第19話:メデューサ活用法と、熟練者の限界
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「……よし。配信、切りました。……ふぅ、一億円のマジックバッグ抱えての配信は心臓に悪いよぉ」
私はドローンの電源を落とし、改めて目の前に立つ「アイテム屋のおじさん」こと、深夜さんをまじまじと見つめました。
そこで私は、ある違和感に気づいたんです。
「……え、おじさんの装備、それだけ?」
深夜さんの服装は、動きやすそうな平服。鎧もなければ、魔導バリアを張るアクセサリーも見当たりません。背中に二本の剣を無造作に背負っているだけです。
「……そっか。ダンジョンの中で毎日働いている人って、装備に頼らなくてもこれくらい強いのが『普通』なんだ……」
とんでもない勘違いだと気づかないまま、私は「現場仕事、恐るべし……!」と、あらぬ方向に尊敬の念を深めてしまうのでした。
【本編:引きこもり剣士 ダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「さて。あまり手の内を見せるのもアレだが……ちょうどいい教材が揃ってるな」
深夜は、前方の通路にたむろするモンスターたちを指差した。
「正面にまっすぐコブラ(毒)。右にメデューサ(石化)。左にパラライズビー(麻痺)。……うん、ここはメデューサの石化を使おうか。効率がいい」
深夜は背中の二本の剣のうち一本を抜いた。鏡のように磨き上げられた刀身が、洞窟の微かな光を反射する。
「まず、鏡面になってる剣を横に構えて、剣に写るメデューサを捕捉して。できるだけ鏡の中のメデューサとも目を合わせないように意識するのがコツ。これでも一応石化は受けるけど、進行をかなり遅らせられるから」
深夜は流れるような動作でメデューサの背後に回り込んだ。
「そしたら、メデューサの首を後ろから絞めつつ、気絶しないギリギリの加減でキープして。で、自分と同じ方向を見るように調整。……あ、みんなは僕の後ろに隠れててね」
深夜に羽交い締めにされたメデューサの視線が通路をなぞると、襲いかかろうとしていたコブラと蜂が、一瞬で物言わぬ石像へと変わっていく。
「これでメデューサ以外は無力化完了だ。もう一匹出た時も、手元のメデューサを絞めて同じ動きを繰り返せばいいだけ。もし耳栓を持ってるなら、ついでに飛んでるコカトリス(睡眠)を捕まえて、睡眠ガスを撒かせてみてもいいかもしれないな」
深夜は「ほら、簡単だろ?」と、拘束したメデューサを優しく(?)解放しながら振り返った。
【あとがき:ナハトの最高なギルド創世記】
(ナハト・真昼の視点)
「…………そんなこと、できるわけないでしょぉぉぉ!!!」
私は心の中で、いや、半分くらいは口から魂と一緒に叫びが出ていた。
私たちナハトは、決して弱くない。四天王には届かなくても、数多の修羅場を潜り抜けてきた自負がある。
でも、今の何!?
メデューサを「反射」で捉えるだけでも超人技なのに、それをヘッドロックして『即席の石化キャノン』として運用するなんて、正気の沙汰じゃないわよ。
「……鏡越しに目を合わせても石化が遅れるだけって、さらっと言いましたけど……その数秒の間に首を絞め落とさずにコントロールするなんて、ミリ単位の筋力調整が必要ですよ……」
曙が、盾を握る手を震わせながら絶望している。
「再現性……? 誰にでもできる……? 深夜さん、あなたの『基本』は、私たちの『一生の目標』ですら届かない場所にあるんですけど……!」
初心者のルルちゃんが「へぇー、そうなんだー」と感心した顔でメモを取っているのが、見ていて一番恐ろしかった。このままだと、このダンジョンから「常識」という言葉が消えてしまう。




