第30話:栄誉市民の特権と、適材適所の運営陣
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「ええっ!? これ、私がもらっちゃっていいんですか……?」
私の手の中には、鈍い銀色に輝く重厚な鍵が握られていました。
第5層の宴をクリアした者にのみ贈られるという「栄誉市民」の証——。これがあれば、外界から直接、あの賑やかな第4層の「モンスター商店街」へ行くことができるのだそうです。
「でも、いいのかな……。ダンジョンって、自分の足で攻略してこそ価値があるものなんじゃ……」
そんな私の不安を見透かしたように、シルフさんが笑って言いました。
「いいのですわ、ルル様。これはあなたの『強さ』と『飲みっぷり』が認められた証なのですから。それに……あの第3層を毎回通りたいかと言われれば、正直……」
「……あ。そうだね、ショートカット、ありがたく使わせてもらおうかな」
私は鍵を胸に抱き、新たな冒険の形に胸を躍らせるのでした。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「……はぁ。やっと一息つける」
宴会場の片付けを魔王さんの配下たちに任せ、俺は受付デスクにどっかりと腰を下ろした。
腕は再生したし、リハビリも済んだ。ここからは本格的にダンジョンを回していかなきゃいけないんだが……正直、問題が山積みだ。
「魔王さん、俺、やっぱり受付業務とか経理とか……そういう細かいのは向いてないわ。本当はもっと、叔父さんの残したレシピの再現とか、新しい設備の考案とか、やりたいことがたくさんあるのに……」
お客さんが来れば受付をしなきゃいけないし、収益の計算もしなきゃいけない。
だが、俺が本当にやりたいのは「モンスターが尊厳を持って生きられる世界」を作るための、もっとクリエイティブな現場仕事なんだ。
「かといって、魔王さんにレジ打ちをさせるわけにもいかないしなぁ……」
俺が頭を抱えていると、背後から複数の足音が近づいてきた。
【後書き:ナハトの戦況分析会】
(ナハトのメンバーの視点)
「深夜さん、その悩み……私たちに解決させてください!」
真昼の声が、静かな受付ロビーに響いた。
深夜さんが振り返ると、そこにはナハトの全員が、かつてないほど引き締まった表情で並んでいた。
「さっきの話、聞こえていました。深夜さんは深夜さんにしかできない仕事に専念すべきです」
真昼が一歩前に出る。「受付業務なら、私と黄昏で引き受けます。接客には慣れていますし、冒険者のニーズもわかりますから」
「……経理、僕がやる」
普段は無口な丑三つが、どこから取り出したのか算盤をパチリと鳴らした。
「露天商なら私の速度が活きるわね。商品の回転率、世界一にしてみせるわ」
宵闇が不敵に微笑む。
「4層の商店街の用心棒は俺に任せてくれ。力自慢の魔物たちとも、盾を交えれば言葉はいらないはずだ」
曙が太い腕を組んで笑う。
「深夜さん、俺たちがいるんです」
黄昏が深夜の手を再び握りしめる。
彼らの瞳には、かつての「神格化された英雄」を追うだけの姿はなかった。
今この場所で、深夜と共にダンジョンを支えようとする、プロフェッショナルな「運営スタッフ」としての光が宿っていた。




