第34話:格付けチェックと、再試行(リトライ)の快感
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「ふぅ……。ララ、ちょっと休憩にしようか」 モンスターの気配がない『準備エリア』に腰を下ろし、私は配信用の小型カメラを岩場に固定した。
「ええ、そうね。……あ、今のルルのタメ口、自然で良かったわよ」 黒魔法使いのララが、杖を壁に立てかけながら悪戯っぽく微笑む。彼女は私より年上のお姉さんだけど、「同じくらいの規模の配信者なんだから対等でいい」と言ってくれた。そのお陰で、今は本当の相棒みたいにリラックスして話せている。
「えへへ、ありがとう。……ねえ、ララは最近どこか面白いダンジョンに行った?」 「そうね……ここから少し北にある『魔法使いの幻想郷』かしら。あそこは特殊な環境魔法のせいで、魔法の威力が通常の2倍になるのよ。攻撃特化の私にとっては、文字通りの楽園ね」
「2倍!? すごい……! 私も行ってみたいな。私のおすすめは、家の裏山にある『横穴のダンジョン』かな。あそこ、見た目は地味なんだけど、ギミックがすっごく手強くて……。私もまだ全然攻略できてないんだ」
私たちはリスナーからのコメントを拾いながら、次の冒険の予定を楽しそうに語り合った。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
裏山の『横穴のダンジョン』。 管理室のモニターを見つめながら、俺は困惑していた。
深夜 「……なぁ、魔王。あいつ、また戻ってきたぞ。これで15回目だ」
魔王 「当然だ。我が調整した罠を、人間風情がそう簡単に抜けるはずがなかろう。……深夜、ビール。早く」
ソファで不遜に踏んぞり返る骸骨――魔王は、俺が差し出した缶ビールのプルタブを骨の指で器用に開けた。
現在、うちの第2層には『全国冒険者組合』から派遣されたAランク冒険者のゲルトが挑んでいる。 なんでも、新しいダンジョンの難易度を測定してランク付けする「格付けチェック」の一環らしいのだが……。
深夜 「振り子斧と落とし穴の複合トラップで、さっきから一歩も進めてないな。……おい、これ本当にやりすぎてないか? 『ゆるい経営』を目指してるんだぞ?」
魔王 「……何を言う。余にとっては『あくびが出るほど退屈』な設定だ。……文句があるなら、あの男の不甲斐なさを嘆け」
俺の「普通」と魔王の「普通」が、世間の「普通」から大きく逸脱している可能性が濃厚になってきた。Aランクが第2層で詰んでいる現状に、俺は少しだけ頭が痛くなってきた。
【ナハトのターン:リトライの沼】
(ナハト・メンバーの視点)
第1層の入口にある『再入場口』。 そこから、ボロボロになったゲルトが転送魔法で吐き出された。
ゲルト 「ぐはぁっ! くっそぉ、あのタイミングで床が抜けるとは……!」
普通、Aランクともなればプライドが高く、低層階でやられたら怒るか恥じるものだ。だが、ゲルトは違った。
ゲルト 「ははっ……最高だ! まるで昔の攻略難易度に戻ったみたいだ。今のぬるいダンジョンじゃ味わえない、このギリギリの感覚……! たまらねぇ!」
彼は目を血走らせ、汗を拭いながら再びゲートへと駆け込んでいく。
曙 「……あんなに楽しそうに死に戻るAランク、初めて見たぞ」
宵闇 「本当ね。あんなに何度もやり直して……もう『中毒(沼)』ね、あれは」
受付に立つ真昼は、再入場の手続きをする彼に「お気をつけて、いってらっしゃいませ」と聖女の微笑みを向けている。 なかなか第2層をクリアできないAランク冒険者と、それを見守る運営側。 『横穴のダンジョン』は、深夜の預かり知らぬところで、コアな冒険者たちを惹きつける魔境になりつつあった。




