↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり元オレツエー剣士の無茶苦茶ダンジョン経営  作者: 姫宮代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/55

第45話:それぞれの戦い、それぞれのヒーロー

【ルルのターン】

(新人e-Tuber・ルルの視点)

「皆さんこんにちは! 新人e-Tuberのルルです! 初心者用ダンジョンをサクサク進んで、ついにボス部屋までやってきました!」

 私はカメラに向かって元気に手を振りました。

 コメント欄は、さっきまでの私の『松明ホームランダービー』の余韻で、いまだに『お前のような新人がいるか』『松明が実質レジェンド装備』『いいスイングだったぞ』といったツッコミで埋め尽くされ、ものすごい勢いで流れています。

 だけど、目の前にそびえ立つボス――「石灰岩ゴーレム」を前にして、私は持っていた松明をそっと地面に置きました。

「うーん……さすがにボスの石灰岩ゴーレムは、これまでのウッドゴーレムみたいにはいかないね。木じゃないから燃えないし、何より胸のコアが分厚い岩の奥にがっちり隠れちゃってるよ……!」

 ズゥゥゥン……! と重低音を響かせて動き出した石灰岩ゴーレムは、これまでの泥や木のゴーレムとは比べ物にならない圧倒的な質量と硬度を誇っていました。私の松明バッティングでは、コアに届く前にこちらの手が痺れてしまいそうです。

 リスナーたちも『さすがにボスは硬そう』『松明じゃ無理だろw』と一気に緊張感に包まれます。

「でも、大丈夫! 私たちには、頼もしい仲間がいますから! ララさん、トトくん、作戦通りに行こう!」

 私が声をかけると、後ろで控えていたララさんが凛とした表情で杖を構え、トトくんが素早くポーションの入った魔導瓶を取り出しました。

「ええ、ルル。まずはその硬い外殻を揺さぶるわよ。ルル、火炎弾を!」

「了解! ――いっけぇぇー!」

 私は愛用の銃のシリンダーを回し、トトくん特製の「火炎弾」をゴーレムに向けて連射しました。

 放たれた弾丸が着弾した瞬間、爆炎が巻き起こり、石灰岩の巨体が真っ赤に熱せられていきます。激しい熱を浴びて、ゴーレムの動きが僅かに鈍りました。

「次は私ね。――すべてを凍てつかせ、砕け散りなさい。『アイス・コフィン』!」

 ララさんが美しい声で呪文を唱えると、彼女の杖から放たれた極大の氷結魔法が、赤熱したゴーレムの身体を一瞬で包み込みました。

 ジジジジッ……パキパキパキッ!!

 急激な加熱の直後に、圧倒的な冷却。熱衝撃(ヒートショック)によって、あれほど頑強だった石灰岩の身体に、無数の細かい亀裂が走っていきます。

「す、すごーーい! 岩の表面がボロボロになって、奥のコアが透けて見えたよ!」

「……ルルさん、仕上げ、です……!」

 トトくんが少し緊張した声で私の隣に駆け寄ってきました。彼の小さな手には、怪しく輝く青い液体が満ちた小瓶――「貫通付与ポーション」が握られています。

 トトくんは私の銃から予備の弾丸を素早く抜き取ると、そのポーションの液体にドボリと浸しました。魔薬の成分が弾丸の表面に吸い込まれ、鋭い魔力の粒子を纏い始めます。

「……はい、これを! 脆くなった岩の奥にあるコアまで、真っ直ぐに突き抜けるはず、です……!」

「ありがとう、トトくん! 最高のパス、受け取ったよ!」

 私はトトくんから受け取った特製の貫通弾を銃に装填し、両手でしっかりとホールドしました。

 狙うは、ララさんの氷魔法でひび割れた石灰岩の奥――淡く輝く、ゴーレムの動力源(コア)。

「これで、終わりだよ……!!」

 カァァァン!!!

 引き金を引くと、これまでにない鋭い発射音が洞窟内に響き渡りました。

 放たれた一撃は、脆くなったゴーレムの外殻を文字通りガラスのように粉砕し、その奥に隠されていたコアへと真っ直ぐに突き刺さりました。

 一瞬の静寂の後。

 ピシィィィィン……とコアに大きな亀裂が入り、石灰岩ゴーレムは光の塵となって、跡形もなく崩壊していったのです。

『うおおおおおおおおお!!!』

『完璧な連携じゃん!!!』

『これぞ冒険者! これぞe-Tube配信!!』

『最高に熱いチームワークを見た!!』

 画面の向こうのリスナーたちが、今日一番の盛り上がりで投げ銭(スパチャ)と高評価の嵐を巻き起こしています。同接数は過去最高を更新し、お祭り騒ぎは止まりません。

「やったぁぁぁ! ボス討伐成功だよ!!」

 私が銃をしまって飛び跳ねると、トトくんはホッとしたように顔を綻ばせ、ララさんは杖を収めながら、どこか深く感動したような、とても優しい眼差しで私たちを見つめていました。

ララさん「……素晴らしいわ、二人とも。前衛が敵を崩し、中衛が隙を作り、後衛が弱点を撃ち抜く……。ああ、これよ、これこそが本当の、普通のパーティの戦い方だわ……!」

ルル  「えっ? ララさん、どうかしたの?」

ララさん「いいえ、なんでもないわ。ただ……さっきまでのあなたの、松明一本でゴーレムを片っ端からかっ飛ばすような、あの理不尽なホームランダービーばかり見ていたから……。こうして、ちゃんとした魔法やポーションのチームワークで綺麗に勝てたことに、なんだか心が洗われるような感動を覚えているのよ」

トトくん「……わ、分かります。ルルさん、さっきの松明バッティング、配信としては最高にバズりましたけど、冒険者の戦い方としてはちょっと色々と基準がバグってましたからね……。普通に戦って勝てるの、すごく安心します……」

ルル  「あはは! 確かにさっきのはちょっとお祭り騒ぎすぎたよね! でも、みんなの協力のおかげで、最高の配信になったよ!」

 カメラに向かって「みんな、応援ありがとう!」と最高の笑顔を見せながら、私は自分たちのパーティーが、また少しだけ本物の『英雄』に近づけたような気がして、胸が弾んで止まらないのでした。




【深夜のターン】

(深夜の視点)

 ナハトの連中に面倒な魔石の提出を丸投げし、俺は掘り抜かれたばかりの第9層の階段をあっさりと通り過ぎて、さらに下の階層へと足を進めていた。

 そして、たどり着いた第10層。

深夜 「……うわぁ。これはまた、えらく極端なマップを引き当てたな」

 一歩踏み込んだ瞬間、視界のすべてが文字通り「漆黒」に塗り潰された。

 ただの暗闇ではない。光を一切反射しない、底なしの黒だ。上を向いているのか下を向いているのか、自分が真っ直ぐ歩いているのかさえ怪しくなる。三半規管がジワジワと狂わされ、放っておけば立っているのすら困難になるような、完全に並行感覚を失わせる「黒の世界」だった。

深夜 「おまけに、随分と熱烈な歓迎の気配がするな……」

 この闇の中、俺の体温を鋭く嗅ぎつけて、じっと息を潜めている複数の視線がある。

 この階層のモンスターたちは、獲物の「熱」を正確に感知して動くハンターだ。しかも、その身体は階層の闇と同化する「黒塗り」の特殊な皮膚や装甲に覆われているらしい。

 視覚が機能しない完全な闇の中から、熱探知で一方的に位置を特定し、音もなく忍び寄って首元を刈り取る――冒険者からすれば、悪夢以外の何物でもないハメ技マップだろう。

 だが。

――チッ。

 俺は歩きながら、一定の間隔で小さく「舌打ち」を鳴らした。

――チッ、チッ。

 一見すると、ただ暗闇の歩きづらさにイライラして舌打ちをしている引きこもりの図だが、実はこれ、俺にとってはただの「空間把握」の手段だった。

 放たれた小さな音波が、目に見えない闇の壁や地面、天井にぶつかって跳ね返ってくる。その僅かな「反響(エコー)」を耳で拾うことで、頭の中に周囲の立体マップがリアルタイムで構築されていくのだ。現役時代、視界を封じてくるタイプの迷宮で嫌というほど叩き込まれた、ロートルの古い知恵袋である。

――チッ。

 よし、右の壁まであと3メートル。前方5メートル先に、頭の悪そうな形をした黒塗りのトカゲが、よだれを垂らしながら跳躍の構えをとっているな。

黒塗りの魔物「シャアアアアッ!!」

 熱感知で俺の心臓を正確に狙い、闇と同化したトカゲ型の魔物が、一切の音を立てずに背後から襲いかかってくる。

 完全な死角。普通なら確実に心臓を撃ち抜かれて即死するレベルの、完璧な不意打ち。

 ――だったのだが。

深夜 「そこ、足元がお留守だぞ」

 俺は振り返りさえせず、迫り来る魔物の「位置」と「軌道」を音の反響だけで完璧に先読みしていた。

 腰から抜いたのは、通販で買った例の1000円のペラペラの鉄の剣。それを、背後へ向けて無造作に一閃する。

――斬ッ!!!

 闇を切り裂いて放たれた鋭い『飛ぶ斬撃』が、空間を白光の線で照らし出した。

 必勝を確信して突っ込んできていた黒塗りの魔物は、自分がなぜ気づかれたのかさえ理解できない顔のまま、空中でその光の刃に真っ二つにされ、悲鳴を上げる暇もなく光の粒子へと変わっていった。

深夜 「ふぅ。熱感知だの黒塗りだのでドヤ顔されてもなぁ。音まで消しきれてなきゃ、ロートルの耳は誤魔化せないっての」

――チッ。

 もう一度舌打ちを鳴らす。

 さらに奥の闇で、俺の「飛ぶ斬撃」の威力を見てガタガタと震え上がっている黒塗りトカゲたちの位置が、手に取るように分かった。不意打ちを仕掛けたつもりが、全員が次の「餌食」として俺の射程内に綺麗に並んでいる状態だ。

深夜 「よし、突っ立ってても並行感覚が狂うだけだし、サクサク片付けながら進むか。コボルトたちが頑張って掘ってくれた15層まで、あと5階層だしな」

 1000円の安物の剣をかるく振りかぶりながら、俺はチッ、チッと定期的に不機嫌な音を響かせ、暗黒の階層を何でもない一本道のように平然と突き進んでいくのだった。



【ナハトのターン】

(ナハト・黄昏の視点)

「真昼さん! バリア! バリアの維持落とさないでください、マジで死にます!!」

「わ、分かっているわよ黄昏くん! でもこれ、キリがないわ……っ!」

 行きのワニ地獄も凄惨だったが、戻り道はさらに最悪の環境が俺たちを待っていた。

 深夜さんが風のように去っていった後、拡張されたばかりの下層から必死に這い上がる途中、俺たちはエリア固有の凶悪な蜂型モンスターの大群に捕まってしまったのだ。

 ジジジジジジジジジ!!! と鼓膜を破らんばかりの不快な羽音が、真昼さんの張った球体のバリアの外側を完全に埋め尽くしている。

 外の景色なんて1ミリもない。今の俺たちは、数千、数万匹の凶暴な蜂にびっしりと隙間なく包まれた、文字通り『蠢く蜂の玉』と化してダンジョン内を必死に突き進んでいた。

丑三つ「クソが、何でこんなトラップ地獄になってやがる! あの野郎、こんな場所を平然と散歩してたのかよ!」

宵闇 「もう嫌ぁぁぁ! 早く外に出してー!!」

 コンテナ並みのマジックバッグを必死に抱えた丑三つさんと、半泣きの宵闇さんをバリアの中心にガッチリ保護しながら、俺たちは何とか、本当に何とかダンジョンの入り口(管理室)へと繋がる魔法陣へと飛び込んだ。

ズサァァァァァッ!!!

 光のフラッシュと共に、管理室の床へと派手になだれ込む。

 安全エリアに入った瞬間、追ってきていた蜂の群れが一斉にシステム的に弾け飛び、ようやく俺たちを包んでいた忌々しい『蜂の玉』が霧散した。

黄昏 「は、吐きそう……。生きて帰ってこれた……」

宵闇 「二度とあの階層には行かないからね! 絶対に行かないんだから!」

 床に大の字になって荒い息を吐く。国から緊急指名を受けるほどのベテラン冒険者パーティであるはずの【ナハト】が、ただの帰り道だけで完全に満身創痍だった。

「――皆さん! ご無事ですか!?」

 その悲惨な姿の俺たちを、真っ先に迎えてくれたのは、管理室のデスクで魔力感知端末(ハム)を握りしめていた水無月さんだった。

 真昼さんが乱れた髪を直して、息を整えながら何とか立ち上がる。

真昼 「ええ、なんとかね、水無月さん。深夜くんの足跡を追うだけで、命がいくつあっても足りないわ……」

 デスクの傍らでは、言った通りに高級ジャージ姿の魔王さんが、お上品に淹れられた温かいお茶をズズズ……と優雅に啜っていた。

魔王 「ククク、無様なものだなナハト。まぁ、我が主の移動速度に生身で付いていこうとしたのが間違いなのだ。水無月、この茶は美味いな。煎れ方のセンスがあるぞ」

水無月「あ、ありがとうございます、魔王さん……って、じゃなくて! ナハトの皆さん、本当に本当に、お疲れ様でした……!」

 水無月さんは目にうっすらと涙を浮かべ、心底ホッとしたように胸をなでおろしていた。

 彼女の目の前、俺たちが床に転がした『容量コンテナ並み』のマジックバッグには、国家指名依頼のターゲットだったディメンション・イーターの超特大魔石が収まっている。

丑三つ「さて……。このバカげた魔石を冒険者ギルドに送らなきゃならねえわけだが……」

 丑三つさんが重い腰を上げてマジックバッグを叩く。

 これをギルドに提出した瞬間、「ナハトがディメンション・イーターを討伐した!」と国中が大騒ぎになり、お偉いさんへの対応や報告書の作成で地獄のような激務が始まるのは確定している。

 だけど、その手続きに移る前に。

黄昏 「……その前に、やることがありますよね」

宵闇 「そうね。これをギルドに送って大騒ぎになる前に……まずは、一番頑張ってくれた人にちゃんと言わなきゃ」

 俺と宵闇さんの言葉に、真昼さんも深く頷いた。

 俺たちは揃って、目の下に隈を作りながらも、俺たちの命綱(ハムのナビゲート)を最後まで必死に握り続けてくれていた一般職の女の子に向き直った。

真昼 「水無月さん。私たちがこうして生きて戻ってこられたのも、ディメンション・イーターの正確な座標をオペレートして、ずっと支えてくれた貴方のおかげよ。本当に、ありがとう」

 ナハトの全員で、彼女に心からの感謝を込めて深く頭を下げる。

水無月「え、ええっ!? 私なんて、ただ端末を叩いてハラハラしていただけで……!」

 爵位があるわけでも、地元の名士の家系でもない、苗字を持たないただの一般職員である彼女が、国家規模の異常事態の裏で、世界規格外のバケモノたちを通信越しに裏から支えきったのだ。間違いなく、今回のMVPだった。

 大慌てで顔を真っ赤にする水無月さんを見て、俺たちは深夜さんへの山ほどの愚痴を少しだけ忘れて、温かい笑顔を交わしあうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。