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引きこもり元オレツエー剣士の無茶苦茶ダンジョン経営  作者: 姫宮代


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第-6話:山奥の夏至、終わりのち始まり


(地元の農家・日陰の視点)

 岐阜の山奥、数えるほどしか住民が残っていない限界集落。

 ここには、親族からも「変わり者」と呼ばれ、人里に滅多に下りてこない『夏至げし』という老人が一人で暮らしていた。

 俺たち地元の人間は、夏至さんが時折、裏山の古い横穴に入っていくのを知っていた。ある日、野良仕事の帰りに見ちまったんだ。夏至さんが、犬の獣人みたいな魔物――コボルトたちと車座になって、ゲラゲラ笑いながら地酒を酌み交わしている異様な光景を。

 普通なら大騒ぎして駆除を頼むところだが、夏至さんは「あいつらは不器用だけど、俺の最高の飲み仲間なんだ」と愛おしそうに話していたから、俺も黙っておいてやった。

 だが、そんな奇妙な平穏が、ある日突然破られた。

「お、おい日陰! 大変だ! 山から犬の化け物がたくさん下りてきやがった!」

「猟友会を呼べ! 警察だ!」

 集落の直売所の前が、見たこともないパニックに陥っていた。

 見れば、数匹のコボルトたちが、人里の道に迷い込んでいる。住民たちは武器を手に怯えていたが、俺はすぐに違和感に気づいた。

日陰 「待て、みんな落ち着け! こいつら、人を襲う気はねえぞ」

 コボルトたちは牙を剥くどころか、耳をペタンと寝かせ、何かを探すようにクンクンと地面や空気を嗅ぎながら、悲しそうに「キュー、キュー」と鳴いていた。その毛並みに見覚えがあった。

日陰 「……これ、夏至のじいさんのところにいた奴らじゃねえか?」

 いつもなら夏至さんが裏山にやってきて、美味そうなおかずや酒をくれるはずの時間。なのに、あのおじいさんが一向に現れない。餌がもらえなくて困ったというよりは、大好きな存在の姿が見えなくて、心配でたまらずに人里まで探しに来てしまった――そんな顔をしていた。

 嫌な予感が胸を過った。

 俺はコボルトたちを刺激しないように宥めながら、山の中腹にある夏至さんの古い一軒家へと急いだ。コボルトたちも、俺のあとを心配そうについてくる。

日陰 「夏至さん! いるか! 夏至さん!」

 返事はない。鍵の開いていた玄関から中に入り、奥の和室を覗き込んだ瞬間、俺は息を呑んだ。

 夏至さんは、布団の上で静かに横たわっていた。

 苦しんだ様子はどこにもない。まるで、良い夢でも見ながらそのまま眠りについたかのような、穏やかな大往生だった。

日陰 「……おいおい、急すぎるだろ、じいさん。昨日まであんなに元気そうに酒を飲んでたのによ……」

 俺が縁側に歩み出ると、庭先で様子を窺っていたコボルトたちが、開いた障子の隙間から室内の様子をじっと見つめていた。

 彼らは夏至さんの姿を見た瞬間、すべてを察したように、その場に力なくへたり込んだ。小さく、消え入りそうな声で「キュウゥン……」と鳴き、涙を流して肩を震わせている。

 魔物だろうが何だろうが、この純粋な悲しみを見れば、彼らがどれほど夏至さんを慕っていたかが痛いほど伝わってきた。

日陰 「お前たち……夏至さんを探しに来てくれたんだな。わざわざ報せに来てくれて、ありがとよ。おかげで、じいさんを一人ぼっちで寂しく逝かせずに済んだ」

 俺は、役場や警察に連絡を入れる前に、自分の軽トラの荷台から一本の一升瓶を下ろした。俺が自分で造っている、地元の美味い日本酒だ。

日陰 「これは夏至のじいさんへの手向けだ。じいさん、お前たちと飲む酒が一番美味いっていつも自慢してたからな。じいさんの代わりに、お前たちでこれを飲んで、静かに送ってやってくれ」

 俺が一升瓶を差し出すと、一番大きなコボルトが、まるで壊れ物を扱うかのように大切に、両手で一升瓶を抱え込んだ。

 コボルトたちは、俺に向かって何度も深く頭を下げると、一升瓶を抱いたまま、寂しげに裏山の横穴へと帰っていった。

 彼らにとって「人間の持ってくるお酒」は、大好きな夏至さんとの絆であり、人間との温かい繋がりそのものになったのだ。

 その後、夏至さんの遺品を整理した役場の手によって、遠方に住む元冒険者の甥――『深夜』の元へと、一枚の遺書と葬式のお知らせが送られることになる。

 大好きな主を失い、裏山の横穴で寂しく日本酒を分け合っていたコボルトたちの元に、やがて、夏至さんによく似た雰囲気を纏った「新たな最高のおじさん」が、安物の干し肉とコニャックを持って現れるのは、それから間もなくのことだった。



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