第13話:新米の挫折と、怪しい露天商
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
「皆さん見てください! このガラスのゴーレム、すっごく綺麗だけど、意外と脆いかも!?」
配信ドローンが追う先、私は自慢のステップで【超硬度ガラスゴーレム】の懐に飛び込んでいました。
ガツン、と手応え。私の短剣がコアを叩くと、ゴーレムは宝石が弾けるような音を立てて、キラキラした破片へと姿を変えます。
「これ、いける! 私、才能あるかも! 視聴者の皆、見てるー!?」
コメント欄も「おお、速い!」「クリティカル連発じゃん!」と盛り上がって、私のテンションは最高潮。調子に乗って、回廊の奥へとどんどん突き進んでいきました。
――でも、甘かった。
曲がり角を抜けた瞬間、目の前に立ち塞がったのは、これまでのガラス製とは比べ物にならないほど重厚な、灰色の巨躯。
「え……【石灰岩ゴーレム】……!?」
慌てて後ろに下がろうとしましたが、背後からはガシャガシャと音を立てて、さっき倒したはずのガラスゴーレムたちが再編されて迫っていました。
「あ、これ、挟まれた……?」
逃げ場のない通路。巨岩の拳が目前に迫った瞬間、私の視界は真っ青な光に包まれました。
「ひゃあぁぁぁっ!?」
気づいた時には、私はダンジョンの入り口にある『敗北の門』の前に、尻もちをついた状態で放り出されていました。
「……うぅ、初配信、即リタイアなんて……。でも、あのダンジョン、絶対攻略してやるんだから!」
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「……あー、やっぱりそこか」
受付カウンターの裏で、深夜は補助金で買った最新の高精細モニターを見つめながら、ため息をついた。画面には、ルルが石灰岩ゴーレムに挟まれて光の粒子になる瞬間が映し出されている。
「素早さはいい。動体視力も、現役の頃の俺の七割くらいには届いてる。……けど、圧倒的に威力が足りないな。あの短剣じゃ、二層目以降の硬い連中には歯が立たないぞ」
隣で魔素発電の出力チェックをしていた魔王が、骸骨の指先で顎を叩く。
「深夜殿、彼女は『リピート率』に貢献してくれそうな逸材ですな。あの悔しそうな顔、間違いなく再入場ゲートを潜りますぞ」
「そうだな。客が壁にぶつかった時、そこに解決策を置いておくのが経営ってやつだろ?」
深夜は「よし」と立ち上がり、受付の札を『セルフサービス』にひっくり返した。
「魔王さん、ちょっと露店商モードに切り替えてくる。アイテム屋の在庫から、ガンナー用の装備一式を持ってきてくれ。ついでに、補助金の余りで買った通信強化済みの魔導銃もな」
「ほう! 遠距離からの高火力。彼女の機動力を生かすには最適の提案ですな」
深夜は再入場ゲートのすぐ先、冒険者が「次こそは!」と鼻息を荒くして潜り直すポイントに、素早く折りたたみ式のテーブルを広げた。
バンダナを巻き、少し胡散臭い『アイテム屋のおじさん』を装いながら、深夜はルルがやってくるのを待つ。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。次は『火力』が欲しいんじゃないか? 安くしとくぜ」
深夜の目には、既にルルが新しい装備を買い、地獄のような四層目まで「高画質配信」を続けてくれる未来が見えていた。
【あとがき:ナハトの最高なギルド創世記】
(ナハト・黄昏の視点)
山道。最新の大型魔導ビークルの中で、僕は、僕の人生を変えた人のことを考えていた。
「……はぁ、はぁ。心臓が、止まりそう……」
「黄昏、あんたさっきからうるさいわよ。深呼吸しなさい」
リーダーの真昼さんに冷たくあしらわれるけど、無理だ。無理に決まってる。
だって、これから会いに行くのは、あの『深夜』さんなんだ。
かつてナハトが全滅しかけた時、たった一人で伝説の魔竜の前に立ち塞がり、手刀一つで勝利をもぎ取った、生きる伝説。僕が冒険者を志したきっかけであり、僕が彼の「後釜」としてナハトに誘われた時、嬉しさのあまり一週間眠れなかった、憧れの聖者。
「……深夜さんは、今の僕を見て、なんて言うかな。『君が僕の代わりか、頼りないな』ってがっかりされないかな……」
「……落ち着け、黄昏」
隣で曙さんが重々しく口を開く。
「深夜さんは、そんな心の狭い人ではない。君が彼の技術を必死に模倣し、このパーティを守ってきたことは、会えば必ず伝わるはずだ」
「そ、そうでしょうか……。あ、見てください! あの裏山、凄い魔素が溢れてる。……間違いない、あそこに深夜さんがいる!」
ビークルの窓から見える、不自然なほど整えられた「横穴」。
深夜さんの信奉者である僕は、緊張のあまり気絶しそうになりながら、神が住まうというその迷宮へと足を踏み入れようとしていた。
僕たちはまだ知らない。
憧れの聖者が、今まさにバンダナを巻いて「まいどあり!」と怪しい商売を始めているなんてことは。




