第15話:再成の代償と、無視される魔王
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さん、見てくださいこのキレッキレの動き! 露天商のおじさんに貰った銃、マジで最高です!」
装備を変えてから、身体が羽のように軽いんです。引き金を引くたびに、まるで自分の指の延長みたいに弾丸が吸い込まれていく……。
「これ、もしかして私専用に作られた特注品!? って錯覚しちゃうくらい手に馴染むんです!」
短剣の時もクリティカル連発が売りだったけど、銃にしたらもう無双状態。迫りくるゴーレムを一撃で次々に粉砕して、「ルル・チャネル、今日こそ伝説作っちゃうかも♪」なんて調子に乗っていたら。
――急に、視界が真っ暗になりました。
「え、何……!? 停電?」
恐る恐る目を開けると、そこは四方を宝箱に囲まれた不思議な小部屋。
「わぁ、ボーナスステージ!? ラッキー!」
一番豪華そうな箱を開けようとした瞬間、箱に牙が生えて、私は一飲みにされちゃいました。
「ひゃあああ! 離してー!」
真っ暗な箱の中で、無我夢中で銃を乱射! ……そしたら、たまたまミミックのコアを撃ち抜いたみたいで。
ガシャーン! と弾ける音。
吐き出された私の目の前に落ちていたのは……。
「……電子レンジ? しかも、これ最新式のスチームオーブンレンジじゃない!? なんでダンジョンで家電がドロップするのー!?」
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「……で、マジで何しに来たんだよ、お前ら」
再会を喜ぶどころか、深夜の第一声は心底呆れたものだった。
自分はもう、過去の人間だ。腕を失った欠落者を、ナハトのようなトップギルドが、わざわざ埼玉から岐阜の限界集落まで追いかけてくる理由がわからなかった。
「忘れられてると思ってたんだけどな。お前らはもう、俺がいないほうが上手く回ってるんだろ」
「そんなわけないでしょ!」と真昼が食い下がる。
彼女が提示したのは、最高純度のダンジョンコア。それを使って深夜の右腕を再生させたい、という申し出だった。
「今さら冒険者に戻るつもりはない。俺はここで、管理人の仕事があるんだ」
素直に受け取れない深夜は、わざと冷たく突き放す。
そこで、新入りの少年――黄昏が、緊張に震える声で一歩前に出た。
「深夜さん……! もし腕が治ったら、対価としてこのダンジョンの攻略を、僕たちの目の前で、録画ありで見せていただけませんか!? あなたの背中を、もう一度見たいんです!」
深夜は鼻で笑った。
「……コアがあったとしても、欠損部位の完全再生には、高位の死霊使いが必要だろ? 現世にはもう……」
「あ、それなら自分できますよ」
魔王が横から、骨の手を挙げて提案した。
だが、真昼はそれを無視して、真剣な顔で曙に向き直った。
「そうね……死霊使い(ネクロマンサー)はギルドに当たって、最高の人材を紹介してもらうしかないわね」
「あ、自分できますよ。死霊術は専攻ですので」
魔王がもう一度言ったが、今度は丑三つ(うしみつ)が遮った。
「この日のために、私たちはダンジョンを潜り続けて蓄えを作ってきました。金に糸目はつけません」
「……ええい、焦れったい!! 話を聞けえええい!!」
魔王の忍耐が限界に達した。
真昼の手から超高速でダンジョンコアをひったくると、周囲の空間が歪むほどの密度で魔力を練り上げる。
「高速多重並列詠唱――【理を問う再構築】!!」
深夜が止める間もなかった。
魔王は光り輝くコアを深夜の右肩の付け根に力任せに押し当て、そのまま「ぬんっ!」と何かを引っ張り出すように腕を引いた。
「――っ!? ぐ、あああぁぁぁ!!」
深夜の肩から、眩い光と共に骨が、筋肉が、血管が、ニョキニョキと音を立てて生え出てくる。
一瞬の静寂の後。
そこには、二年前と変わらぬ、力強い右腕が再生されていた。
【あとがき:ナハトの最高なギルド創世記】
(ナハト・黄昏の視点)
……信じられない。
僕たちが何年もかけて、何億ゴールドも積んで、世界中の賢者を訪ね歩いてようやく「可能性」を見つけたはずの失われた腕が。
目の前の骸骨の怪物が、数秒の詠唱と強引な手業だけで、あっさりと再生させてしまった。
「……治った。僕の、深夜さんの腕が……」
あまりの光景に、真昼さんも曙さんも、声も出せずに立ち尽くしている。
再生したばかりの右腕を、信じられないものを見るような目で握りしめる深夜さん。
「……おい、魔王。お前、何してくれてんだよ……」
「いやぁ、あまりに皆さんの掛け合いが長引くので、つい! サービスですぞ、深夜殿!」
豪快に笑う魔王と、呆然とするナハトの面々。
伝説の剣士・深夜の復活。
それが、こんなにも騒がしく、そして「家電がドロップする」ような変なダンジョンの入口で成し遂げられるなんて、歴史書のどこにも書いていなかった。
でも、確信した。
僕が今日撮る動画は、間違いなく世界を震撼させることになる。




