怪しい人物
夜・宿屋にて。
連日の満杯で大喜びの宿屋の主人。
客のほとんどが人喰いオオカミを追ってきたハンター。
狩って名を上げるだけでなくただ珍しい獲物に引き寄せられて来る者も。
恐らく明日も満杯になるだろう。三日連続の大盛況間違いなし。
洞窟が通れるようになるかお客に複数の被害が出ない限りほぼ確実。
うわ…… 喰われちまったらどうしよう? 想像もしたくない最悪の事態。
「ほら誰もいないさ」
ゾークを落ち着かせてから誰もいないことを確認して話してもらう。
「実は…… ウッド爺が怪しいかなって」
どうやらゾークは人喰いオオカミがウッド爺だと考えてるらしい。
「待ってくれ! 一緒にこの村に逃げたところを目撃したろう? 」
そう残念だがウッド爺には完璧なアリバイがある。
目撃した僕たちは基本的には人喰いオオカミにはなれない。
もちろん村のどこかで入れ替わった可能性も考えられる。
だが僕たちはほぼずっと一緒にいた。離れても僅かな時間。
それでは入れ替わる暇もないしそもそも子供になるのは難しいだろう。
それだけでなく奴としても動きやすい村人に変装した方が楽に決まってる。
たまたま追いかけて来た僕たちを選ぶとは考えにくい。
もちろんそれでも絶対ないとは言い切れないが。
「でもカズ君…… ウッド爺おかしいだろう? 偏屈さが薄れた気がするんだ」
確かにゾークは間違ってない。この村に来てからまともになったと言うか薄れた。
だけどそれを理由にウッド爺が怪しいは無理がある。
「そうだぜカズ。どこか異様に映るよあの爺さん」
「でもどうやって? 」
「それは分からない。もしかしたらあのオオカミ自体がただの野生オオカミ……」
ゾークはウッド爺だと決めつけてるみたいだ。無理がある。
「ハイはどう思う? 」
「怪しいがそこまでするか? それよりも何か他に…… 」
ハイはそれ以上は言葉が出ない。
「信じた方がいい。あえてそんな危険冒さないと思う。だけど警戒した方がいい。
今は誰かに化けてると考えてなるべく一人にさせない。二人きりにさせない。
集団で行動するべきだと思う。村の者にはウッド爺からそう伝えてもらう。
遅いかもしれないが言わないよりはマシ」
これもゾークの気づきによるもの。まだ僕たち恐怖でおかしくなってない。
それだけでも充分凄いこと。
とりあえず聞けるところから話を聞くことに。
まずはお隣の二軒。
村人によると二人はいつも喧嘩をしてると。
お婆さんで年も弁えずに毎日のように喧嘩してるそうだ。
近所では有名な話。ただ洞窟守だけは庇うような発言。
喧嘩するほど仲がいいとそんなおかしなことを言っていた。
では実際はどうだろう?
まずはお近づきの印にタンサン毒水をプレゼント。
「ありがとう。体が重い時にでも飲ませてもらうよ。それで何だい? 」
普段と変わらない感じのお婆さん。でも誰も普段のお婆さんを知らない。
これならジョンを連れて来ればよかった。
「ああ隣が怪しいよ。だっていつもおかしな呪文を唱えてるんだよ。
あんたらも気を付けな。その内呪われちまうよ」
そう言うとアメをくれる。いい人だ。これはさすがに疑えない。
「待ってください! それはいつ頃から? 」
フォレーセスが話に加わる。
「そうだね。ここ一年ぐらいかね。困っちゃうよ」
「昨夜は? 」
「だからうるさかったって! 怪しいだろうお嬢ちゃん? うんと言いな! 」
「分かりました。話を聞いてみますね」
ではそのちょっと怖いお隣さんに話を聞く。
「つまらないものですが」
同じようにタンサン毒水をプレゼント。
人間が飲めば王子のように三日三晩苦しむ羽目に。
オオカミが飲めばたぶん化けの皮が剥がれるはずだ。
しかしタンサン毒水も僅かで残り三杯分しかない。
だから慎重に。無駄に使えない。
「ありがとうね。おっとと…… 」
よろけて床にばらまく。
「ごめんなさいね。でもこれまずいんだろう? 」
「はい。気になさらずに。それでお話が…… 」
「ああん? 今忙しいんだよ。オオカミは隣の女だ。騒がしくて敵わない」
「ですがそちらからも騒音が…… 」
フォレーセスが粘り強く聞き出す。
「ああ…… 聞こえてたの? 歌っていたんだよ。どうも最近ウキウキしてね」
どうやら二人は本当に昔から仲が悪いらしい。互いのせいにしてる。
一応はできるとこからやってみたが手応えはない。
「影が! 」
窓にオオカミの影を見たと騒ぐゾーク。
まだ真夜中じゃないから大丈夫とは言えない。
仕方なく宿に戻ることに。
「あの二人はどうだったフォレーセス? 」
「候補から外しましょう。ここには三十人弱の村人。残念ながら三名は行方不明。
だったら少なくても一昨日までは普通だった。ならば彼女たちはいつも通り。
除外するべき。他の人はどう? 」
「ああ…… 宿泊者の中には怪しい者はいなかった。
ただ嘘を吐いてることもあるからどうもな」
ハイはいつになく真剣。やはり喰われるのは嫌なのだろう。当たり前か。
「すると宿泊客も除外でいい? 」
「ああ…… 今夜はこれくらいか」
明日になればきっとどんどん絞られるだろう。
恐ろしいことを考えながら眠れない夜を過ごす。
「ねえカズ君…… トイレに行こうよ」
ゾークは一人では怖いと駄々をこねる。
眠いから勘弁してよ。ハイがいるだろう?
「なあゾーク。ウッド爺以外で気になった奴はいないのか? 」
「さあ…… ここに来たのは昨日だから……
ただ気になるって言うならフォレーセスちゃんかな。かわいいから」
誰もそんな話してない。どうやら手掛かりはまだ。
これは本気でどうにかしないと。
ウッド爺によれば誰も怪しくないと。皆村が酷い目に遭って不安だと。
やはり人喰いオオカミは尻尾を掴ませないか。でもなぜこの村を狙った?
逃げたのがたまたまならこの村を狙わなくてもいい気がする。
うーん。ちっとも分からないぞ。
こうして二日目を終える。
続く




