいのか? 」
「ハイ」
「本当に? 」
あっさり終わるかと思いきやどうも名乗りたそう。格好をつけるから面倒だな。
「お願いします! ぜひあなたのお名前を! 」
「私は神。ファンタジー神だ。君が道を踏み外さないように見守る神さ」
どうやらまだふざけるらしい。もういいや。無視して温泉へ行こう。
急がないと零時までだからな。
ううう…… 脱げない。眼鏡が邪魔でうまく脱げないや。
もう嫌になるぜ。でもこれも仕方ない。我慢我慢。
無理やり外そうとしてもびくともしない。ここはゆっくり脱ぐとしよう。
それにしてももう夜だからか誰も客がいない。何だか寂しいな。
お化けでも出るんじゃないかと本気で心配になって来る。
やっぱり夜のお風呂に一人は早過ぎたか。変で立派な爺さんにも絡まれたし。
父さんもハイも気持ちよく寝ていたな。ゾークはまだ本調子じゃない。
テルファーもどこに行ったのか…… それにしても一緒に寝ていいの?
父さんは二部屋取るなんて冗談じゃないと。テルファーだって文句なし。
問題はテルファーが女の子と言うこと。さすがに僕が守ってあげないとな。
着替えて中に入ると先客が。まさか……
「どうしたのカズ? ブツブツと…… 」
「ははは…… 何でもないよテル…… はあ? 」
おかしいな。なぜテルファーが目の前にいるんだ? だってここは温泉……
続く




