第33話:寄り添う聖女と、スロット切り替えの銃火
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さん、こんにちはー! 本日の配信はリザードマンの巣窟『蛇蝎の如く忌み嫌うは蛇の夢』の地下3層からお届けします! そして今日は、黒魔法使いのララとのコラボ配信だよ!」
ドローンカメラに向かってピースをすると、隣でララも小さく手を振ってくれた。 ララは私よりもいくつか年上のお姉さんだけど、登録者数は私と同じくらいの駆け出しe-Tuberだ。さっき出会ったばかりの時、私が敬語を使っていたら「同じくらいの規模の配信者なんだから、対等でいいわよ。タメ口でいきましょ」と笑って言ってくれたのだ。
ララ 「ちょっとルル、前回のゴブリンダンジョンみたいに無駄撃ちしないでよ? 弾がもったいないわ」
ルル 「わかってるって! だからさっき、入り口のショップでちゃんと属性弾の補充してきたんだから」
私の銃は、スロットを切り替えるだけでセットした魔法石の属性を弾に付与できる。装備を新調してからずっと愛用している相棒だ。
ルル 「右から三体来る! ララ、攻撃お願い!」
ララ 「任せて! 『爆炎』!」
ララの杖の先から、凄まじい熱量の炎が放たれ、リザードマンたちを吹き飛ばす。 『黒魔法使い』というと闇や影の魔法を使いそうに思われがちだけど、実際は炎や雷などの『攻撃系魔法を多く取得できるジョブ』のことなのだ。ララの高火力で敵の体勢が崩れた隙に、私は銃の属性スロットを「氷」にカチャッと切り替える。
ルル 「追撃いくよ! 属性弾、発射!」
バァンッ! と放たれた冷気の弾丸が、炎で怯んだリザードマンたちを綺麗に凍りつかせた。
ルル 「よしっ、完璧! 高火力と属性変化のコンビ、最高だね!」
ララ 「ええ、悪くないわね。……さあ、どんどん進むわよ!」
私たちは同格のパーティとしてハイタッチを交わし、さらにダンジョンの奥へと足を踏み入れた。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
裏山の『横穴のダンジョン』。 管理室のソファに寝転がりながら、俺は缶ビールのプルタブを開けた。 今日の客入りは、ざっと5人。大繁盛とは程遠いが、俺としてはこれくらいの緩やかなペースが一番性に合っている。
魔王 「深夜。酒が空だ。私の分も開けろ。早くしろ」
隣で同じくソファに座る2メートルの骸骨――共同経営者の魔王が、空になったグラスを不躾に突き出してきた。
深夜 「はいはい、わかってるよ。お前、骨のくせにやけに飲むな。……ほらよ」
魔王 「当然だ。……客が少ない。退屈。もっと罠を凶悪にするべきか。私が直々に炎を放ってやろうか」
深夜 「やめとけって。うちはのんびり営業でいいんだよ。ほら、モニターを見てみろ。真昼が上手くやってる」
受付カウンターの映像には、「ナハト」の創設メンバーである真昼の姿が映っていた。 彼女の前には、さっきから第1層に入っては失敗して戻ってくる、5人のソロ冒険者たちがうなだれている。
よく転ぶおっちょこちょいな剣士。
魔物に怯えて一歩も前に出られないビビり戦士。
第1層の小傷でポーションを使い切るリソース管理下手な錬金術師。
逆に、死にそうになるまで回復魔法を出し惜しみするアイテムをケチる白魔法使い。
そして、予備の武器や矢を持ちすぎて動けなくなっている装備が重すぎる弓使い。
彼らがまた各々で再入場しようとしたその時、真昼が聖女のような優しい微笑みを浮かべて声をかけた。
真昼 「皆さん、何度も挑戦されてお疲れのようですね。……もしよろしければ、少しだけ私とお話をしませんか?」
真昼は彼らをベンチに座らせ、温かいお茶を差し出しながら、柔らかい口調で諭し始めた。
真昼 「剣士さんは少し足元がお留守になりがちですね。でも、戦士さんが後ろでしっかり警戒してくれれば安心です。錬金術師さんと白魔法使いさん、お二人で話し合ってアイテムと魔力の使い所を決めれば、無駄がなくなりますよ。そして弓使いさん、皆さんに少し荷物を持ってもらえれば、もっと身軽に弓を引けるはずです」
冒険者たち 「あっ……」
真昼 「皆さん、それぞれの長所と短所が綺麗に噛み合っています。ソロで挑むのも立派ですが……5人で一つのパーティを組んでみてはいかがでしょう? きっと、素晴らしい冒険になりますよ」
真昼の穏やかで慈愛に満ちた提案に、5人の冒険者たちは顔を見合わせ、やがてパァッと表情を明るくした。
魔王 「……ふん。お前の仲間のメス、なかなか悪くない提案をする。論理的だ。認めてやる」
深夜 「だろ? あいつは昔から、ああやって優しく背中を押すのが上手いんだよ。……さて、彼らが第2層に行けた時のために、少しだけ難易度を調整しておいてやるか」
【後書き:ナハトのギルド創世記】
(ナハト・メンバーの視点)
第4層、モンスター商店街。 モニター越しに真昼の様子を見ていた曙が、ホッと息を吐いた。
曙 「真昼のやつ、すっかり受付とアドバイザーが板についてきたな。あの優しい笑顔、昔一緒にパーティを組んだばかりの頃を思い出すよ」
宵闇 「そうね。お客さんが5人しかいなくても、あんなに丁寧に一人一人と向き合うなんて、真昼らしいわ」
そこへ、経理担当の丑三つ(うしみつ)がお茶を運びながらやってきた。
丑三つ 「今のところ、売り上げはボチボチだけどね。負債もないし、深夜様の言う『のんびり経営』には、これくらいがちょうどいいペースだよ」
黄昏 「……魔王様も、深夜様と仲良く飲んでる。……平和なダンジョン。……すごく、いい」
客足はまばらでも、訪れた冒険者は確実に成長していく。 『横穴のダンジョン』は、深夜と魔王、そしてナハトのメンバーたちの手によって、優しく温かい場所として少しずつ形作られ始めていた。




