第25話:ホーミング毒ビームと、管理人さんの昇竜拳
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「……ねえ、シルフさん。今の、見えた?」
「見えませんわ。わたくし、風の精霊ですけれど……今の深夜様の動きは、風すら置き去りにしていましたもの」
私の目の前で起きていることは、もはや理解の範疇を超えていました。
これが、冒険者の頂点。SSSランクという、私たちが一生かけても届かないはずの場所にある景色。
あまりの理不尽さに恐怖すら感じるはずなのに、私の胸は不思議と高鳴っていました。
「……私も、いつかあんな風に……」
無謀だとわかっていても、その背中に憧れを抱かずにはいられない。そんな圧倒的な輝きが、そこにはありました。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「ごめんオークくん、お疲れ様。……さて、次はマンティコアさん、お願いできるかな?」
俺の指名に、人面獅子のマンティコアが「ガァッ!」と鋭い咆哮を上げ、真ん中へ進み出た。
オークと違ってこいつは厄介だ。特にあの尻尾。先端から放たれる毒ビームは、対象を執拗に追いかけるホーミング性能を持っている。
「……よし、来い」
マンティコアが鋭く尾を振る。案の定、紫色の毒ビームが放たれ、空中で軌道を変えながら俺の心臓を狙ってきた。
俺はそれを冷静に見切り、最小限のステップでビームの軌道を逸らすように回避。すかさず一気に距離を詰め、相手の懐——腹下へと潜り込んだ。
(よし、ここから一気に……!)
俺は二本の剣を逆手に持ち替え、空いた拳を固める。そのまま下腹から思い切り――殴り上げた。感覚としては、昔ゲームで見た「昇竜拳」に近い。
「せいやっ!」
ドンッ!! と、宴会場の空気が爆ぜるような音が響く。
まともに食らったマンティコアが、巨体をくの字に曲げて真上へと跳ね上がった。
(よし、打ち上げ成功。あとは……!)
滞空するマンティコアに対し、俺は逆手の剣を瞬時に順手へと持ち替える。
右腕の筋力を補うように全身のバネを使って、空中で細切れにする。
シュパパパパパパッ!!
一瞬、空中にマンティコアの残像が多重に重なった。
数秒後、地面に落ちたのは12個の綺麗な肉塊だった。
「……はぁ。がんばっても12等分か……。下腹への一撃も、もっと滑らかに拳に力を伝えられたはずなのに。やっぱり鈍ってるなぁ……」
俺はまた、自分の右腕を見つめて溜息をついた。
全盛期なら、今のタイミングでもう数回は剣を重ねられたはずだ。リハビリの道のりは、思った以上に険しい。
【後書き:ナハトの戦況分析会】
(ナハト・メンバーの視点)
深夜が「12等分かぁ……」と項垂れている後ろで、ナハトの面々はもはや乾いた笑いしか出なくなっていた。
「……ねえ、今のもスキル(技術)じゃないのよね?」
真昼の問いに、真宵が力なく首を振る。
「ええ、ただの身体能力。反則よ……。剣士のくせに、なんであんなに綺麗な昇竜拳が出るのよ。しかもスキル無しの素のパンチで、あの巨体をあんな高さまで……」
そんな中、黄昏が驚いたように深夜に駆け寄った。
「深夜さん! 今、腹下に潜り込んだ時のあれ、『縮地』ですよね!? ホーミングビームをあんな紙一重でかわして潜り込むなんて、高等歩法スキルですよね!?」
「え? いや、別にスキルなんて使ってないぞ。ただ普通に、隙が見えたから踏み込んだだけだけど……」
「ええっ!? スキルなしで今の機動力なんですか!?」
「……黄昏くん。深夜さんはスキルを使えるらしいけど、私たちも彼が使ってるところ、一度も見たことないのよ」
真宵の言葉に、黄昏は開いた口が塞がらないといった様子で固まった。
「スキルを使わずに、スキルの限界値を超えた動きをする……。やっぱりあの人、存在そのものがバグだわ」
四天王たちが深夜の底知れなさに改めて震える中、リスポーンしたマンティコアは「何が起きたか分からんが、とにかく凄まじい衝撃だった」といった様子で、ガクガクと震えながら座り込んでいた。




