第14話:ガンナー・ルル誕生と、再会の重力圏
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「……というわけで皆さん、初配信で速攻リタイアしたルルです……。でも、諦めないよ! 速攻で再入場ゲートに来たんだけど、そこに凄く怪しい、片腕の露天商のおじさんがいて……」
バンダナを巻いた店主のおじさんが提示してきたのは、今の私の機動力を活かせるという「ガンナー装備一式」。
おじさんは「10,000円でいいよ」って笑ってるけど、私、短剣使いだしどうしよう……と迷って配信のコメント欄を見たら。
『駆け出し冒険者にこの装備勧めるなんて分かってるねこの露天商!!』
と書かれていました。
他にも「絶対に買いだ!」とコメント欄はお祭り騒ぎ。視聴者の後押しもあり、私は意を決しました。
でも、ここで引いちゃe-Tuberの名が廃るよね!
「おじさん、これ10,000円は安いけど……今の私には大金なの! 7,500円! 7,500円にしてくれたら、この配信で世界中に宣伝してあげるから!」
「いやいや、お嬢ちゃん、それは流石に赤字だよ……」とおじさんは困り顔。
そこから粘りに粘って、最終的な落とし所は8,800円! よし、勝った!
ゲットした装備はこんな感じです!
・命中率UPのテンガロンハット
・属性スロット付き自動拳銃(氷・毒・重力の3種!)
・回避率UPのスカーフ&ベスト&ジーンズ
・敏捷性UPのブーツ
・命中率UPのシャツ
・属性弾丸の予備マグ(30発×3)
「おじさん、ありがとう! 元は取らせてもらうからね!」
新生ルル・チャネル、リベンジマッチ行ってきます!
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「まいどあり、お嬢ちゃん。次は『敗北の門』を通らないようにな」
走り去るルルの背中を見送りながら、深夜は「ふぅ」と息を吐いた。
7,500円とふっかけられた時は流石にタジタジになったが、粘る彼女の姿がかつての自分たちと重なって、つい笑みがこぼれた。
「……ま、埼玉の貸し倉庫で埃を被らせておくよりは、こうして使ってもらったほうが装備も喜ぶだろ」
トトカルチョのあぶく銭に比べれば、8,800円なんて端金だ。だが、自分の目利きで選んだ装備が再び戦場へ向かうのは、どこか誇らしい気分だった。
露店を畳み、受付小屋の方へ歩き出す。
「さて、魔王さんは……」
入口が騒がしい。どうやら客が来たようだが、ただならぬ魔力が膨れ上がっている。
「……!? 魔王さん、やりすぎだ!」
急いで駆け寄ると、そこには漆黒のオーラを纏った魔王が、重力場で数人の人間を制圧している光景があった。
地面に這いつくばっているのは、五人。
真昼、曙、真宵、丑三つ(うしみつ)、そして見知らぬ少年……黄昏。
「あ……」
深夜が顔を出し、歩み寄った瞬間。
這いつくばっていた五人の視線が、同時に深夜へと注がれた。
そこにあるのは、二年前と変わらない気怠げな、しかし鋭い眼光を宿した深夜の「顔」。
そして――右肩から先、だらりと垂れ下がった空っぽの袖。
「……お前ら、何しに来たんだよ」
深夜が呆れたように声をかけると、重力の中で真昼の瞳が大きく見開かれた。
【あとがき:ナハトの最高なギルド創世記】
(ナハト・真昼の視点)
「……な、何なの……この魔力……ッ!」
受付小屋に足を踏み入れた瞬間、私たちは「世界の終わり」を幻視した。
そこにいたのは、伝説の魔王軍幹部ですら足元にも及ばない、漆黒の絶望を纏った骸骨の怪物。
「真昼、危ない! 丑三つ、真宵、下がれッ!」
曙が叫ぶが、遅い。私は本能的に、山一つを消滅させかねない最大魔力の白魔法を練り上げた。
だが、呪文を放つ直前、世界が重くなった。
「おっと、それは困りますな」
魔王が放った重力場。人間がギリギリ形を留められる、あまりに精密で残酷な力によって、私、曙、真宵、丑三つ、そして黄昏の五人は、泥の中に沈められるように地面へ叩きつけられた。
「し、深夜さん……こんな怪物と……?」
絶望の中、小屋の方から一人の男が歩いてくるのが見えた。
逆光の中、その男がこちらへ顔を向ける。
「……深夜、さん」
間違いない。あの、誰よりも信頼していた私たちのリーダーの顔だ。
そして、その顔の下……。
二年前、私たちの目の前で失われた、右腕。
風にたなびく右袖の虚無が、彼が歩んできた絶望の時間を残酷に物語っていた。
「深夜殿! ちょうど良いところに!」
魔王と呼ばれた怪物が、あろうことかウキウキした様子で色紙を差し出している。
「彼らが急に攻撃しようとしたので制圧しましたが……サイン、頂ける雰囲気ではありませんな」
怪物は、制圧した私たちの怯えきった表情を見て、心底寂しそうに肩を落とした。
深夜さんはそんな怪物と私たちの間に割って入り、空っぽの袖を揺らしながら溜め息をついた。
「魔王さん、そいつら一応俺の元仲間なんだ。……悪かったな、重力解いてやってくれ」
その声、その視線。
憧れと罪悪感が混ざり合い、私たちはただ、言葉を失って彼を見つめることしかできなかった。




