第44話:ロートルの去り際、あるいは丸投げの極意
【前書き:ルルの冒険記 〜松明一本、ナイスバッティング!の巻〜】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さん見てください! 今回挑戦しているのは、ギルドお墨付きの初心者用ダンジョンです! ここはゴーレムがたくさん出ることで有名なんですけど……」
私は手にした松明を掲げながら、カメラに向かって首を傾げました。
通路の奥から、ズシン、ズシンと音を立てて不格好な灰色のゴーレムが歩いてきます。でも、その姿を見た私の第一印象は――。
「えっ、何これ……。深夜さんのダンジョンの『横穴』にいたゴーレムに比べて、信じられないくらい柔らかそう……っていうか、プラスチックゴーレムじゃんこれ! しかも、胸のコアが最初から丸見えだよ!?」
配信のコメント欄が『プラスチックゴーレムって何だよww』『いや普通はもっと硬いから!』『深夜のダンジョンがバグってるだけだろ!』と猛烈な勢いで流れ始め、同接(視聴者数)がガンガン跳ね上がっていきます。
「ララさん、トトくん、ここは私の弾を使うまでもないよ! よーい、ドン!」
私はトトくんが作ってくれた属性弾を温存し、手に持っていただけの『松明』を両手でしっかりと握り直しました。
野球のバッターボックスに立つような構えを取り、ノロノロと近づいてくるプラスチックゴーレムの、丸見えのコアを見定めます。
「そこっ……ナイスバッティング!!」
ブンッ!! と鋭い風切り音と共に松明を振り抜くと、カァン!! という快音を立てて、ゴーレムの胸のコアだけが綺麗に遥か彼方へとぶっ飛ばされました。コアを失った泥の身体が、一瞬でサラサラと崩れ落ちます。
『嘘だろwww』『松明でゴーレムワンパンすなwww』『ナイスバッティングwwww』
画面の向こうのリスナーたちが大爆笑しながら、ものすごい勢いで高評価と投げ銭を飛ばしてくれます。
その後、階層をさらに進んでいっても、出てくるのは火に弱い「ウッドゴーレム」ばかり。
「あ、またゴーレムだ! はい、ナイスバッティング!!」
燃え盛る松明でコアを正確にひっぱたき、文字通り文字通りの大引越しホームランを量産していく私の姿に、配信の視聴率は過去最高を叩き出し、お祭り騒ぎになっていました。
後ろでララさんが「……もう、私の防御魔法もトトくんの錬金術も、本当に必要ないわね」と遠い目をして笑い、トトくんが「ルルさん、フォームが綺麗すぎます……」とノートに何かをメモしていました。
引きこもり剣士のダンジョン経営
(深夜の視点)
第9層の未踏エリア。
俺の目の前では、ナハトの連中が「は? 嘘でしょ?」とディメンション・イーターの消滅に呆然としており、その横ではジャージを着た骨の魔王が「敗者の門は完璧だぞ」とカタカタ顎を鳴らして胸を張っている。
深夜 「はぁ……。それにしても、ダンジョンが臨時閉鎖されてるなんて知らなかったな」
俺は肩に担いだ、ディメンション・イーターから引き抜いたばかりの、両手でも抱えきれないほどのバカデカい魔石をぽんぽんと叩いた。
深夜 「とりあえず、このバカデカ魔石を国の役人に1度預けて、依頼を完了したと伝えなきゃいけないんだよな?」
真昼 「ええ、本来ならそうね。国家指定のパニッシュ・クエストだから、討伐の証明としてギルドか国の役人に直接提出して、手続きを完了させる必要があるわ」
真昼さんの言葉を聞いて、俺は即座に面倒くさそうな顔になった。
国の役人。手続き。報告書の作成。
そんなお堅くて時間のかかるイベントに、現役を退いて引きこもっている俺が付き合わされるなんて、考えただけで頭が痛くなる。せっかくコボルトたちが15層まで掘り抜いてくれたんだ、俺は早く下の階層のテストプレイに行きたくてたまらない。
深夜 「よし。真昼さん、この魔石、お前らにやるよ」
真昼 「えっ? やるって、深夜くん、これは……」
深夜 「依頼の手続きとか報告とか、俺がやると絶対に面倒くさいことになるからさ。――ナハトが討伐した事にしていいよ!」
ナハト一同「「「「はぁぁぁ!?!?」」」」
俺のあまりにも軽すぎる丸投げに、真昼さん、宵闇さん、丑三つさん、黄昏くんの4人が綺麗にハモってすっ飛んだ。ジャージ姿の魔王だけが「ククク、相変わらず潔いな」と面白そうに笑っている。
黄昏 「ちょっと待ってください深夜さん!? 国家指名依頼の功績を、俺たちが横取りする形にするってことですか!?」
宵闇 「っていうか、あいつを石ころと千円の剣でボコボコにしたのアンタでしょ! 役人が見たら一発でナハトの戦い方じゃないってバレるわよ!」
深夜 「大丈夫大丈夫、ナハトの隠し球のすごい大技ってことにしといて。そしたら、俺は15階層目指して潜るからじゃあね!」
丑三つ「おい、待て深夜――」
丑三つさんが手を伸ばすより早く、俺は歩法を切り替えた。
引き止められる前に、掘り進められた下層への暗がりへと一瞬で滑り込む。
深夜 「じゃあなー! 水無月さんによろしくなー!」
声を残し、俺は風のようにナハトの視界から消え去った。ロートルを自称する割には、その逃げ足の速度はやっぱりバグっていた。
(ナハト・黄昏の視点)
黄昏 「……行っちゃいましたね」
宵闇 「……ええ、本当にとんでもない速さで消えたわね、あのバカ」
静まり返った第9層の廃墟エリア。
俺たちの前に残されたのは、ゴロンと地面に転がされた、あまりにも巨大で禍々しいディメンション・イーターの超特大魔石だけだった。
丑三つ「ハッ、相変わらずお役所仕事が大嫌いな野郎だ。だが、これだけの功績をナハトのものにされたら、ギルドでの俺たちのランクがまたわけのわからない跳ね上がり方をしちまうぞ」
真昼 「ふふ、仕方ありませんね。深夜くんがそう言うのなら、私たちが責任を持ってこの魔石を国へ届けましょう。……宵闇さん、あれを出してください」
宵闇 「はいはい、わかってるわよ。……よいしょっと」
宵闇さんが懐から取り出し、地面に展開したのは、トトくんの錬金術によって容量が『配送用の大型コンテナ並み』にまで大改造された、特注の超巨大マジックバッグだった。
俺と丑三つさんで、深夜さんが置いていったバカデカい魔石を「せーの」で持ち上げ、コンテナ並みのバッグの口へとズボッと詰め込む。バッグは歪むこともなく、その特大の質量をすんなりと飲み込んだ。
魔王 「では、私は一度管理室に戻って、あの健気な水無月という娘に温かいお茶でも淹れてやるとしよう。お前たちも、役人への言い訳を考えながら気をつけて戻るが良い、ククク……」
ジャージのポケットに手を突っ込んだ魔王さんが、カタカタと機嫌よさそうに笑いながら、転移の魔法陣を開いて一足先に消えていく。
黄昏 「……俺たちも戻りましょう。国への報告書、なんて説明したらいいか今から頭が痛いですけど」
真昼 「ええ。元来た道を戻りましょう。水無月さんも、管理室で首を長くして待ってくれていますからね」
俺たちは、深夜さんが残していった規格外の「お土産」をコンテナバッグに詰め込み、呆れと苦笑いを噛み締めながら、元来た地獄の階層を大急ぎで引き返していくのだった。




