第8話:火気厳禁の調理実習
【各話オマケ:ナハトの冒険録 ―高密度エネルギー圧縮―】
王都、王宮騎士団の演習場。曙が、巨大な盾を構えて汗を流していた。
「……リーダー。深夜さんの『敵に毒を食らわば皿まで』っていう教え、ようやく分かってきたぜ。これ、敵の属性エネルギーを外部燃料と結合させて熱暴走させる、高度な戦術理論だったんだな」
「そうね。……深夜さんはかつて、火山地帯の魔物相手に、現地の鉱石を食わせて一瞬で全滅させていたわ」
真昼が遠い目で頷く。
「……あの方は、環境そのものを武器に変える。……それに比べて俺は、盾の重さに頼るばかりだ。……恥ずかしい。深夜さんに合わせる顔がねぇ」
彼らが「神の戦術」と崇めるその行為が、実際には深夜くんが「火事が面倒だから口を塞いだだけ」の副産物であることを……最強のパーティは、今日も知らない。
階段を下りた先、二層目は一層とは打って変わって黒い世界だった。
かつて石炭掘削に使われていた坑道を利用しているだけあって、足元には剥き出しの石炭が転がり、空気中には微かに塵が舞っている。
「……なるほど。ここで火を使ったら、一瞬で消し炭だな」
深夜は、足元の石炭を一つ拾い上げ、指先で弄んだ。
初心者講習のパンフレット『冒険の友』にも、「二層目は火気厳禁。水属性の武器か、物理攻撃のみで攻略すること」と赤字で書かれていた。
だが、ダンジョンの魔物はそんな「ルール」など守ってくれない。
カサカサと岩肌を這う音が響き、暗闇から赤く光る眼が現れた。
イグアナほどの大きさのトカゲ――【サラマンダー】だ。
その背中からは小さな火の粉が漏れており、今にも獲物を焼き尽くそうと喉を膨らませている。
(……まずいな。あいつが火を吹けば、この階層の石炭に引火する。……ま、俺は死なないだろうけど、せっかくの村営ダンジョンが台無しだ)
シュゴォォォ! と、サラマンダーが大きく息を吸い込んだ。次の瞬間、その口から猛烈な火柱が放たれようとした――その刹那。
「はい、おやつだぞ」
深夜の左手が、目にも止まらぬ速さで動いた。彼が拾った拳大の石炭が、正確無比なコントロールでサラマンダーの大きく開いた口の中へと放り込まれたのだ。
「グガッ……!?」
予想外の異物を飲み込んだサラマンダーが、一瞬動きを止める。
その体内で、本来吐き出すはずだった超高温の炎と、放り込まれた高純度の燃料――石炭が混ざり合った。サラマンダーという魔物は自身の炎には耐性があるが、それはあくまで「自分の出力」の範囲内だ。体内で石炭が燃焼し、通常の数倍に膨れ上がった熱量は、トカゲの許容範囲をあっさりと突破した。
パキパキ、と嫌な音が響き、サラマンダーの皮膚が内側から赤く発光する。
「……あ、やっぱりそうなるよな」
深夜が数歩下がった瞬間、サラマンダーの口と鼻から白い煙が噴き出した。暴走したエネルギーによって、魔物は内側から一気に加熱され――数秒後には、香ばしい匂いを漂わせる「サラマンダーの丸焼き」が出来上がっていた。
「……中までしっかり火が通ってるな。味付けさえすれば、良い食料になりそうだ」
火気厳禁の階層で、火を吹く魔物を逆利用して調理する。
そんな光景を見ていた者がいれば、あまりの荒業に腰を抜かしていただろう。深夜は「今の時代は火を使わずに料理できて便利だなぁ」と、やはり激しい勘違いをしながら、ボスの部屋へと歩を進めた。




