第四十一話:あだ名と尋問
オケウエーの視点に戻った:
「ジュディ……さっきのことは…もう大丈夫?」
「……うん。もう…平気です。…事故だから気にしてないんですが…」
俺が心配して訊ねてもなんか気まずい雰囲気を纏う彼女の曇っている表情に……
「オケウエー!ジュディー!無事なのー?今の状況は?」
ター!
オードリーがついに俺とジュディのいるここへと合流して聞いてきたので、
「うん。さっきはクリスと戦っていた最中に油断して蹴り飛ばされてきたから、それでジュディに体当たりしちゃったんだけど、もう平気だってジュディが……」
「なるほどわ。ってことは、今あんたは未だにクリスティーナと戦ってい、ん?…というか、さっきの『クリス』ってー?」
「…ああー、そうだな!詳しい話は後からするんだけど、俺がいきなり彼女のことをクリスって呼ぶからには変だって思っちゃったんだよね?……実は『クリスティーナ』っていつも呼んでると、長いなぁって思ったから省略して『クリス』って呼ぶことにしたんだけど、……変、…なのかな?」
「というか~!オケウエーさん、そんな呼び名でクリスティーナさんを呼んでいたんですか――!?ず~ずるいです、オケウエーさん!彼女だけ特別にオケウエーさんから特定な呼び名で呼んでもらえるなんて―――!!」
いきなりすっかりとさっきの気まずい表情から一転して、そんな大げさな反応をしたジュディに、
「でも、そうは言っても、ジュディも特別な呼び名で呼ぶとなると選択肢が限られてくると思うよ?だって、ジュディっていうのはもう既に短い方の名前だし、呼びようがないと言うか……そう思うよね、オードリーも?」
「……でも、ジュディの…指摘も、あながち間違いではないわ…。だって、敵なのにクリスティーナだけオケウエーからの特定な呼び名で呼んでもらえるとは……明らかに、……ふーん!私ならどうでもいいと思ってるんだけど、ジュディからすれば確かに不公平……だったわよー?っていうか、私にとっては要らないって思ったんだけど、クリスティーナにしたように私に対しても特定なあだ名で呼んでくれないとか……敵より扱い雑になってないー?…まあ~?別にどうでもいいとは思うんだけれど……ふーん!」
なんか長々とジュディの弁明?でもしていたっぽいオードリーが最終的にむすって拗ねた顔してると、
「そうはいっても、オードリーもジュディと同様に既に短い方の名前だし、もっと短くすれば、オードしかないんだけど、それでもー」
「っていうか、オードっていうのはベネ~が良く私を『オードリ主』って呼んでくれてる方のあだ名に近い感じに聞こえるんだし、今までは特別な相棒として大事にしてきた存在なんだからー!もしあんたもそれっぽい感じのあだ名で私の事を呼ぶと、…まるで……まるで!…う~~~!」
「まるで?」
なんか言いにくそうにしているオードリーが今度、頬を赤く染める照れてるっぽい表情になってると、
「暢気に仲間同士で盛り上がってるとこ悪いんデスが、ソこまでにしろ、キサマらー!アタクシが特別に同じ【四大貴族】の同僚であるそこのドレンフィールド嬢をも仲間にした『南蛮人男』を考慮して、キサマらの話し合いをちょっとだけ許してあげたんだが、モう時間切れデスぞー!さあ、続きにそこの南蛮人少年がアタクシとの一騎打ちの【剣舞】に戻ってみるか、それとも残ってる3人のキサマらがまとめてアタクシと3対1でも挑んでくるつもりか――!?」
俺達の会話を遮ったようにそんなことを言ってきたクリスに対して、
「何言ってるんだ?そんなの決まってるだろうー?今の聖魔力量を持っている俺に、お前の相手はー」
俺が素早く前に出て、両腕を左右に広げて、『オードリーもジュディも絶対に守ってやるぞ』とも『ヤツの相手は俺がやるからお前達二人は手を出すな』とも両方がとれる解釈のポーズをとって、
「俺一人で充分だー!」
きっぱりと、クリスに向かって言い放った俺!
………………………………………………
……………………………
クレアリスがシャルロットと対峙している場面に切り替わると:
「そこまでよ、シャルロット!」
「--!?」
うちが保健室へ乱入してきたことがショックだったのか、そこのベッドで意識のないジェームズ君が横たわっている身体の上に跨って乗っているシャルロットがうちの姿を見るなり固まってしまい、最初は戸惑うような表情だったけれど、やがて落ち着いた感じになると、
「あれー?おっかしいな……さっき出ていったばかりの保険医はあたしが念入りに聞くと、彼女が戻ってくる予定は3時間後になるし、それ以外は殆どの生徒が入る機会のないここへといきなりあなたが入ってくるってことは……この『チームメイトのひとり』を大事にしているから?」
確かに、今日は土曜日だから授業が殆どないけれど、部活ならあるので、生徒がここへくることもないわけじゃないけれど、こういう日だからこそ、校舎に出入りしている多くの方は教師陣だけが主な層だから、恐らく3時間後で冤罪の目撃者に仕立てたいのが保険医と他の教師だけのようね。冷静に分析しながらうちに向かって微笑を浮かべるシャルロットに答えるように、
「ええ!彼、……ジェームズ君はうちらにとっての大事な仲間であり、『チーム・オケウエー』にとっての掛け替えのないチームメンバーのひとりなのよ。だから、戦いで気絶した彼の容体を確かめるために代表のうちだけやってきた訳なの。そしたら、そこに君がいる!君と彼との間にどんな親密な関係があるにせよ、今はこの場とこの時間帯で、『そういうこと』に及ぶのは違うなってうちは思っているからこそ、警告しに入ったまでのことよー!」
きっぱりこう言い放ったら、
「しっかし、そこのドアーにもロックがかかっているんだよなぁ……ジェームズがやっと意識を取り戻して起き上がる予定の2時間後にだけ、そのドアーは『お偉いさん』の優れている魔道技術で出来た特殊な鍵が自動的に外れる仕組みとなっているんだけど、強引な手段もせずに中へ入ってこれるとは………」
シャルロットがそう言ってるようだけれど、まだ彼女が自分の『恋人』であるジェームズ君に冤罪を仕掛ける疑惑をうちがまだ聞く必要がないと思うの。
だって、そうすれば相手が警戒し、更なる背後関係と『裏の真実』を口から漏らしにくくさせちゃうし……なら、まずはかまをかけることから始めるだけの話よ!
「ふふふ……お楽しみ中悪かったかしら?……鍵のことなら、うちは特殊な精霊があって、校則違反になるような破壊行為にも及ばずに、締めきっているドアでも簡単に開けられるのよ?でも、さっきも言ったように、ここは『そういうこと』をする場所じゃないのよね?だから、ここは一旦、『恋人だろう彼』の上から降りてきて、おとなしく彼の容体の確認と見舞いだけをして出ていった方が良いのではなくて?」
「………そう、だな…。見つかったからにはそうするしかないんだろうな………良かろう!あなたの言う通りにしよう」
へええー。頭も回るようで意外よね~。なら、ぼろが出るようにもう一押しー!
「しかし……君も大胆というか………少々節操なしだって思われても文句は言えない程のことやってのけるとはね………。恋人同士でも、もう少しの『思いやり』があってもいいのでは?彼、戦いの所為で疲れたり、物理的から精神的なダメージへ変換されて激痛を感じたから気絶したのだろう?そんなことも配慮せず、いきなり何の苦労もないピンピン状態の君が恋人の身体を使って楽しもうだなんて、少しは厚かましくて、図に乗り過ぎじゃない~?」
「そ、それは……………」
返答につまったのねー?うふふふ、そうよ、君はそうこなくちゃね……
「もしかして、本当は彼のこと、単に『身体目当て』だけで付き合うっていうの?彼の気持ちとか幸せとか何も考えてないって感じー?」
「そー!そんな訳ないだろうがー!大体、これには全部あの会長さんが悪かったんだぞー!?あたしに、こんな無茶みたいなことやらせようとしたからー!」
「ほうー?今いったのよね、『会長さん』ですって?それってどういう意味だったのかしら?」
「ああ!(し~しまったー!)…………」
まんまと引っかかったのねー!うふ!もう手遅れだっていう苦い表情を浮かべる彼女は、今度は押し黙ったようだけれど、
「どうしたの、いきなり黙っちゃって?うちは聞いてるのよ?どういう意味で『会長さん』って言ったのかしらって…」
「…か、…会長さんは会長さん……だろう?そ、…それ以外に、……何だと言うのだー?」
まだしらばっくれるシャルロットみたいだけれど、
「さ~て、それはどちらの方の『会長さん』を指す意味だったのかしらー?とある部活の会長さん?それとも、生徒会のエルヴィーナ会長?あるいは……【純粋なる淑女研鑽会】の部長たる『裏の生徒会の会長さん』なのかしらー?」
「く~~!?」
もう耐えられないとばかりに、両手を自分の口に当てて、恨みがましい目をうちへ向けてくるシャルロットに、
「包み隠さず全てを話しなさいー。君を雇った黒幕はこれから自分の悪事をばらされ、学院からいなくなっていくのよー?そうすれば、彼女と協力したことある君の成そうとした『あれ』も明るみに出てくるかもしれないの。今はまだ手遅れじゃない内にまずはうちに全部を白状して、観念して頂戴?」
もう確信した。この『嘘』で、絶対に折れるって……
「………分かった。あたしの身の安全、こういうこと……秘密にしてくれるなら………話す…」
よし!成功したのね~!
これで、ジェームズ君を冤罪で学院を退学させられ、それによって何らかの無茶な報復をしそうな同性友達である【漆黒の魔王様】の感情も揺さぶられずに済む。
……一応、彼の心臓の中には【あれ】があるから、大事に思っている【最初の男友達】が何らかの理不尽な目に遭い絶望のどん底に突き落とされるのを見たら、【あれ】が彼の意思も関係せずに暴走しちゃっても不思議じゃないのよね……
なにせ、これほど長い間で、【死の息吹】の全部を身体の狭い一か所である心臓の中で押しとどめたままで生活を送り続ける【死霊魔術使い】は歴史的に見ても他にいないのよ?
だから、なんらかの代償があるはず!
絶望とか強烈な怒りの所為で暴走したりとか……
それを阻止するため、【黒絶の魔女】たるうちが派遣されてきたのだから……
前世からの【誓い】に基づいて……
………………………………………………………………………
………………………………………
_____________________________________




