睡眠団子でおやすみなさい
げへへへ……
巨大グモの口から泡が漏れる。
まずい! 完全に気付かれた。どうしたらいい? 僕たちはもうお終いだ。
クモの化け物は僕よりはるかに大きくハイの三倍はある。
そんな化け物グモに捕食されそうになっている。
逃げようとドラコが抵抗するが透明に光るクモの糸が絡んで動けない。
「これを食え! うまいぞ! 」
化け物に通じるはずもなく木の棒はただの飾りにしかならない。
仕方ない。ここは奥の手を使うとしよう。
「ハイ頼む! 」
「ふざけるな! 俺が囮になれって言うのか? 冗談じゃない! 」
「そうだよ。カズ君が適任だよ」
なぜか僕の役目にされてしまった。違うだろう? それはリーダーの役目。
勇気を振り絞ってドラコを救出すべきなのに世話係に任せるなんてありか?
うぎゃああ!
どうやら醜い争いに嫌気が差したのかクモが向かって来る。
これでドラコを助けることができるが結局僕たちがやられたら意味がない。
クソ! 一番運動神経がよくて度胸もあるハイだと言うのに。
ちっとも言うこと聞かない。それはないだろう? これが一番いいと思ったのに。
諦め切れずにハイを見るが早くしてくれと目で合図するのみ。
まったく何を考えてるんだか。
「この一撃を喰らえ! 」
そうして睡眠団子をくっつけた木の棒を投げる。
力一杯真っすぐにクモの元へ。
大飯喰らいのクモは余裕からか木の棒を呑み込んでしまう。
これですべて解決? いやそれはないか。この睡眠団子には一つだけ欠点がある。
すぐに効かない。五分経ってようやく効果が表れる代物。
「こっちだ! 」
仕方なく惹きつけるが巨大グモは意外にも素早くすぐに追いつかれてしまう。
まずい。もうダメだ。
「おい! 逃げる気か? 」
言葉が分からない巨大グモを挑発するハイ。
どうやら睡眠団子で動きが鈍ってると思って強気になってるのだろう。
さすがはハイいい度胸だ。でも大丈夫。巨大グモもすぐ寝るさ。
振り返ってハイの方へ引き返す。
こうして二人に別れてクモを混乱させる。
だが奴もそこまで間抜けじゃない。
ハイがより挑発するのでこっちには興味を示さなくなった。
「まずい! 」
そう言いながらゾークを巻き込んでの追い駆けっこ。
鬼は巨大グモ。体力だけは異常にあるのかしつこい。
「ごめんカズ君! 」
そう言ってゾークがこっちに。ハイも。つられて巨大グモまで。
仕方なく走り続ける。体力の続く限り走る。
うん? 巨大グモの様子がおかしい。ノロノロしだしたぞ。
「うおおお! カズ! ゾーク! 」
それまでに傷だらけになりながらも耐えたハイ。やはりさすがはハイだ。
やる時はやる男。それがハイだろう。でも僕たちを巻き込まないでくれよ。
「カズ! まだなのか? 限界は近いぞ! 」
耐えられないとハイは情けないことを言う。それでもこのカズ様の右腕なのか?
「カズ君! 」
ゾークも予想外のクモの抵抗に自信を失っている。
「大丈夫。もう少しだから…… 」
どうやら動きを完全に止めたようだ。
危ない危ない。もう少しでやられるところだった。
睡眠団子の効果は五分後だと思っていたがどうやら八分は経っている。
これは想定外。恐らく普通のモンスターではなくボス級なのだろう。
または超鈍感なのだろう。
「大丈夫。ほら寝たぞ! さあ今こそ逃げるチャンスだ」
こうして透明な糸を切ってドラコを救出。
さあ後はここからどう脱出するかだが……
どれだけの高さがあるか分からないが僕たちはあそこから落下した。
落下した場所が運悪くクモの化け物の縄張りだった。
奴は恐らくこんな風な間抜けを捕食する待ち伏せハンター。
僕たちはその仕掛けにまんまと引っ掛かったのだろう。
問題はこんなところに迷い込む冒険者がどれくらいいるかだ?
だって少なければこんな仕掛けをする意味がない。
外でもっと別の生物を捕食すればいい。そっちの方が簡単で楽に決まってる。
きっと何かあるんだよ。それが何か分かれば……
「おいカズ! 何をしてるんだ? 起きちまうぞ! 」
ハイはまるで逃げ道が分かるかのように進む。
しかしこんな洞窟の外れに道があるはずがないだろう。
手分けして探すがやはりない。僕たちには逃げ道など初めからない。
どうしよう? 何てね。上にはもちろん道がある。
あそこから落ちて来た訳だからな。
「大丈夫か? 」
「ありがとう」
ドラコを救出。絡んでいた細かいクモの糸をタンサンを少量塗って溶かす。
これで体に何重にも絡んだ糸が溶けあっと言う間に自由の身。
「ドラコ逃げ道は上しかない。どうする? 」
救出に時間が掛かったので後ニ十分あるかないか。
早ければ十五分で覚醒する。その前に何としても逃げ切らないといけない。
それがタイムリミットだ。
「大丈夫。私は妖精なので飛べます」
「いやだったら俺たちは…… 」
ハイが望むが無理なものは無理そう。
「手を繋いで…… そうすればあなたたちも一緒に飛んでいける」
ドラコの提案を受け入れる。どうせこれしか生き残る確率はない。
賭けると言うかもう頼るしかない。
「一人足りないんですけど…… 」
「それは心配ない。もう一度繰り返せばいい」
最後の一人に誰がなるかで揉めるがなぜか世話係の僕が残る羽目に。
ジャンケンで負けたとは言え先を譲った勇者の行動を称えて欲しいな。
恐怖の中取り残された。
もしクモの化け物が目を覚ましたら終わりだ。
もう急ぐように指示するしかない。
「ではお先! 」
「ごめんねカズ君…… 」
二人とも余裕があってちょっとムカつくな。
「ほら最後はあなた…… 」
ドラコの手を掴んだところでクモが目を覚ます。
怒りに我を失い風を掻く。こうして再び絶体絶命のピンチに。
さあどうする?
続く




