第12話「新人e-Tuberと、食い違う聖者像」
作者より
0話より前に-1〜-7話まで連載中です
もしよければそちらもご一読下さいm(_ _)m
【前書き:ルルの冒険記】
(新人e-Tuber・ルルの視点)
皆さん、初めまして!本日e-Tuberデビューしました、ルルです!
地元の高校を卒業して、ここ岐阜でトップストリーマーを目指して活動を開始しました。
今回見つけたのは、実家のすぐ裏山にオープンしたばかりの『深夜の裏山ダンジョン』。
看板には「初心者大歓迎(教育的指導付き)」って書いてあったし、入場料も安かったので「ラッキー!」と思って入ってみたんですが……。
見てください、この内装!壁がピカピカの石灰岩で、配信映えが凄いです!
あと驚いたのが、Wi-Fiがめちゃくちゃ速いこと。山奥なのにアンテナがバリ5ですよ。ドローンの映像も4Kで全然ラグがありません。これ、配信者へのホスピタリティ高すぎませんか?
ただ、ちょっと気になるのが天井に……えっと、あれ蜂の巣ですよね?
それも、見たことないくらい禍々しい色の。
「後戻り禁止」ってプレートが貼ってありますけど、これって……もしかして、演出ですよね……?
あ、奥から鏡みたいに透き通ったゴーレムが歩いてきました。
よし、初配信、いってきます!
【本編:引きこもり剣士のダンジョン経営】
(深夜・魔王の視点)
「……よし、魔王さん。インフラは整ったな」
深夜は役所から届いた一通の封筒を、満足げにパチンと叩いた。
『地域活性化・新設ダンジョン通信環境整備補助金交付決定通知書』。
小難しい名前だが、要するに「山奥の通信環境を良くするなら金を出してやる」という行政からの慈悲だ。
「ナハトの連中が潜っていない以上、トトカルチョでの稼ぎは期待できないからな。今回は堅実に補助金で行こう」
深夜は支給された予算を握りしめ、かつて現役時代にパーティで使っていた機材と同ランクの「高性能配信用ドローン」「業務用無線ルーター」、そして各階層を網羅する光回線と電源ケーブルを爆買いした。
「ノームさん、頼めるか?」
深夜が声をかけると、土妖精たちが手際よく壁の裏側に配線を通していく。
「電源はダンジョンコアから溢れる魔素を変換して使おう。これなら停電の心配もないし、エコだろ?」
「素晴らしい。冒険者が快適に地獄……もとい、試練の様子を配信できる。これこそが現代のホスピタリティですな、深夜殿」
魔王と深夜は、ピカピカに整備された通信環境に満足し、自分たちが設置した「殺人ミツバチ」や「超硬度ガラスゴーレム」が、いかに高画質で世界に中継されるかを想像してワクワクしていた。
「あ、魔王さん。一人目の客が来たぞ。高校生くらいの女の子だ」
「おお! 記念すべき第一号! 我らなりの『最高のおもてなし』で歓迎しましょうぞ!」
【あとがき:ナハトのギルド創世記】
(ナハト・小鳥の視点)
岐阜県・村営ダンジョン『鉱夫達の晩晩歌』のギルド会議室。
ナハトのリーダー・真昼は、小鳥という受付嬢がもたらした新情報に、これまでにない衝撃を受けていた。
「……裏山に、ダンジョンを創った? 深夜さんが?」
小鳥は紅茶を一口すすり、穏やかに頷く。
「ええ。亡くなられた叔父様から遺産として家を受け継がれたそうで、その裏山を開拓してダンジョン経営を始められたんです。つい先日も『役所の補助金でWi-Fiを飛ばすんだ』と、楽しそうに機材を選んでいらっしゃいましたよ」
「……家を受け継ぎ、地道に経営を……」
真昼の隣で、鉄壁の盾・曙が考え込むように唸った。
「あの深夜さんが、剣を捨てて隠居するどころか、自ら迷宮を支配する側に回ったというのか。……いや、待て。小鳥さん、あんたが話しているのは本当に、あの『聖人』深夜さんなんだな?」
小鳥はふふっと笑い、決定的な証拠を口にする。
「間違いありませんよ。先日も初心者の指導をされていた際、左手の『手刀』一本で衝撃波を放ち、巨大なマッチョキノコを真っ二つに裂いておられましたから。あれを間近で見せられたら、誰だって彼がタダモノではないと分かります」
その瞬間、真昼と曙の脳裏に、かつて伝説の魔竜の鱗を、折れた剣の「柄」で叩き割ったあの男の背中が、鮮烈に蘇った。
「……手刀で、斬撃波」
真昼が震える声で呟く。
「そんなデタラメな芸当ができる人間、世界に一人しかいない。……深夜さんよ。間違いないわ」
「……叔父の遺産を守りながら、自らのダンジョンで後進を育成する……。なんと高潔で、慈悲深い計画なんだ」
曙も感極まったように拳を握る。
「……行きましょう。彼が作り上げた『聖域』へ。深夜さんがわざわざWi-Fiまで整備してまで、世界に伝えようとしている『真理』がそこにあるはずよ」
ナハトの面々は、小鳥が語る「少し経営に熱心すぎる深夜」の実態を、自分たちの「聖者フィルター」で強引に美化し、真理(深夜)が待つ裏山へと急ぐのだった。




