第37話:属性の「足し算」と、爆炎の処方箋
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「……っ、ちょっとこれ、硬すぎない!? 全然ダメージが通らないよ!」
リザードマンの巣窟『蛇蝎の如く忌み嫌うは蛇の夢』。その最奥で待ち構えていたのは、名前通り丸々と太った巨体を持つボス、『ファットリザード』でした。私の銃撃も、その分厚い脂肪と鱗に跳ね返されてしまいます。
「ルル、下がって! 『火球』!」
ララの放った魔法が直撃しますが、敵は熱そうに身悶えするだけで、決定打にはなりません。
「ダメ……火力が足りないわ! 私の魔力じゃ、あいつの再生能力を上回れない!」
「……火力が足りないなら、もっと燃やせばいいんだよ! シルフちゃん、お願い!」
私の呼びかけに応じ、風の精霊シルフちゃんがララの魔法の跡に向かって、全力で追い風を送り込みました。酸素を供給された火球は、一瞬で巨大な火柱へと膨れ上がり、ファットリザードの巨体を包み込みました。
「ギ、ギャアアアッ!?」
目に見えて敵のHPゲージが削れていきます。でも、まだあと一歩足りない……!
「ララ! この弾丸に火の属性を付与して! 急いで!」
「えっ、ええ! 分かったわ!」
ララのエンチャントを受けた弾丸を、私はあえて『火』のスロットではなく、『毒』のスロットへと装填しました。私が放った『火属性を纏った毒弾』が、ファットリザードの体内に潜り込みます。
ドォォォォン!!
ファットリザードの体内にある可燃性の毒ガスと、ララの火、そしてシルフちゃんの風が化学反応を起こしたのか、敵は体の内側から火を吹き出し、そのまま崩れ落ちて光の粒子へと変わったんです。
「ふぅ……。深夜さんが言ってたんだ。『弱点がないなら、自分たちで弱点を作ればいい』って。毒ガス持ちに火を打ち込めば、中から爆発すると思ったんだよね!」
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
管理室のモニターを見つめながら、俺は不機嫌にこめかみを指で押さえた。
深夜 「……おい、宵闇。またなんか面倒そうなのが入ってきたぞ」
宵闇 「あー、それね。全国冒険者組合から派遣されてきた、S級冒険者の淡路さん。ゲルトさんからの連絡が途絶えたから、本格的な調査に来たらしいよ」
モニターに映る淡路は、まさに「剣聖」と呼ぶにふさわしい動きを見せていた。場所は第1層『大理石の迷宮』。
まずは高硬度ガラスゴーレムの群れ。普通なら刃こぼれを恐れて打撃で挑む相手だが、淡路の抜刀はあまりに速く、鋭い。
「――一閃」
無造作に振られた剣が、硬質なガラスの身体を紙細工のように両断する。断面は鏡面のように滑らかだ。
続く中層の石灰岩ゴーレム。迷宮の壁と同化して奇襲を仕掛ける巨躯に対し、彼は視線すら向けない。
「……遅いな」
巨岩の拳が届くより早く、淡路の剣が円を描く。次の瞬間、石灰岩の身体はサイコロ状に細切れとなり、崩れ落ちた。
そして深層の門番、アイアンゴーレム。俺なら金属疲労を待ってもぎ取るような相手だが、淡路は正面から踏み込んだ。
「断ち切れぬものは、この世に無い」
鋼鉄の腕も、重装甲の胴体も、彼の魔剣の前ではバター同然だった。三体のアイアンゴーレムが、言葉通り一刀の下に「切断」され、光の粒子へと還っていく。
深夜 「……へぇ。あんな『丁寧な掃除』をされたら、修理費がかさんで仕方ないな」
だが、淡路の快進撃はそこまでだった。第2層『状態異常の魔窟』に入った途端、剣技の冴えだけではどうにもならない現実に直面する。麻痺毒や胞子に蝕まれ、足をもつれさせる無様な「受け」の姿勢に追い込まれていた。
淡路が縋るように手を伸ばしたのは、行き止まりの宝箱。だがそこには、不可視のレーザー罠が張られていた。
淡路 「がぁぁぁぁッ!?」
切断された右腕。悶絶する彼の背後から、フライングモスが彼を「敗者の門」へと容赦なく叩き出した。
【ナハトのターン:模範解答】
(ナハト・黄昏の視点)
再入場口の待機所で、治療を受けている淡路さんとゲルトさん。二人のベテランが「無理ゲーだ」と項垂れているのを見て、深夜さんが手元のパッドを操作した。
深夜 「……しょうがない。距離があるから直接は見せられないけど、無線飛ばして実況させるか。おい黄昏、聞こえるか? ちょっと『模範解答』を見せてやってくれ」
深夜さんがパッドを二人の前に差し出すと、そこにはまだ第3層の攻略ポイントに留まっている俺の姿が映し出されていた。
黄昏 『え、今からっすか? ……まぁ、魔法使えないならああするしかないっすもんね』
画面越しの俺は、腰のベルトから機械式のワイヤーフックを取り出した。助走をつけて奈落へ飛び出した俺は、空中でフックをガーゴイルの足首に引っ掛け、遠心力で奈落の底に潜む『ワープ罠』へとスルリと吸い込まれていった。
深夜 「はい、これがショートカットな」
パッドの映像を見せられたゲルトさんと淡路さんは、しばしの沈黙の後、同時に絶叫した。
ゲルト・淡路 「「できるかぁぁぁ!!」」
ゲルト 「何が『スイングしてワープ罠へ』だ! 物理法則を信じすぎだろ!」
淡路 「……貴様ら、全員狂っているのか!? 奈落に自ら飛び込むのが『普通』なわけがあるか!!」
深夜 「ええ……? タイミングさえ合わせれば誰でもできるだろ?」
深夜さんのあまりに平熱な言葉に、二人のベテラン冒険者はガックリと膝をつくのだった。




