第31話:属性弾の軌跡と、冷え切った受付カウンター
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さん、今の見ました!? 氷結弾から毒弾へのクイックチェンジです!」
私は今、シルフさんが回すカメラの前で、これまでにない高揚感の中にいました。
ガンナー装備に切り替えたことで、私の「器用さ」と「素早さ」のステータスは大幅にブーストされています。
以前の私なら、ゴブリンメイジの魔法詠唱を見ただけでパニックになっていたでしょう。でも、今は違います。
「シルフさん、10時方向! 風、お願いします!」
『承知いたしましたわ、ルル様!』
私が放った属性弾が風に流されそうになる瞬間、シルフさんが完璧なタイミングで風向きを調整し、弾道を補正してくれます。
吸い込まれるようにゴブリンの急所を撃ち抜く弾丸。画面端に流れるコメント欄は、まるでFPSの神プレイ動画を見ているようだと、かつてないほどの盛り上がりを見せていました。
「ふふん、この『魅せるバトル』こそが配信者の醍醐味だよね! シルフさん、3層をクリアしたら街で一番大きな特製パフェ、食べに行こう!」
『あら、いいですわね。ベリーたっぷりのが食べたいですわ!』
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「いやー、叔父さんの形見の山をどうにか活用しようと思ったんですけど……経営って難しいですね」
俺が監視モニターを眺めながら呟くと、隣でへたり込んでいた小鳥さんが、震える声で突っ込んできました。
「深夜さん……そもそも、叔父様はダンジョンなんて経営してませんでしたよね!? 確か、裏山のコボルトたちと一緒にお酒を飲んでいただけのはずじゃ……」
「ええ、そうです。ただの長閑な裏山でした」
「じゃあ、なんでこんな『初見殺しの詰め合わせ』みたいな場所になっちゃったんですか! ピョッ!!?」
小鳥さんはモニターに映る2層の「窒息ワープ罠」を見て、また変な悲鳴を上げました。
「深夜さん、これは死人が出るとか以前の問題です! 難易度がバグりすぎていて、一般の冒険者からは『クソゲー』扱いされますよ! 悪評が広まって誰も来なくなったら、経営が立ち行かなくなります!」
「顧客層を絞りすぎです! すぐにギルドの監査部門を呼んで、正式な難易度設定と認可を受けないと……このままだと誰も幸せになれない殺戮迷宮ですよ!」
必死に訴える小鳥さんを見て、俺は「叔父さんみたいにコボルトと酒を飲むだけの山」にするには、少し知識を詰め込みすぎたかな……と、ほんの少しだけ反省するのでした。
【後書き:ナハトの戦況分析会】
(ナハト・メンバーの視点)
「……またリタイアね。次の方」
受付カウンターに座る真昼の声は、もはや物理的に周囲を凍らせるほどの冷気を纏っていました。
1層のミミック部屋で心を折られて帰還する若手冒険者たちに、彼女の視線は容赦ありません。
「今の冒険者って、ちょっと難易度が高いとすぐ諦めちゃうのね……。教育が必要かもしれないわ」
真昼の横で受付を手伝う黄昏は、彼女から放たれる「氷点下のプレッシャー」に、冷や汗を流しながら「深夜さん……早くこっちに来て……」と心の中で祈っていました。
しかし、真昼の苛立ちの矛先は、軟弱な冒険者たちだけではありません。
管理室の入り口で、小鳥さんが深夜に「もっと経営を考えなきゃダメです!」と詰め寄り、顔を近づけて熱弁している様子が目に入ります。
「…………」
ミシミシ、と真昼が握る受付用バインダーが悲鳴を上げました。
憧れの深夜を「変なコンサルタント」から守りたいのか、あるいはただのヤキモチなのか。彼女の中の「モヤモヤ」は、ダンジョンの難易度以上に複雑に絡み合っていくのでした。




