第43話:すれ違いのディメンション
【前書き:ルルの冒険記 〜新しいお仕事?の巻〜】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さんこんにちは! 新人e-Tuberのルルです! 今日はちょっと、ギルドから面白いお仕事の相談が来ているので、配信でお知らせしちゃいます!」
私はカメラに向かって、ギルドの公式スタンプが押された依頼書をパタパタと振ってみせました。
「なんと、私たちのチャンネルの登録者数が伸びてきたのを見て、ギルドの偉い人が『新人向けのダンジョン紹介動画』の公式アンバサダーをやらないかって言ってくれたんです! ララさん、これってすごくない!?」
隣で新しく買った魔導書に魔力を通していたララさんが、ふっと顔を上げて優しく微笑みます。
「ええ、素晴らしいことじゃない。ルルの明るい配信は、暗いダンジョンに挑む若い冒険者たちの励みになるわ。トトくんの作ってくれる装備や弾丸の良さも、もっとたくさんの人に知ってもらえるわね」
素材の調合中だったトトくんは、自分の名前が出た瞬間にビクッと肩を揺らし、大慌てでフードを目深に被りました。
「……ぼ、僕の技術なんて、公式で紹介されるような大層なものじゃ……。でも、ルルさんの配信が認められたのは……その、すごく嬉しい、です……」
「えへへ、トトくんありがとう! よーし、みんなで力を合わせて、もっともっと楽しい冒険を皆さんに届けちゃいますよ! それじゃあ、次回の配信でお会いしましょう!」
私たちの小さなパーティーの足跡が、少しずつ、でも確実に世界へと広がり始めていました。
(深夜の視点)
「深夜くーーーん!!! 無事ですかーーーっ!?」
地響きと共に廃墟エリアの壁を爆破して突っ込んできたのは、真昼さんを先頭にしたナハトの面々、そして――なぜか高級ブランドのジャージをはためかせた、骨しか残っていない我がダンジョンの魔王だった。
深夜 「……げっ。お前ら、なんでこんなところにいるんだ?」
俺が片手に1000円の刃こぼれした剣、もう片方の肩にディメンション・イーターから引き抜いた特大の魔石を担いだまま首を傾げると、突っ込んできた全員がピタリと動きを止めた。
彼らの視線が、俺の肩 of 魔石と、すでに光の粒子となって消えかけている蜘蛛の残骸へと注がれる。
宵闇 「……は? 嘘でしょ……? もう片付いてるじゃない……!」
丑三つ「おいおい、1000円の剣で空間喰らいをノーダメージ討伐かよ。相変わらずお前は人間の枠に収まる気がねえな……」
深夜 「いや、だから何でここにいるんだよ。お前ら、管理室で留守番してたんじゃないのか?」
俺が純粋な疑問を口にすると、息を切らせた真昼さんが一歩前に出て、呆れたように、しかしホッとしたように説明してくれた。
真昼 「深夜くんが下層の視察に行った直後よ。管理室のギルド端末に、国からの【緊急指名討伐依頼】が届いたの。でも、念話が繋がらなかったから、直接伝えようとダンジョンを臨時閉鎖して追いかけてきたのよ」
深夜 「は? 俺のダンジョン、今クローズしてんの?」
黄昏 「そうなんですよ! しかも、俺たちが急いで深夜さんを追いかけてる途中で、通信が入って……その討伐ターゲットの魔物が、よりによってここ(深夜さんのダンジョンの第9層)に出現したって座標が更新されたんです! だから、全員で慌ててここまで跳んできたんですよ!」
深夜 「……は? 俺を追いかけてたら、ここにターゲットが出た……?」
俺は思わず、自分の足元の地面を見下ろした。
深夜 「おいおい、じゃあ何か? あいつ、このダンジョンの仕様(配置モンスター)じゃ無かったのか!?」
魔王 「ククク、何を言うかと思えば。深夜、私もこの魔物は知らないし、当然雇ってもいないぞ」
ジャージのポケットに骨だけの手を突っ込んだ魔王が、カタカタと顎骨を鳴らして不機嫌そうに言った。
魔王 「勝手にここまで来たのだろう。いつもこういう野良の輩は、私の可愛い仲間たちまで無差別に殺してしまうから困るのだ。……まあ、安心しろ深夜。これでここで死んでも『敗者の門』へ行けるぞ。お前が不覚を取った時のために、裏で私が完璧にセッティングしといたからな。感謝するが良い」
深夜 「縁起でもないセッティングしてんじゃねえよ! 生きてるわ! ……っていうかさ」
俺はふと、一つの矛盾に気がついた。
ここはまだ掘り抜かれたばかりの第9層の未踏エリアだ。通常、外部のギルドからこんな最下層の状況をリアルタイムで特定するのは不可能なはずだ。
深夜 「ここにディメンション・イーターが来たのが正確にわかったの、おかしくないか? 空間が歪むエリアだし、外から見つけるには、超高精度の魔力感知ができる特殊な『ハム(通信端末)』が必要だと思うけど……。もしかして、水無月さんも来てるのか?」
真昼 「ええ。貴方のダンジョン入りと入れ替わりで、管理室に来てくれたわ」
深夜 「やっぱりか……」
俺は思わず額を押さえた。
水無月。彼女は苗字ではなく、それが名前だ。爵位があるわけでも、地元の名士の家系でもない、ただの一般のギルド職員。
そんな彼女が、国家指名依頼の担当にされ、魔力感知端末を駆使した高度な追跡オペレートのために、わざわざ俺のダンジョンの管理室へ直接乗り込んできてくれているのだ。ナハトと俺、おまけにジャージを着た骨の魔王という規格外の連中に通信越しに振り回され、日々一番胃を痛めている常識人。それが水無月さんだった。
深夜 「一般職の女の子にそこまでさせるとか、うちの管理室、今ごろ修羅場になってないか……?」
魔王 「案ずるな深夜。あの娘なら、私が脱ぎ捨てたジャージを綺麗に畳みながら、泣き出しそうな顔で『魔力出力正常です!』と健気に端末を叩いていたぞ」
深夜 「お前、水無月さんに何させてんだよ!! 後でコニャックの代わりに高級な胃薬でも奢らないとバチが当たるな、これ……」
1000円の剣を鞘に戻しながら、俺は管理室で必死にハムを握りしめているであろう一般人の彼女に、心の中で深く同情の祈りを捧げるのだった。




