第40話:熟知の相棒と、届かぬ一線
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さん、こんにちは! 新人e-Tuberのルルです! 今日はララさんのホームグラウンド、『魔法使いの幻想郷』に来ていまーす!」
カメラに向かって手を振る私の横で、ララさんは少し困ったようにギルドの依頼書を眺めていました。今回のクエストは、特定の魔法薬の材料になる「月光草の種」と「銀鈴の雫」の採集。報酬はいいけれど、魔法使いのララさんでも見分けが難しいらしくて……。
「……ねえララさん。これ、どれが本物かな?」
「図鑑では知っているけれど、実物を見るのは私も初めてなの。似たような草が多くて、下手に採取すると品質が落ちてしまうわ……」
二人で首を傾げながら、幻想的な光に包まれた2階層を進んでいた、その時でした。
「――そこだっ!」
鋭い声と共に、パリンッという乾いた音が響きました。見ると、少し先で一人の男の子がモンスターと戦っていました。
「あ、あの子……ポーション瓶を投げて戦ってる?」
トトくん、と呼ばれたその少年は、腰に下げた大きな鞄から次々と小瓶を取り出しては投げつけていました。でも、一歩動くたびに鞄の中から「ガチャガチャ!」とガラスが激しくぶつかり合う音が聞こえてきます。
「……痛たた。また瓶にヒビが入っちゃったかな……。やっぱり普通の鞄じゃ無理があるよ……」
戦いには勝ったものの、彼は泣きそうになりながら鞄の中身を確認していました。
それを見たララさんが、私の耳元で「ねえ、ルル」と囁きました。
「あの子、錬金術師ね。素材の知識は私よりずっと上のはずよ。……ルル、あのマジックバッグの出番じゃない?」
「なるほど、お互い助かるね!」
ララさんはトトくんに歩み寄り、優しく声をかけました。
「ねえ、そこの君。もしよければ、私たちの材料探しを手伝ってくれないかしら? その代わり、君のその重そうで割れそうな荷物、私たちのマジックバッグで預かってあげるわ」
トトくんは驚いて私たちを見ましたが、私の肩にかかったマジックバッグと、ララさんの提案を交互に確認して……。
「……えっと。……じゃあ、半分だけ……お願いします」
少し顔を赤らめて、照れながら頷いてくれました。こうして、素材の目利きである錬金術師・トトくんを仲間に加えた私たちの探索は、一気にスムーズになったのです!
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
管理室で冷めたコーヒーを啜っていると、受付のほうから慌ただしい足音が聞こえてきた。やってきたのは小鳥さん。最近、うちのダンジョンの運営を気にかけてくれている、ギルドのお節介焼きだ。
小鳥 「ちょっと深夜さん! 落ち着いてコーヒー飲んでる場合じゃないですよ! 最近冒険者たちのe-Tubeを見てたんですけど……。みんな『踏破』することしか考えてない。おかしいと思ったら、あなた、クエストを一つも発注してないじゃないですか!」
深夜 「クエスト、ですか……。いや、そう言われましても。うちで獲れるものなんて、型落ちの家電か、せいぜい自衛に役立つ程度の小物ばかりですよ。わざわざ誰かに『採ってきてくれ』と頼むような価値のあるものなんて……」
俺はため息をついた。かつて最前線で泥を啜っていた頃ならいざ知らず、今はもう引退したロートルだ。世の中の役に立つような大層なものは、この小さな横穴には眠っていない。
小鳥 「価値があるかないかは冒険者が決めるんです! 最初の1層目に採掘ポイントでも設けて、宝石でも獲らせればいいじゃないですか!」
深夜 「宝石、ですか。……まあ、壁を少し弄ればそれらしいものは出せますが」
正直、そんな暇つぶしのようなもので人が喜ぶとは思えなかったが、小鳥さんがあまりに熱心なので、重い腰を上げて調整してみることにした。
深夜 「……よし。こんな感じでいいかな。採掘する音でゴーレムはやってくるし、たまに採掘した所が崩れてキラービーが湧き出すけど、ロートルな自分にでも対処できるしへーきへーき。とりあえず宝石採取クエスト発注して、リタイアボールを支給して……これでいいかな」
俺が確認すると、なぜか管理室が静まり返った。
宵闇 「……深夜さん。それ、無理。絶対に無理」
深夜 「えっ? ……むり? なんで?」
俺は心底不思議に思った。引退したロートルが「平和だな」と思える程度の、ただの宝石掘りじゃないか。今の現役冒険者たちは、これしきのことで根を上げるほど、ひ弱になってしまったのだろうか。
【ナハトのターン:職人の技と酒の対価】
(ナハト・真昼の視点)
深夜さんが設置した採掘ポイントからは、予想に反して質の良い原石がいくつか掘り出されていました。深夜さんは「とりあえず四層の職人オーク、ドノバンに相談してみよう」と、彼のもとへ向かいました。
ドノバン 「宝石のカットか? なら、身内に一人、天才的なゴブリンがいるぞ」
紹介されたのは、ゴブリンのケティさんでした。深夜さんが宝石のカットを依頼すると、彼女は対価に「酒とつまみ」を要求してきました。
深夜 「……仕方ないな。今夜飲もうと思ってたコニャックと、あとは……この安い飴玉でいい? つまみにはならないかもしれないけど」
差し出されたコニャックと飴玉を見て、ケティさんはニヤリと笑いました。「最高じゃないか。いいよ、手を打ってやる」と。深夜さんは「飴玉でいいなんて、物分かりのいい人だな」と感心していましたが……。
――後日。
仕上がった宝石をギルドに売ってみると、信じられないほどの利益が出ました。深夜さんは査定額を見て絶句しています。
深夜 「……びっくりした。ただの宝石カットですよね? なんでこんなに利益が……。最近の市場はよくわからないな。やっぱりロートルの感覚じゃついていけない」
本気で首を傾げている深夜さん。どうやら、彼が無意識に渡した「コニャックと飴玉」が、伝説級の職人を本気にさせてしまったことには、まだ気づいていないようでした。




