第16話:ミミックの法則と、想定外の二刀流
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さん、今のリプレイ見ました!? さっき電子レンジが出た時の映像をスローで見返してみたんですけど……ここ! この宝箱の奥にある、ちょっと色の違う部分! これがコアだったんだ!」
私は確信しました。このダンジョンの宝箱攻略の「正解」を。
試しに、近くにあった別の宝箱の前に立ってみます。
「よし……配信の皆、見ててね。……えいっ!」
私が宝箱に触れた瞬間、やっぱり箱がガバッと口を開けて襲いかかってきました!
「やっぱり! このダンジョンの宝箱は、全部ミミックなんだね!」
私は持ち前の素早さで牙をかわすと、リプレイで確認した「コア」の位置を的確にハンドガンで撃ち抜きました。
ガシャーン! と涼やかな音を立ててミミックが消滅し、そこに残ったのは――。
「あ、今度は高級アクティブトラッカーだ! 睡眠の質まで測れるやつ! やったぁ!」
狂喜乱舞する私に対し、コメント欄は冷静なツッコミで埋め尽くされます。
『ルル、違う。それ多分、全部がミミックなんじゃなくて、お前の運が悪すぎるだけだw』
『普通はアイテムが入ってるんだよ! なんでミミック率100%なんだよ!』
『「宝箱=モンスター」って認識、この子の冒険者人生に悪影響が出そう……』
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
深夜は、再生したばかりの右腕を振り
何度も拳を握ったり開いたりしていた。
「……本当、戻ってきたんだな」
二年間、重い喪失感と共にあった右肩の空白。そこに今、確かな温かさと感覚がある。正直、魔王の強引なやり方には呆れたが、指先まで馴染む完璧な再生具合には感動せざるを得なかった。
「深夜、この二年間……あなた、どこで何をしていたの? ギルドも国も、必死であなたを探していたのよ」
真昼が、祈るような瞳で問いかけてくる。
「何って……。酒飲んで、昼間からトトカルチョに耽ってただけだよ。お前らが思ってるような高尚な生活じゃない」
深夜は事実を口にした。酒に溺れ、貯金を切り崩し、負けの込んだギャンブルに熱を出す――そんな自堕落な日々。
だが、真昼たちは顔を見合わせ、深く頷いた。
「……なるほど。酒で感覚を研ぎ澄ませ、勝負事の瀬戸際で『先読み』の精度を極限まで高めていたのですね。流石です、深夜さん」
「……いや、普通に負けて一喜一憂してただけなんだけど」
深夜の言葉は、既にナハトの面々の「聖域」には届かなかった。
ふと、深夜は腰にある刀に手をかける。この二年間、右腕がない代わりに左腕を徹底的に使い込んできた。その結果、左腕の精度はかつての右腕に匹敵するレベルにまで跳ね上がっている。
「……右腕が戻ったってことは、左も同じように使えるわけか。現役の時は考えもしなかったけど……」
深夜の脳内に、一つの戦術が浮かぶ。
「『二刀流』、いけるな」
酒と賭博の二年間で培った「観察眼」。そして左右両方の腕が「利き腕」となった今の身体。
現役時代よりも遥かに高い次元に到達した自分に気づき、深夜は柄を握る手に思わず力がこもった。隠しきれない武者震いが、彼を少しだけワクワクさせていた。
【あとがき:ナハトの最高なギルド創世記】
(ナハト・曙の視点)
「聞いたか、今の深夜さんの言葉を……」
私は震える声で仲間に告げた。
「酒と賭博。それは世俗的な悦楽ではない。深夜さんはあえて自らを過酷な環境に置き、一瞬の判断が命取りになる『勝負の世界』で、その『眼』を育て続けていたんだ。右腕を失ってもなお、彼は戦うことを片時も忘れちゃいなかった……!」
「……凄すぎる。僕、そこまで考えが及びませんでした。深夜さん、やっぱり次元が違う……!」
新入りの黄昏も、メモ帳に必死で深夜さんの言葉を書き留めている。
さらに、深夜さんの雰囲気が変わった。
腰の刀を見つめるその眼光。右腕が治った喜び以上に、「新しい高み」を見つけた者の顔だ。
「……二刀流……。あの深夜さんが、左右どちらも利き腕として振るう剣……。想像しただけで、このダンジョンが崩壊しかねないな」
私たちは確信した。
深夜さんは、ただ戻ってきたのではない。
さらに凶悪な、真の『怪物』として帰還したのだと。




