第39話:格付けの激震と、デザートの味
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「んん〜っ! この『魔界イチゴのタルト』、最高……! 頑張った後の糖分は正義だね!」
デザートバイキングの会場で、私は至福の時間を噛み締めていました。隣ではララが、上品に紅茶を啜りながらようやく一息ついています。
「本当に……。あのリザードマン戦、ルルの無茶な作戦がなかったら今頃どうなっていたか……。でも、これで私たち正式なパーティね。よろしく、ルル」
「うん、よろしくねララ! ……あ、そうだ。パーティ結成後の初ダンジョン、私のおすすめの場所があるんだけど、次そこに行ってみない?」
私が提案すると、ララは興味深そうに首を傾げました。
「ルルのおすすめ? あなた、まだ活動を始めたばかりでしょう。どこかいい練習場でも見つけたの?」
「うん! 私が初めてダンジョン配信をした場所なんだけどね。オーナーの深夜さんはちょっと無愛想だけど、すごく勉強になるんだよ。ええと、場所はアプリで見ると……」
私はスマホを取り出し、ギルド公式のダンジョン検索アプリを開きました。初配信の履歴から「横穴のダンジョン」をタップしようとして――。
「……え?」
指が止まりました。
画面に表示されているアイコンの横、難易度を示すランクの文字が、見たこともない色で光っていたんです。
「どうしたの、ルル? ……ちょっと、顔色が悪いわよ?」
「ラ、ララ……これ、見て……。私のアプリ、バグっちゃったかな……?」
震える手でスマホを差し出すと、ララがそれを覗き込みました。
次の瞬間、彼女の持っていたフォークがカラン、と皿の上に落ちました。
「な……っ!? 『Sランク』……!? ルル、あなた、私をどこに誘おうとしたのよ!?」
画面上では、あの初配信で行った「横穴」の場所に、伝説の魔竜が棲む魔境や、神話時代の遺構と並ぶ最高位の『S』の称号が、真っ赤に刻まれていました。
「ち、違うの! 私が行った時は『D』とか『C』くらいの、ちょっと変わった練習場って感じだったんだよ!? 深夜さんのところ、いつの間に世界滅亡レベルの魔窟になったの!?」
「嘘でしょ……。Sランクって言ったら国が軍隊を出すレベルの場所よ!? 初配信の場所に選ぶようなところじゃないわ!!」
詳細ページには『国内最高峰の訓練環境』『S級冒険者・淡路氏、A級・ゲルト氏によるダブル推薦』という、逃げ場のないほど豪華な、そして恐ろしい文言が並んでいました。
「……ララ」
「……何、ルル」
「私、あそこで『ミミック狩り楽しい〜!』とか言って、デビュー戦を飾っちゃったんだけど……」
二人の間に、デザートの甘さも吹き飛ぶような、冷たい沈黙が流れました。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
認定に来ていた淡路さんとゲルトさんが帰り、管理室にはまたいつもの平穏(?)が戻ってきた。
モニターの中では、今日も今日とて冒険者たちが悲鳴を上げ、情けなく「敗者の門」へと転送されていく。
深夜 「……あ、またあいつだ。今ので10回目か」
画面には、第1層『大理石の迷宮』でボロボロになっている冒険者の姿が映っていた。
アイアンゴーレムの重圧に耐えかねたのか、彼は攻略を断念し、回れ右をして入り口の方へ全力で走り出す。
だが、うちの第1層は「一度足を踏み出したら前進あるのみ」だ。
通路の隙間から凄まじい羽音が響き渡り、針が金属のような光沢を放つ『キラービー』の群れが現れる。
このハチに麻痺毒なんて温いものはない。あるのは圧倒的な「貫通力」だけ。
逃げようとする男の背中を、キラービーたちが弾丸のような速度で次々と射抜いていく。
冒険者 「ぎゃああああっ!? な、なんだこれ、鎧が紙みたいに……っ!」
蜂の巣にされた男は、そのまま絶叫と共に光に包まれ、「敗者の門」へと強制送還されていった。
名簿によると、彼はAランク冒険者だそうだ。e-Tubeのチャンネルを見ると、人工ダンジョンばかりを効率的にクリアしてランクを上げた「エリート」らしい。
深夜 「……冒険者って、なんだろうな」
パターン化された安全な施設でスコアを稼ぎ、本来一番大切だったはずの「生き残るための野生」を忘れてしまった彼らを、本当に冒険者と呼んでいいのだろうか。
【ナハトのターン:不退転の教室】
(ナハト・黄昏の視点)
黄昏 「あーあ、戻っちゃった。深夜さん、あれ絶対キラービーに刺されますよね」
深夜 「ああ。うちの第1層は、一度足を踏み出したら前進あるのみだ。後ろを向いた奴には、手厳しい洗礼が待ってるからな」
画面の中では、逃げようとしたAランク冒険者がキラービーの群れに背中を射抜かれ、無様に転送されていく。
黄昏 「……相変わらず容赦ないっすね。麻痺させて捕まえるんじゃなくて、ただひたすら物理で貫通して蜂の巣にするだけって。あの鎧、特注のAランク品っぽかったですけどボロボロじゃないですか」
俺が呆れたように言うと、深夜さんは冷めたコーヒーを啜りながら、事も無げにモニターを指差した。
深夜 「ただの嫌がらせじゃないさ。黄昏、入り口の天井をよく見てみろ」
黄昏 「入り口……。あ、あんなところにキラービーの巣があるじゃないですか。……なるほど、あそこを叩いておけってことですか」
深夜 「そうだ。ダンジョンに入った直後から、あいつらはブンブンと羽音を立てて警告してる。その見え透いた巣を見逃さずに、松明で焼き払ってさえいれば、後戻りしても刺されることはないんだ」
深夜さんの言葉に、俺は納得した。深夜さんのダンジョンは、いつだって「気づけるかどうか」だ。
深夜 「ダンジョンに入ったら、まずは自分たちが有利になるように立ち回る。その基本中の基本を怠って、前だけ見て突っ走るから逃げ道を塞がれるんだ。入ってすぐ羽音がしてるのに気付かないなんて、ただの『怠慢』でしかない」
真昼 「……なるほど。いくら高い装備で身を固めていても、観察力と基本の立ち回りができていなければ意味がない、という教訓ですね」
深夜 「人工ダンジョン育ちの連中は、用意された正解のルートをなぞる事しか頭にないからな。ここで学べる一番の教養は、『危険を察知して環境を整える』っていう泥臭い基本だ」
深夜さんの「爆速チュートリアル」を横で見てきた俺にはわかる。これは意地悪じゃなくて、本物の魔境で生き残るための最低限のハードルなんだ。
深夜 「さて……次は誰が、あの蜂の巣の餌食になるのか。うちのルールに従えない奴は、ランクに関係なく等しく敗者の門から放り出すだけだ」




