第24話:酒の肴の模擬戦(リハビリ)と、細切れの皇帝
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「……シルフさん、ドローンは下げて。レンズキャップも絶対外さないでね」
「あら、撮影しませんの? 絶好のシャッターチャンスだと思いましたのに」
「ダメだよ! ここにいるの、一匹でも映ったら世界がひっくり返るようなモンスターばっかりだもん。これ、配信に載せたら私、消されるよ……」
私は震える手で機材をバッグにしまい込んだ。
どうやら深夜さんが、ここにいるモンスターたちと「テスト」をするらしい。それを眺めるナハトの皆さんに、私は恐る恐る尋ねてみた。
「あの……深夜さんって、昔からああだったんですか?」
「ええ……。彼が怪我をする前のナハトは、ほぼ彼の『ワンマンチーム』だったわ。彼一人の武力で、パーティをSSSランクまで押し上げたのよ」
SSSランク。歴史上の偉人にしか付かないような称号。
そんな伝説を一人で支えていた人が、あんなに申し訳なさそうに「うちのバイト、どうかな……」なんて言っているなんて。私は今日、カメラを通さず、自分の目だけでその「真実」を焼き付けることにした。
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「よし、せっかくみんな集まってくれたし、盛り上げていこうか!」
俺は自分に気合を入れるように呟いた。
ドラゴンもグリフォンもヒドラも、みんなが酒の席の手を止めて車座になって集まってくれる。
魔王さんが気を利かせて、拡声魔法でアナウンスを入れてくれた。
『——さぁ、宴の余興だ! 腕に自信のある者は、真ん中へ出よ! 管理人殿が直々に稽古をつけてくださるぞ!』
……魔王さん、ちょっと「管理人殿」とか言うのやめてほしい。
最初に出てきたのは、豪華な装飾を纏ったオークの最終進化系——オークエンペラーだった。
「お、オークエンペラーか。懐かしいな。駆け出しの頃、小遣い稼ぎによく狩っていたっけ」
俺は二本の剣を抜き、軽く構える。
……やっぱり、右腕の感覚がまだ完全には戻っていない。
2年のブランクは思った以上に深刻だ。今は左腕の方がよっぽど使いやすい。
(身体がついてこないな……。動きは見えてるのに、ワンテンポ遅れる感覚だ)
オークエンペラーが雄叫びを上げ、山のような棍棒を振り下ろしてくる。
大振りで大味。リハビリには丁度いい。俺はオークの足元を軽く掬って浮かせてから、右腕のテストも兼ねて、空中で細切れにしてみることにした。
(一、二、三……。あ、やっぱり右の振りが甘いな)
空中に放り出された巨体が、俺の二本の剣によって刻まれる。
……結果、オークエンペラーは十個の綺麗な肉塊となって、地面にボトボトと落ちた。
「……はぁ。やっぱり鈍ってるな。今の動きでも足が追いつかなかったし、10等分までしかできなかったよ」
俺は申し訳ない気持ちで、ナハトの面々の方を振り返った。
リハビリとはいえ、こんな不格好な「10等分」なんて最低ラインを見せてしまって、彼らの参考になっただろうか。
バラバラになったオークエンペラーは、すぐに黒い霧となって消え、数秒後には元の元気な姿でリスポーン(再構成)してきた。「グォ……?」と、自分が斬られたことすら理解していないような顔をしている。
よし、今の感触を忘れないうちに、次はもっと動けるやつで試させてもらおう。
【後書き:ナハトの戦況分析会】
(ナハト・メンバーの視点)
深夜が「ごめん、今のじゃ練習にならないな」と申し訳なさそうにしている後ろで、ナハトの面々は戦慄していた。
「……深夜さん、完全に遊んでるわね」
真昼が、光の消えた瞳で乾いた笑いを漏らす。
「遊んでるどころじゃないわよ。私、敵が1回動く間に6回は動けるけど……それでも今の真似は無理。6回動いて刻むのと、あの一瞬に10の斬撃を『同時に』叩き込むのは、次元が違う。物理法則がバグってるわ……」
真宵が、自分の武器を握りしめたまま、絶望したように呟いた。
「……防げない。あれは防御の概念がない」
曙が、重厚な盾の陰で顔を青くさせる。
「魔法で再現しようとしても、あんな短時間に多重発動なんて……。魔法使いからしたら、ただの天災だわ」
丑三つが、震える手でロッドを握りしめる。
そんな中、一人だけ目が爛々と輝いている男がいた。
「カッケー!! さすが深夜さん!! 10等分ですよ! 芸術品ですよあれは!!」
「「「こいつ、ダメだ(メンタルがSSSランクだ)……」」」
喜び勇んで深夜に駆け寄る黄昏の後ろ姿を、四天王たちは深い溜息とともに見送るしかなかった。




