第35話:受け継がれる「基本」と、状態異常の波状攻撃(プロレス)
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「あ、いた! ララ、見て、メデューサだよ!」 リザードマンの巣窟『蛇蝎の如く忌み嫌うは蛇の夢』の奥。視線を合わせれば即石化という、全配信者がもっとも嫌う魔物を見つけ、私は思わず声を弾ませました。
「ちょっとルル、不用意に近づいちゃダメ! 鏡を持ってる? 視線を合わせたら一瞬で終わりよ!」 ララが慌てて制止しますが、私には横穴のダンジョンで教わった秘策があります。
「大丈夫! シルフちゃん、ライブビューお願い!」 私の相棒、風の精霊シルフちゃんがふわふわとメデューサの死角に回り込み、その視界を私の配信用デバイスに転送してくれます。
「……よし、映像来てる。これなら直接見なくても位置がバッチリわかるね」 私は深夜さんに教わった『基本』を思い出しました。鏡面の剣はありませんが、シルフちゃんの映像があれば、目隠ししたままでも背後に回れます。
私はメデューサの視線を完全に避けながら、一気に背後へと滑り込みました。 「えいっ!」 ガシッ! と、メデューサの首を後ろから羽交い締めにします。深夜さんが言っていた通り、「気絶しないギリギリの加減」でヘッドロックを決めました。
「……な、何してるのよルル!?」 後ろでララが、杖を構えたまま絶句しています。
「深夜さんに教わったんだ。こうやって『即席の石化キャノン』にすれば、あっちのリザードマンたちをまとめて石にできるんだよ!」 私は拘束したメデューサの顔をグイッと動かし、襲いかかってきた魔物たちに向けました。
リザードマンたちは、自分たちの主の視線を浴びて、次々と物言わぬ石像に変わっていきます。 「ほら、簡単でしょ?」 私はニコッと笑って振り返りましたが、ララは引きつった笑顔で「……それは、全然『簡単』じゃないし、女の子がやる動きじゃないわよ……」と、かなり引いた様子で呟いていました。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
管理室のモニターには、またしても第1層の入口に転送されてきたAランク冒険者・ゲルトの姿がありました。
深夜 「……なぁ、魔王。あいつ、もう20回はリトライしてるぞ。さすがに見てて忍びなくなってきたな」
魔王 「ふん、諦めが悪い男だ。……だが深夜、勘違いするな。我がダンジョンは処刑場ではない。あくまでモンスターが有利な土俵で、冒険者の実力を引き出してやる『プロレス』の場だ」
深夜 「わかってるよ。でも、プロレスにするにも相手がリングに上がってこれなきゃ始まらないだろ? 第2層の罠で詰まりすぎだ」
俺は「ナハト」のメンバーで、今は4層の案内役をやっている黄昏を呼び出しました。
深夜 「黄昏、悪いけどゲルトさんとパーティを組んでやってくれ。罠の解除は任せる。……でも、モンスターとの戦闘には手を出さないでくれよ。あいつらにとっても、久しぶりの『試合』なんだからな」
黄昏 「お、深夜さんの頼みなら喜んで! 了解ですよ、そのおじさんをリングまで安全にエスコートしてくればいいんでしょ? 任せてください」
【ナハトのターン:魔境のチェックメイト】
(ナハト・黄昏の視点)
俺はAランク冒険者のゲルトさんと合流し、第2層へと足を踏み入れました。
黄昏 「ゲルトさん、根性ありますね! ここからは俺が罠をサクッと外すんで、あんたは戦いに集中しちゃってください」
ゲルト 「おおっ、助かるぜお兄さん! さすがナハトのメンバーだ、頼りになるなぁ!」
俺が機械式の仕掛けを鮮やかに無力化していくと、ゲルトさんは意気揚々と奥の広間へ。そこでは、深夜さんと魔王様が「配置」したモンスターたちが待ち構えていました。
黄昏 「……あ、始まった。ゲルトさん、ここからが本番ですよ」
まず現れたのは、猛毒の粉塵を撒き散らす『ポイズン・ピクシー』。ゲルトさんが解毒薬を飲もうとした瞬間、上空から『スリープ・モス(眠り蛾)』が鱗粉を降らせます。
ゲルト 「くっ、毒で体力が……それになんだ、この眠気……はっ!」
ゲルトさんが意識を保とうとした瞬間、とどめと言わんばかりに『コカトリス』の群れが突撃し、全方位から石化のブレスを吐きかけました。
黄昏 「うわ、毒で削って、睡眠で足を止めて、石化でフィニッシュ……。これ、完全に『詰み』のコンボじゃん」
俺も慌てて回避しようとしましたが、多層的に重なる状態異常の波に飲み込まれました。モンスターたちはまるで「どうだ、参ったか?」とでも言いたげに、得意げな顔でこちらを見ています。
ゲルト 「身体が……動か……ねぇ……ぐぅ……(カチーン)」
黄昏 「……あはは、モンスターが有利すぎでしょこれ……深夜さん、いいプロレスさせすぎだって……」
結局、俺とゲルトさんは「眠りながら石像になる」という、もはや芸術作品のような姿で第1層の入口へと強制転送されました。
ゲルト 「はは……ははは! あの連携、完璧すぎる! モンスターに完敗だ、清々しいぜ!! もう一回、もう一回だ!!」
ボロボロになりながらも、さらなる「試合」を求めて立ち上がるゲルトさんを見て、俺は「……深夜さん。……このおじさん、もう完全にこのリングの虜ですよ」と、苦笑いしながら空を見上げました。




