第36話:宝箱の「当たり」と、格付けの結論
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「あ! ララ、見て! 通路の脇に、これ見よがしな宝箱があるよ!」
私はドローンを飛ばしながら、通路の隅に置かれた重厚な箱を見つけました。
「ちょっとルル、待って! 罠のチェックをするから不用意に触らな――」
ララの静止を背中で聞き流しながら、私は確信を持って宝箱に飛びつきました。このダンジョンの宝箱は、全部ミミック(当たり)なんです。
ガバッ! と案の定、箱が巨大な口を開けて襲いかかってきました。
「やっぱり! 配信のみんな、見ててね。ミミック攻略の正解、行くよ!」
私は牙を紙一重でかわすと、第16話のリプレイで確認した「宝箱の奥にある、ちょっと色の違うコア」を的確に見定めました。
ミミックが噛みつこうとするより速く、私はハンドガンのグリップでミミックの口をこじ開け、コアへ強烈な一撃を叩き込みます。
「はい、チェックメイト!」
ズガァァン! と、ゼロ距離からの物理攻撃がコアを粉砕し、ミミックは光の粒子になって霧散しました。その跡地には、真っ赤に輝くルビーが一つ。
「やったぁぁ! 見てララ、大当たりのルビーだよ! やっぱりミミックは最高だね!」
私がルビーを掲げて満面の笑みを浮かべていると、背後でララが杖を握ったまま、魂が抜けたような顔をしていました。
「……ねえ、ルル。普通は宝箱がミミックだった時点で『運が悪かった』って落ち込むものなのよ。なのにあなた、なんで『期待通り』って顔でミミックを狩ってるの……? その認識、あなたの冒険者人生に深刻な悪影響が出るわよ……?」
「え? でも、ミミックの方がドロップがいいんだよ? 深夜さんのところではこれが『普通』だし!」
私が不思議そうに首を傾げると、ララは「……もうダメだわ、この子」と、深い溜め息と共に天を仰いでいました。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
俺は管理室のモニターから目を離し、いつもの『再入場口』へと足を運んだ。
モニター越しに見たゲルトさんは、第2層をボロボロになりながら突破したが、その勢いのまま突入した第3層で、今、人生最大の壁にぶち当たっている。
深夜 「……ダメだな。あのおっさん、第3層は初トライだろ? 今のままだと、一歩も進めずに戻ってくるぞ」
待機所のベンチに腰を下ろすと、受付の仕事を終えた真昼と、帳簿を抱えた宵闇がやってきた。
宵闇 「深夜さん、お疲れ様。……また、ゲルトさんの『お迎え』? ぶっちゃけ、あのおじさん相当『沼』ってるよね」
宵闇が手元の伝票をパタパタと仰ぎながら、少し呆れたように笑う。
宵闇 「見てよこれ、ここ数日の収支。ゲルトさんの再入場手数料と、ポーションの買い増しだけで、うちの今月の黒字が確定しちゃった。正直、経営側としては最高の『上客』だけどさ」
真昼 「……でも、深夜さんの目から見てどうなんですか? ゲルトさんは第3層、抜けられそうですか?」
真昼が少し心配そうに問いかけてくる。第3層は、魔王が設定した「魔法・魔道具禁止」のエリアだ。
深夜 「正直、今のままだと『ゼロ』だ。第3層は魔法によるゴリ押しが効かない。Aランクとして魔法装備に頼り切ってきたゲルトさんにとっては、一番相性が悪いエリアだからな」
宵闇 「魔道具が使えなくなると、あの高価な鎧もただの重い鉄板だもんね。収支はいいけど、あんまりリトライが続くと心が折れないかな?」
深夜 「いや、あのおっさんのことだ。折れるどころか、むしろ『これこそが求めていた逆境だ!』とか言って、さらにのめり込む気がするよ……」
その直後、ゲートから「うおぉぉ……魔法が使えねぇ……だがそれがいい……!」という、もはや中毒者のような叫び声と共に、ボロボロになったゲルトが吐き出されてきた。
【ナハトのターン:格付けの結論】
(ナハト・黄昏の視点)
再入場口の床に、俺とゲルトさんは仰向けに転がった。
黄昏 「……あー、死ぬかと思った。というか、死んで戻ってきたんだっけ。第3層、マジでえげつないですね」
俺は身体のあちこちに感じる、魔道具が強制停止した時の嫌な痺れを払いながら起き上がった。隣では、Aランク冒険者のゲルトさんが、空っぽになったポーションの瓶を握りしめたまま、天井を見上げて笑っている。
ゲルト 「はは……、はははは! 魔法禁止、魔道具無効化だと!? 冒険者の『下駄』を全部脱がせて、生身の技量だけで戦えってのか……!」
そこに、ベンチで待機していた深夜さんと、真昼さん、宵闇さんが歩み寄ってきた。
深夜 「お疲れ、ゲルトさん。初トライの第3層はどうだった? 案外、あっさり戻ってきたな」
深夜さんがいつもの平熱なトーンで声をかけると、ゲルトさんはガバリと跳ね起き、深夜さんの肩を掴んで詰め寄った。
ゲルト 「深夜さん……! あんた、このダンジョンの推奨ランク、いくつに設定するつもりだ!?」
深夜 「え? まぁ、基本を教えるための施設だし、高くてもBランクくらいかなって思ってるけど」
ゲルト 「正気か!? 第1層で『基本』という名の地獄を見せ、第2層で『状態異常の波状攻撃』という名のプロレスを強要し、挙句の果てに第3層で『全装備無効』だぞ! 断言するが、ここは現時点で適正ランクS、いやそれ以上の魔境だ!!」
Aランク冒険者の必死の断言に、深夜さんは心底不思議そうに首を傾げた。
深夜 「いやいや、そんな大げさな。難しいモンスターなんて置いてないだろ? 属性の弱点を突くとか、魔法に頼らず間合いを測るとか、当たり前のことを当たり前にやれば進めるはずなんだけどな……」
黄昏 「深夜さん、その『当たり前』の基準が、一般人と何光年もズレてるんですよ……」
俺が思わずツッコミを入れると、ゲルトさんが深夜さんの顔をまじまじと見つめ、確信に満ちた声で告げた。
ゲルト 「……わかった。深夜さん、あんたが一番の『モンスター』だ。こんな頭のおかしいダンジョンを『普通』だと思って作れるのは、もう人間の感覚じゃないぜ!」
深夜 「ひどい言われようだな……。俺はただ、みんなに楽しく強くなってほしいだけなのに」
宵闇 「……うん、深夜さん。その『楽しい』の押し売りが、ゲルトさんみたいな依存……もとい、ファンを生んで、うちの収支を支えてるんだから、誇っていいと思うよ?」
ボロボロになりながらも、その瞳には「次こそはどう攻略してやろうか」という熱い火を灯しているゲルトさん。深夜さんは肩をすくめながらも、少しだけ嬉しそうに、再挑戦の手続きを始めるのだった。




