第26話:斬撃無効(?)のスライムと、ヌルヌルの屈辱
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
私はただ、深夜さんの姿を食い入るように見つめていました。
e-Tuberとして活動していると、つい「どう映るか」ばかり考えてしまうけれど、深夜さんの動きには「魅せる」ための虚飾が一切ない。それなのに、一太刀ごとに空気が震え、火花が散るような錯覚さえ覚える。
ただそこに立って、剣を振る。
その純粋な武の美しさに、私は瞬きすることさえ忘れていました。
「……私も、いつかあんな風に……」
カメラのレンズ越しではない、本物の「強さ」がそこにはありました。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「さて、次は……。お、巨大スライムか。いいのが来たな」
宴会場の中央に、家一軒分ほどもあるプルプルとした巨体——巨大スライムが現れた。
スライムは剣士にとって圧倒的に相性が悪い。刃を通しても手応えがなく、ダメージを与えにくい天敵だ。
「リハビリにはちょうどいい工夫が必要だな。えいっ!」
俺は二本の剣を高速で振り抜く。
ただの斬撃では意味がない。俺は剣風を圧縮し、叩きつけるような「衝撃波」を連続で放った。
本来、結合力の強いスライムの細胞を、強引に弾き飛ばして千切り取っていく。
シュパシュパシュパッ!! と、小気味よい音が響くたび、家ほどもあった巨体がみるみるうちに削られ、小さくなっていく。
「よし、隙あり」
一気に距離を詰め、スライムの核が露出した瞬間に、右手を突っ込んでそれを一気に引き抜いた。
これで終わりだ。……が、俺は自分の右腕を見て、激しいショックを受けた。
「……うわ、最悪だ。ヌルヌルする……」
引き抜いた核を持った右腕が、スライムの粘液でベッタリと汚れている。
全盛期の感覚なら、粘液に触れる前に衝撃波で道を作り、一滴も汚さずに核だけを奪えたはずなのに。
「……落胆した。現役の頃なら、絶対にこんな汚し方はしなかった。やっぱり右腕のキレが絶望的に足りないな……」
俺は地面に膝をつき、ヌルヌルになった右腕を見つめて深くため息をついた。
【後書き:ナハトの戦況分析会】
(ナハト・メンバーの視点)
「カッケー!! 剣士の天敵のスライムを、あんなに鮮やかに斬り刻むなんて! さすが深夜さんだ!」
深夜がスライムを圧倒する光景を見て、黄昏が目をキラキラさせて叫ぶ。
「……黄昏くん、よく見て。あれ、斬ってないわよ」
真昼が頭を押さえながら、絶望的な事実を告げる。
「え? 剣でシュパシュパやってましたよ?」
「深夜さんの剣の向きを見てごらんなさい」
黄昏が目を凝らす。
そこには、深夜が持つ二本の剣が、刃を寝かせた状態で——つまり「腹」の部分を外側に向けて構えられている光景があった。
「本当だ……。剣が横を向いてる……。えっ、じゃあどうやって刻んだんですか?」
「……剣の腹で空気を叩いて、その『圧力』だけでスライムを千切ってたのよ。もはや剣術ですらないわ。あんなの、超精密な質量の暴力よ……」
真宵が震える声で補足する。
物理的に「斬れない」相手なら、空気の壁で「粉砕」すればいい。
そんな狂った理論を、しかもリハビリついでにやってのける男。
深夜が「汚れた」と本気で落ち込んでいる後ろで、ナハトの面々は自分たちが必死に磨いてきた「スキル」という概念が、音を立てて崩れていくのを感じるのだった。




