二十八話:オードリーの大ピンチ、そして.....
ぐら~~~!
「ーー~~!?」
……どうやら、さっきので、大幅に自分の体内に宿る『聖魔力』の十分の九が減ってきてるわね………
思いっきり暴れたくて、鬱憤を晴らしたい腹いっせについやってしまったってところかしらね、私…………
でも、確かに私のベネによる『契約人間』に働きかける能力のおかげで、一時間も満たない『眠り』をすれば、全ての『聖魔力の全量』が回復される事と同じように、起きたままでも30分の落ち着けるところへの休憩を過ごしたら、少しは30パーセントまでに回復できるはずだわ!
だから、少しの眩暈を感じたけれど、早くどこかへ座って休憩を取りたいわね
「もしもし、あ、はい!…………え?ええー!そうなんですかー!………ええ、分かりました!すぐシャルロットもつれて戻りますので!」
ん?後ろでただ黙々と私の戦闘を見ていたリルカが、自身のマジック・コミュニケーターと何やら話しこんじゃってた後、急に真剣な顔して近くまで歩いてきたのが見えたわ!
「オードリー様、ごめん!わたしとシャルロットは、第一階層へ戻らないといけなくなったんです!」
「何があったのー!?」
「上の階層、あの大襲撃があった大広場に、今度は前代未聞の大事件、【剛力級】の世界獣である『クイーン・アント』が出現!だから、わたしとシャルが他の一年生の援護に行かないといけないと場を担当してるA組のクロディーヌに言われたんです!」
「ーーーー!!?何ですってーーー!?第一階層に【剛力級】まで出てきたってどういうことなのよーー!?確かに、『クイーン・アント』はあのさっきの『レッド・フーリックス』より一段と弱い方だけれど、それでもれっきとした【剛力級】だわー! そんなデタラメすぎる状況だったら早く行って上げて頂戴。一年生全組の救援はちゃんと、しっかりやるわよ」
「もちろんですっ!イリーズカ先生もきっと状況を【監視用魔道映像記録飛体機器(マジック・フライングレコーダー・オブ・モニタリング)】で見てるので、きっと先生もその異例過ぎて、危険度マックスの苦境に晒されてる広場の一年生達を自身で行って助けてくれるはず!だから、ただの生徒であるわたしとシャルロットなら行かない訳にはいかないですね。オードリー様みたいにしっかりとしたチームをまだ形成してないし」
「分かった!早く行ってった行ってった、わよー!」
タタタタ………
了承したリルカは自分の相棒であろうあの赤髪のシャルロットをつれて、やってきた方角と引き返していったのを見ながら、今度こそは本当に独りでここにいる私。
今の私はまだ救援が必要なオケウエーとクレアリスを探しにいくか、ここで待つことにしなきゃいけないのでここからは当分の間、ここから離れたりはできないけど、リルカ達ならきっとあの子達の方に戻って、最も力強い増援になること間違いないわよね!
キーーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンンンン!!!!!
え、なによ、この強烈な耳鳴り音はーーー!!?
『オードリー主、あれをご覧くださいべーー!!』
「ーーーーー!!?」
な、なによあれーー!!?
今まで見たことないものだわ、あれーーー!!
キーーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンンンン!!!!!
それもそのはず。
今、あそこにははっきりと、宙に浮かびながら実体を得たかのように、目に映るようになった【樹界脈】の色んな形とサイズの樹の分脈が聞くものを戦慄とさせる耳鳴り音を響かせながら、徐々にその姿形を拡大していく。
「うそよー!【樹界脈】は本来、『見えざるもの』であって、視認できるように実体として顕現することは絶対にないはずわよーーー!!どうしてーーー!!ああーっ!?」
『オードリー主、気をつけてくださいべーーー!!!突然に莫大なほどの【反人力】を感知しただべーーー!!』
私の手元にある『武器化したベネ』にそう注意される途端、
パチイィィィィーーーーーーーーーーーーーイィィンンンンンング!!!!
ピカア―――――――――!!バコオオオオオオーーーーーーーーーー!!!!!
「きゃあああああああーーーーーーーーーーーーー!!?」
ゴドドーーーーーーーー!!!!
『オードリー主ーーーーー!!』
いきなり、あそこにある実体化した【樹界脈】が一段と大きな耳鳴り音と同時に目を晦ませるほどの光の本流を発生させたかと思えば、次はいきなり私の身体を単なる【反人力】の純然たる波動で遥かあそこまでの壁へと吹き飛ばした。
「痛っ~~~~~~~たいわよこのお~~ーーー駄樹!!」
もう怒ったわ、私ー!
休憩したくてあそこへ座ろうとしたのにいきなりこれだから!
「本当に身体中がチクチクで、痺れていたり鈍痛も走ったりして痛すぎるわよー!!これが本気の【反人力】なのかしらー!?初めて喰らったけれどもう許さないわ氷漬けにしてやー」
『ガグガグキーーー!カググギーーー!』
「えーっ!?」
光が炸裂した、あの見えざる【樹界脈】がやっと空中で視認できるようになったあそこに、濃い霧ができたけれど、徐々に晴れていくとーーーー!!
『ガキーーー!ガキガキクーー!!カグカグカケーー!!』
「うっそ………わ……よ」
ここで、ただ茫然自失と立ち尽くすことしかできない私だった。
何故なら…………
霧が晴れると、天井まで頭が届きそうな超巨人型の世界獣がいるからだわーーー!!
それも腕が四本で、身体中が全体で緑色で統一され、足は太くて甲羅がつきそうな堅さを持ちそうで、そして、何よりも怖いのがその頭と顔の方。
何よそれーー!!?
まるで眼球がついてるような髑髏でちょっとだけの肉片も垂れ下がってる頬がいるとか、こういう世界獣聞いたことも読んだこともないんだけどーーー!?
体長もヤバすぎるし、全長も広すぎるし、反人力も今までにない大海のような圧倒的な圧力を感じるし、どうしちゃうのよ、私ーーーーー!!?
聖魔力も底を尽きかけてるので前にやったあの【大災乱弾三十円陣撃】も発動できないし、これで本当に詰んだの、………………私……?
やだ……私、まだ死にたくない…………
『オードリー主、気をしっかり持ー』
「い…いい……」
『オードリー主ーーーー!!!』
「い、いや…嫌あぁあああーーーーーーー!!!!近づかないでよーーー!!!」
恐怖にかられるまま、ただ一心不乱に、
「私はドレンフィールド家の『希望の才女』よーーー!!こんなところであんたにくれてやる命がーーー!!!どこにもーぎゃー!?」
駄目っ~!デカいくせになんて早さなのーーー!?
必死で動き回って何発もの中型氷弾をあっちへ撃ちながらどうにかもっと遠い方角にあるこの階層の螺旋通路へと戻る感覚で後退の走行もしてたけど、運悪くその長い脚を誇り巨人の世界獣がそれ使って爆発的な走行で私をその手で捉えたーーー!!
ぎゅ~~む!ぎゅ~~むむ!!
「いィやあヴぁヴぁ~~!?ヴぁなしじてぇ~………死に…たーくっ……グ!」
駄目………
「い~~ヴぃふグ~~!…ヴィ~~グぅ!?」
意識が、遠のいて………
「ぅぐ~ィグ~!ぅグ………………」
…………………
ごめんなさい、ニールマリエーお姉様…………
ごめんなさい、チームオケウエーのみんな………
最後の最後まで、なんの役にも立たない私の所為で、みんなを困ら―
「なんだ。俺がいない間に、よくも俺の『大事な友達』に酷いことしていられたものだな。てめえだけは何があっても許さねえぞーー!」
バサアアーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
『ガキキキーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』
バコオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
巨人のバケモノに捕まって、窒息しそうになったり、全身の骨が押しつぶされそうな感覚を覚えかけたけれど、なぜかその懐かしい声………………じゃなくて!っていうか、最近聞くようになったばかりな声なのにいきなり何で『懐かしい』って思ってしまったところに対してセルフ突っ込みしてるの、私~~~!?
まあ、取り合えず、拘束から解放された私が床に落下しそうになったところに、
「おっと!大丈夫か、オードリー?」
『彼』に抱き留められ、お姫様抱っこされるままに地面へと着地してもらった。
腕の中にいる私が助けてくれた恩人の顔を見上げると、声から予想した通りに、『彼』が私に向けて、そのダークチョコレート肌がした顔に笑みを浮かべて、柔らかい表情で聞いてきた、
「怪我してるよね?ちょっと『俺の障壁』の中に入っててね。すぐ終わらせにしていくから」
黒い顔してるから暗闇の中じゃ、きっと見づらくなるはずの時もある男なんだけど、今見えてるその優しい笑みを見た途端、私の中に何かー!?
きゅ~~~~~んん~っ!
「オー、オー、オケウエー!ぁあぁあぁあ、あ…………あた…っくぐずぅ……しいうぐずうぅぅ………………」
なぜか助けにきてくれた彼の姿をみて、初めて人生で感極まって、小粒の涙が滲み出る程に嬉しく思った私が胸が締め付けられる思いで、私の命を救ってくれた彼、オケウエー・ガランクレッドに対して、初めて親友というか、『ただの友達』以上の絆を感じるようになった瞬間だったの…………………。
まあ、ただ状況が招いた束の間の錯覚なのかもしれないけど、ふーん!ええ、きっとそうわよね、ね?ベネー?
ってあれ.....ベネはどうしちゃったの?
私から供給されてる聖魔力が枯渇してるから力尽きてもう寝てるの?
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