第28話:かつての魔王を踊らせて、重力圏の這行
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「あはは……あはははは! 人間って凄い! 人間ってあそこまでできるんだぁ!」
私の頭の中では、何かがパチンと音を立てて弾け飛んでいました。
目の前で繰り広げられているのは、もはや魔法やスキルの応酬なんて生易しいものじゃありません。世界の理そのものを書き換えるような、神話の再演。
それを見せつけられて、私のSAN値は完全に底をつきました。
「人間って素晴らしい! 生きてるって素晴らしい! ああ、これが人間なんだ! 万物の霊長なんだぁぁ!」
シルフさんが「ルル様、しっかりなさって!」と揺さぶってくれていますが、今の私にはこの「人間讃歌」を叫ぶことしかできませんでした。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
パチ、パチ、パチ、と。
静かだが、宴会場の喧騒を貫くような拍手が響いた。
中央に歩み出てきたのは、優雅な礼装に身を包んだ魔王さんだった。
『素晴らしい。……これほどの武を目の当たりにすると、かつての宿敵——私と互角に渡り合った「勇者」を思い出してしまいますね』
魔王さんは懐かしむように目を細め、俺を見て優雅に一礼した。
『管理人殿。宴の締めとして、少し踊りたくなってしまいました……お手を拝借できますか?』
「……いいぜ、魔王さん。やろうよ!」
俺は剣を構え直し、気持ちよく返事をした。
その瞬間、魔王さんが指を鳴らす。
空に巨大な魔法陣が展開され、そこから——数え切れないほどのゾンビが、雨のように降り注いできた。
「うおっ、ゾンビの雨か!」
俺は「飛ぶ斬撃」をメインに使い、頭上から迫る腐肉の塊を次々と弾き飛ばしていく。
だが、それはただの目眩ましに過ぎなかった。
ゾンビの影に隠れて詠唱を終えた魔王さんが、俺の目の前に「漆黒の球体」を設置する。
「……ブラックホールか!」
空間が歪み、凄まじい引力に体が引き寄せられる。俺は寸前で危機を察知し、地面を蹴って距離を取った。
回避しながら、足元に落ちていたゾンビの大腿骨を拾い、魔王に向かって全力で投げつける。
『甘いですよ』
魔王さんは雷撃を放ち、飛来する骨を空中で撃ち落とす。そのまま連続で、極大の電撃が俺を襲った。
俺は二本の剣を地面に深く突き刺す。
「ふんっ!」
避雷針の要領で電撃を地面へと逃がす。
そのまま地を這うような超低空の突進で魔王に迫るが、奴の周囲一帯が強力な重力場へと変貌した。
「ぐっ……!」
強引に地面へ叩きつけられる。
だが、これは予想通りだ。俺はあえて重力に従い、全身を蛇のようにくねらせて「匍匐前進」へと切り替えた。
重力で潰されそうになりながらも、地を這う速度は一切落ちない。
魔王さんの足元へ滑り込む。
そのまま、奴の背後に回り込み——背骨を強引に引き抜き、露出した心臓部のコアを掴み取った。
「……はぁ、はぁ。……俺の勝ちだ」
『……お見事。辛勝、といったところでしょうか』
魔王さんはコアを抜かれて霧散しながらも、満足そうに微笑んでいた。
【後書き:ナハトの戦況分析会】
(ナハト・メンバーの視点)
「……だから嫌だったんだああああ!!」
ブラックホールの余波に巻き込まれそうになり、真昼が髪を振り乱して絶叫していた。
熟練パーティなはずのナハトだが、今の戦いの余波だけで全員が死を覚悟していた。
「……避雷針とか、匍匐前進で重力場を突破するとか……、深夜の戦いの発想が人間じゃないわよ」
真宵が盾の影でガタガタと震えている。
「ブラックホールを置いておきながら、最後は背骨を抜かれるなんて。あんなの、どんな歴史書にも載ってないわよ……」
曙も丑三つも、もはや戦評を述べる気力すら残っていなかった。
「……深夜さん……マジで人間なのかな……」
ただ一人、呆然と呟く黄昏の言葉に、ナハトの全員が心の中で「それ だけは同感だ」と頷くのだった。




