第22話:魔境の酒盛りと、魔王の組体操
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
第5層への重厚な扉を開けた瞬間、私の脳は処理を拒否しました。
「……あ、あはは。ドラゴンが……日本酒飲んでる。吸血鬼のお姉さんが、悪魔さんとお酌し合ってる。あと、あそこにある山みたいなの……八岐大蛇? 九尾の狐さんも……?」
そこにいたのは、教科書に載っていたら「遭遇した瞬間に遺書を書け」と言われるような、伝説級の怪物たち。
もしこの光景が外に漏れたら、「国家転覆を企む魔軍の集結」として全世界に宣戦布告されるレベルのメンツです。
「……でも、みんな……すごく楽しそう。これ、本当に私がさっきまで死にかけてたダンジョンなの?」
極めつけは、広場の中心でした。
入り口の受付にいたあの骸骨――魔王さんが、「よーし、景気良くいこうか!」と叫ぶと、何百体ものスケルトンを召喚。
そのスケルトンたちが一糸乱れぬ動きで積み重なり、巨大な『ピラミッド』やら『扇』やら、完璧な組体操を披露し始めたんです。
「……魔王の一発芸がスケルトン組体操。……うん、もう何が起きても驚かないぞ」
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「……あー、やっぱりやってたか。魔王のやつ、調子に乗るとすぐこれだ」
深夜は、どんちゃん騒ぎの会場を見渡して深いため息をついた。
ここに集まっているのは、このダンジョンの「VIP」であり、いわば重要なビジネスパートナーたちだ。彼らが満足して居座ってくれることで、ダンジョンの魔素濃度は安定する。
「よう、深夜! 飲んでるか!」と、巨大な杯を掲げるドラゴンを適当にあしらいながら、深夜はナハトの面々に釘を刺す。
「いいか、あいつらには絶対に関わるなよ。酔っ払ってるとはいえ、機嫌を損ねたらこの県が地図から消える。……魔王! その組体操、あとで片付け大変なんだからほどほどにしろよ!」
深夜にとっては、これは国家転覆の謀議ではなく、単なる「面倒な宴会の後片付け」の心配でしかなかった。
「とりあえず、こいつらは無視して奥の管理室に行くぞ。あ、ルル。そのマジックバッグから、つまみになりそうな家電……じゃなくて、食料があったら少し提供してやってくれ。それで大抵のことは丸く収まるからな」
【あとがき:ナハトの最高なギルド創世記】
(ナハト・真昼の視点)
「…………(無言)」
私は、もう声も出なかった。
隣では曙が「これは夢だ、これは高度な幻覚だ」とブツブツ唱えながら、白目を向いて泡を吹いている。
「戦略級災厄」が、一堂に会して酒盛り。
「伝説の魔王」が、宴会芸でスケルトンに組体操をさせている。
「……ありえない。こんなの、絶対にありえないわよ! これが人工ダンジョンの普通!? 岐阜の山奥に、世界の破滅が詰まってるじゃない!」
私たちはベテランだ。だからこそわかる。あそこにいる連中が本気を出せば、人類なんて数日で滅びる。
それを「近所の騒がしい連中」みたいに扱う深夜さんは、一体何者なの?
「……録画禁止でよかった。もしこれが流出したら、明日には第3次世界大戦が始まってるわよ……」
私たちは、スケルトンが作った『大人間(骨)ピラミッド』を見上げながら、自分たちの常識が宇宙の彼方へ消え去っていくのを感じていた。




