第41話緊急指名と魔王の足跡
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さん、見てください! トトくんのおかげで、バッグの中が魔法薬の植物園みたいになってます!」
私はカメラに向かって、マジックバッグの中身をキラリと映しました。そこには、トトくんが採取してくれたばかりの「月光草の種」が、淡く光る保存用のポーションに浸かって綺麗に並んでいます。
「こうやってポーションに浸けておくと、鮮度が落ちないどころか、成分が安定して買い取りの評価がぐーんと上がるんだって! ……ねえ、ララさん。魔法使いの間では、これって有名な裏技だったりするの?」
私が横を歩くララさんに話を振ると、彼女は感心したようにポーション瓶を覗き込みました。
「……いいえ。魔法使いは『完成したポーション』の扱いは得意だけど、素材をその場で最適な状態に保つ手法は、専門の錬金術師ならではの高等技術よ。正直、私も驚いているわ。トトくん、あなた本当に手際がいいわね」
ララさんに褒められて、トトくんは照れくさそうに鼻の下を擦りながらも、また新しい薬草を見つけ出しました。
「……あ、ルルさん、ララさん。次、来ます……!」
トトくんの声と同時に、霧の向こうから「幻想郷」特有のクリスタルゴーレムが姿を現しました。私はすぐに、バッグからトトくんの「攻撃用ポーション」を取り出して、彼に手渡します。
「はい、トトくん! 次はどれにする?」
「……ありがとうございます! 水色の方を!」
受け取ったトトくんが瓶を投げつけると、パリンッ! という音と共に、この場所の濃い魔力に反応したのか、ポーションが凄い勢いで炸裂しました。
一瞬で敵がカチコチに凍りついたり、かと思えば次の瓶で燃え尽きたり……。その威力は、魔法使いのララさんも目を丸くするほどでした。
「すごい……! 魔法使いがいなくても、ポーションだけでこんなに戦えるんだね!」
すると、トトくんはじっと私の愛用している銃を見つめてきました。
「……あの、ルルさん。その銃で使う『属性弾』、もしよければ僕に少し預けさせてくれませんか? ルルさんの使っているスロットの規格に合わせて構造を少し調整すれば、たぶん、もっと威力が上がります」
「本当!? もっと強くなれるの?」
「……はい。ただ、ここで細工するには魔物も多いし、時間もかかるので……。明日以降、じっくり腰を据えて加工させてください。楽しみにしていてくださいね」
トトくんの頼もしい提案に、私は大きく頷きました。
最強のマジックバッグ、冷静なララさん、そして有能なトトくん。なんだか私のパーティー、どんどん『本物』っぽくなってきちゃったかも……!
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引きこもり剣士のダンジョン経営
(深夜・魔王の視点)
管理室で一息ついていると、地下で拡張作業を続けてくれているコボルトたちが、誇らしげな顔で報告にやってきた。
コボルト 「キュンッ!(親方、5層より下、一気に15層まで掘り抜いたよ!)」
深夜 「おお、お疲れ様。随分とハイペースだったな」
労いの言葉をかけつつ、俺はモニターを開いた。掘り進めた空間にダンジョンコアの魔力が流れ込み、自動的に階層の環境が生成されているはずだ。
深夜 「どれどれ、まずは6層目から見ていくか」
テストも兼ねて6層目に足を踏み入れると、そこはなぜかジリジリと照りつける人工太陽と、草木が生い茂る鬱蒼としたジャングルだった。所々に底なし沼のような泥地が広がっている。
深夜 「……なるほど、水と緑のマップか。おっ、あそこにいるのはワニ人間だな」
沼の表面から目と鼻だけを出して、こちらを齧ろうと待ち構えている。俺は「現役を退いたロートルでも、これくらいは対処できないとな」と気を引き締め、ジャングルへと足を踏み入れた。
沼地に潜むワニ人間は獲物を待つプレデター気取りだったが、俺からすれば殺気がダダ漏れだ。沼の死角から音もなく背後に回り込み、首根っこを掴んで引きずり出す。
深夜 「ワニってのは、顎を閉じる力は強いが、開く力は弱いって相場が決まってるからな」
俺はその辺に生えていた丈夫な蔦を引きちぎり、暴れるワニ人間の口にぐるぐると巻き付けて物理的に封じた。ついでに手足も拘束して「生け捕り」の完成だが……俺はふと立ち止まった。
深夜 「防御力のない俺が肉盾として使うには、1体じゃ心許ないな。現役の頃ほどの回避のキレもないし、念のため多めに確保しておくか」
俺はジャングルを巡回し、待ち伏せしていたワニ人間たちを次々と背後から奇襲して生け捕りにしていった。結果、5〜6体のワニ人間が太い蔦で数珠繋ぎにされた。俺はその蔦の端を肩に担ぎ、ズザザザザッ! と物理的にダンジョン内を引きずり回しながら、ボス部屋へと向かった。
ボス部屋の扉を開けると、そこには階層主として召喚された多頭の毒蛇――ヒドラが待ち構えていた。巨大なヒドラは侵入者を威嚇しようと鎌首をもたげたが……俺が、自陣のモンスターであるワニ人間たちを数珠繋ぎにしてズルズルと引きずり込み、前にドサッと並べたのを見た瞬間、明らかにドン引きした顔を見せた。
ヒドラ 「シュー……!?(えっ、なにそのサイコパス……)」
ヒドラが戸惑いながらも、防衛本能から致死性の猛毒液を吐き出してくる。
深夜 「おっと、危ない危ない。ロートルの足じゃ避けきれないからな」
俺は繋いでいた蔦を巧みに操り、1体目のワニ人間をヒドラの射線上に「よいしょ」と持ち上げた。
ベチャッ!!
毒液がワニ人間の分厚い鱗に直撃し、弾かれる。(ワニ人間は涙目でビチビチと暴れているが、頑丈なので命に別状はない)。
ヒドラがさらに連続で毒液を吐き出してくるが、俺は2体、3体と順番にワニ人間を盾にしてやり過ごし、完全に相手の攻撃のターンを凌ぎ切った。
深夜 「よし、毒の弾幕が途切れたな。長居すると腰に来るから、サクッと終わらせよう」
俺は腰に下げていた、通販で1本千円で買ったペラペラの鉄の剣を抜いた。驚愕で動きの止まったヒドラに向けて、俺は軽く剣を振り抜く。
――斬ッ!!
千円の安い鉄の剣から放たれた『飛ぶ斬撃』が空間を裂き、ヒドラの複数の首をまとめて綺麗に刈り取った。ボトボトと頭を落としたヒドラは、そのまま光の粒子となってバックルーム(待機室)へと逃げ帰っていった。
深夜 「ふぅ。千円の剣でも、飛ぶ斬撃くらいならまだ撃てるな。ただ、やっぱり刃こぼれが早いか」
俺は盾にしてドロドロになったワニ人間たちの蔦を解いて解放してやりながら(彼らは一目散に沼へ逃げ帰っていった)、剣の刃を指でなぞった。
深夜 「泥臭い盾の引き回しに、最後は力任せの飛ぶ斬撃。俺みたいなスマートさの欠片もない戦い方じゃ、今の若い連中のe-Tubeじゃウケないだろうな……」
俺は少し自嘲気味にため息をつきながら、千円の剣を鞘に収め、次の階層の視察へと向かった。
【ナハトのターン:緊急指名と魔王の足跡】
(ナハト・黄昏の視点)
深夜さんが「ちょっと下の階層を見てくる」と言って管理室を出ていってから数十分後。モニターに映し出された6層目の光景に、俺たちはただただ開いた口が塞がらなくなっていた。
黄昏 「……ねえ、真昼さん。深夜さん、自分のこと『現役を退いたロートル』って言ってましたよね?」
真昼 「ええ、さっきもそう仰っていましたね……」
黄昏 「じゃあ、あのワニ人間を5〜6体まとめて蔦で数珠繋ぎにして、引きずり回しながらヒドラの毒液をポイポイ肉盾にして防いでる一連のムーブは、ロートルの泥臭い基本なんですか?」
宵闇 「んなわけないでしょ!! あいつ何やってんのよ、千円の安物の剣で飛ぶ斬撃なんて撃ち込んで……! ヒドラが可哀想に見えてきたわよ!」
管理室の全員で頭を抱えていた、その時だった。卓上のギルド専用端末が、見たこともない真っ赤な警告音を鳴らし響かせた。画面に表示されたのは、国からの**『指名討伐依頼』**の文字。
丑三つ「チッ、おいおいマジかよ……。国からナハト指名で、緊急の討伐依頼が滑り込んできやがったぞ」
真昼 「内容を確認します。……これは、私たちの手だけで判断するにはあまりにも重すぎますね。すぐに深夜さんに伝えて、指示を仰ぎましょう!」
真昼さんがすぐに念話の魔道具を起動したが、返ってくるのは不気味なノイズだけだった。
宵闇 「ダメよ、5層より下は拡張されたばかりで、まだ魔力回線が安定してないわ。直接呼びに行くしかないみたいだけど……」
全員の視線が、再びモニターに映る6層目のジャングル――底なし沼とワニ人間がひしめく魔境へと向く。
黄昏 「……正直に言っていいっすか。今の俺たちの実力じゃ、5層以下の対応、絶対に無理です。深夜さんが平気な顔で歩いてるからバグって見えますけど、あそこ普通に地獄の環境ですよ」
丑三つ「ああ、あんな沼地に突っ込んだら、深夜さんに出会う前にワニの餌だ」
刻一刻と迫る国家依頼の期限。しかし、大黒柱である深夜さんは、千円の剣を片手にさらに下の未知の階層へと呑気に進んでしまっている。
真昼 「……背に腹は代えられませんね。宵闇さん、**今日のダンジョンはここで臨時閉鎖**にしてください。一般の冒険者の方々には『リタイアボール』で一斉に退出してもらいます」
宵闇 「了解! 受付システム、緊急シャットダウン!」
黄昏 「ダンジョンを閉じるのはいいとして、深夜さんに追いつく手段はどうするんですか?」
俺が焦って問いかけると、真昼さんは管理室のソファで優雅に寛いでいた**『魔王さん』**に向き直り、真剣な表情で深く頭を下げた。
真昼 「魔王さん、緊急事態です。国から指名依頼が届きました。主である深夜くんを大至急連れ戻さなければなりません。不躾なお願いなのは承知の上ですが……どうか、私たちに力を貸してください!」
真昼さんの必死の訴えに、魔王さんはフッと不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
魔王さん「ククク……、あの馬鹿、またロートルだなんだと言い訳しながら下層を荒らし回っているな? よかろう。ならば私も、お前たちのパーティに臨時加入してやろう。直接あの男の首根っこを掴みに行くのが一番早い」
黄昏 「えっ!? 魔王さん自ら、一緒に潜ってくれるんすか!?」
魔王さん「不満か? 5層以下の地獄、お前たちだけでは深夜に追いつく前に全滅するのがオチだからな。私の力があれば、あのワニどもの包囲網など一瞬で蹴散らせる。ほら、もたもたするな。システムに私の臨時加入を登録しろ」
宵闇 「ひぇっ、最高に心強いけど、ステータス画面の表記がバグりそうな並びになってるわよ……!」
宵闇さんが震える手で操作し、ナハトのパーティリストに『魔王さん』の文字が追加される。これ以上ない、規格外の助っ人の参戦だ。
魔王さん「よし、行くぞ。あの男の移動速度はロートルのそれではない。ぼさっとしていると、あっという間に15層まで踏破されて見失うからな。私について来い」
黄昏 「感謝します、魔王さん! よし、みんな急いで深夜さんを追いかけましょう! あの人がこれ以上、無自覚に下の階層を壊滅させる前に!」
国からの指名依頼という大問題と、自分をロートルだと言い張る最強のオーナー。二つの頭痛の種を抱えながら、俺たちは臨時の頼もしすぎる仲間・魔王さんと共に、深夜くんが残した暴虐の足跡を追って、一気に下層へと飛び込んだのだった。
【第41話・完】




