第38話:契約のサインと、甘い祝杯
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「……ふぅ。生きてるって感じがするね、ララ!」
リザードマンたちの巣窟を抜け、眩い光が溢れる『勝者の門』をくぐり抜けると、そこにはいつものダンジョンロビーが広がっていました。ボロボロになった服と、熱気で火照った頬。でも、不思議と身体は軽くて、心の中には今までにない「確かな手応え」が残っていました。
「本当に……。あんな無茶苦茶な攻略、あなたとじゃなきゃ絶対に思いつかなかったわ」
隣で杖を支えに立つララも、髪を少し乱しながら、でもどこか清々(すがすが)しい表情で笑っています。私は自分の右手の掌を見つめました。深夜さんに教わったこと、ララが繋いでくれた魔法の火、シルフちゃんが送ってくれた風。それらが全部噛み合って、強敵を打ち倒した瞬間のあの感覚。
「ねえ、ララ。私、思ったんだ。私たち、最高のコンビだと思わない? 凸凹だけど、お互いに足りないところを埋め合って、すごい化学反応が起きてる気がするんだ。……だから、もしよかったら、正式にパーティを組んでくれないかな?」
ララは一瞬驚いたように目を見開きましたが、すぐにふっと柔らかく目を細めて笑いました。
「……奇遇ね、ルル。私も、全く同じことを言おうとしていたところよ」
ララが差し出してきた手を、私は力いっぱい握り返しました。
「やったぁ! じゃあ、今日から私たちは正式なパートナーだね! お祝いに、ロビー横にある『魔界のデザートバイキング』に突撃してきまーす!」
「ちょっと、ルル!? 私、まだ泥だらけなんだけど……!」
「大丈夫、甘いものは全部解決してくれるよ! 行こう、ララ!」
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「敗者の門」の待機所では、ようやく人心地ついた淡路さんとゲルトさんが、並んでベンチに深く腰掛けていた。二人の前には、宵闇が差し出した高額な請求書が置かれているが、今の彼らにはそれを気にする余裕すらないらしい。
淡路 「……深夜さん。改めて言わせてもらう。このダンジョン……多角的な方向から冒険者に試練を与え、再構築を迫るこの構成。これはSランクダンジョンと言って間違いない。異論は認めんぞ」
ゲルト 「全くだ。天然のダンジョンと比べれば、死なずに戻れるだけ『良心的』と言えなくもないがな。だが、人工ダンジョンとしてここまで『えげつない』のは、俺の長い冒険者人生でも初めてだ。冒険者の『訓練』において、これほど素晴らしい施設は他にない」
淡路 「そうだ。深夜さん、君はもっと胸を張っていい。ここは紛れもなく、世界に数多ある魔境と肩を並べるSランクダンジョンだ。……ぜひ、その自覚を持って営業してくれ」
深夜 「……はぁ。そこまで言うなら、広告には『Sランク(自称)』って小さく入れとくよ。経営者の宵闇が、認定証でも貰ってこいってうるさそうだしな」
【ナハトのターン:管理室の戦略会議】
(ナハト・黄昏の視点)
深夜さんの管理室。Sランク認定を受けた俺たち「ナハト」のメンバーは、今後の経営方針についての会議を開いていた。
宵闇 「認定をもらったんだから、入場料を一気に跳ね上げるチャンスだよ!」
深夜 「いや、上げないぞ。据え置きだ。ここは『基本』を学ぶ場所だろ? 初心者も熟練者も関係なく、何度でも『トライアンドエラー』を繰り返せる場所でありたい。再入場料も今のままでいい」
深夜 「その代わり、ドロップ率は少しだけ上げよう。やる気さえ維持してくれれば、リピート率で元は取れる。あと、アイテムショップに新商品を追加する。3層以降は荷物の持ち帰りが大変だから、『マジックバッグ』を売り出すんだ」
黄昏 「それは助かりますね! でも、マジックバッグって結構な高額商品ですよ?」
深夜 「ああ。だから値段はちょっと強気で行くぞ。『家一軒が丸ごと入るサイズ』を、1,000万円くらいでどうだ?」
宵闇 「…………深夜さん、それ相場の半額以下だよ!! どこが強気の値段設定なの!? 破格のバーゲンセールでしょ!!」
黄昏 「深夜さん……『家一軒サイズ』なら、普通は3,000万は下らないですよ……」
深夜 「えっ、そうなの? じゃあ、1,500万にするか……?」
宵闇 「もういい、価格設定は私がやる! 深夜さんは二度と商売に口出ししないで!!」
管理室に響き渡る宵闇の絶叫。深夜さんのズレた金銭感覚が、ある意味でダンジョンの最大の脅威(経営的な意味で)であることを再確認した会議だった。




