海洋大決戦 1
ファンタジーなのに出てきちゃ可笑しい用語があるのは仕様です。
「ぬぐふぅ~!!」
「ふぅぅぅっ!!」
2人の船長が血晶の鎖を引っ張り合う。
片方は相手の武器を奪うため、もう片方は相手の触腕を引きちぎる為。
そしてその周囲では3人の吸血種が黒尽くめ達を相手に跳梁跋扈、八面六臂の大立ち回りを演じていた。
「ウラウラウラウラァァァ!!!」
トゥゼン坊っちゃんは血晶棒を巧みに操り、黒服が振るう剣を弾き飛ばすと、その反動を利用して背後から斧で斬りかかる黒服の顔面に血晶棒を叩き込む。
複数人で囲みこもうとされれば、棒を振り回して敵の足を掬い上げて転ばせ、そのまま頭を叩き潰した。
鎖分銅の様なもので血晶棒の範囲外から攻撃されれば、鎖を棒に巻き付けさせ、一気に引き寄せて殴り飛ばす。
「っつぁ!」
キーシャは血晶剣に加え、両腕に籠手を纏って黒服達の攻撃を弾きながら、その間を縫うように走っていた。
すれ違い様に剣を振るい、腿や脇腹を逆手に持った剣で引き裂いていき、急ブレーキをかけたかと思えば両手をデッキの床に付けて逆立ちになって黒服の首を脚で絡めとりフランケンシュタイナー。
掛けられた相手が羨ましいと思った俺の目前を血晶のナイフが通りすぎた。
「やあぁっ!!」
アルカ嬢はその場から動かず、ソード・スレイヴを持って黒服達を迎撃している。
柄頭の鎖で繋がった八振りの剣を振り回し、横薙ぎで手足を切り裂いたかと思えば、次の瞬間にはワイヤーで連なった蛇腹剣となって目や耳を引き裂いていく変幻自在の戦い方に、黒服達は対応できていない。
普通に戦えば嬢達の実力的に、この均衡さえ崩れなければ数の不利なんざ問題にもならない。普通に戦えば。
嫌な予感を感じつつ戦況を見続けていると、戦いの中心に居る船長2人の鎖引きが動いているのに気が付いた。
「ぬぅ~…!」
「お…らァァァ!!」
ジリジリ、ジリジリと少しずつオルケインの巨体がシエラ船長の方へ引っ張りこまれていた。
………あのバカでけえ身体を引きずる程の筋力とは。
細身であんな怪力を発揮しているのは吸血種由来と言うより、シエラ船長が元から持っているモノだろうか。
それにしても凄まじいの一言に尽きる。現にオルケインのヤロウが十数本の触腕をデッキに突き立てて踏ん張っているが、それを意にも介していない。
………ん?触腕をデッキに突き立てて?
その様を見て俺は違和感を覚えた。
オルケインが身体を固定するためにデッキに突き立てている触腕。
その数本がたわんでいるのが目についたのだ。
奴がシエラ船長に引き寄せられているのに本気で抵抗するのなら、突き立てた触腕が全て後ろに張り詰めていても可笑しくはない。
むしろそうでなければおかしいのだ。
そこに気付いた瞬間、オルケインの奴がシエラ船長と相対している、という俺の見方にズレが生じてくる。
もしも、オルケインの奴がシエラ船長を足止めして、別の奴を狙っているのならば?
「…………キィィィィシャァァァァァァッッッ!!!!!」
奴の狙いに気付いたと同時に俺は全身に怖気を感じ、キーシャの名を叫びながら物陰から転がり出た。
奴の狙いがシエラ船長を足止めして、別の奴に狙いを定めたというのなら、後々この中で一番厄介になる奴が狙われる。
単純な戦闘能力、リーダーシップならばアルカ嬢だろうが、この場合は話が変わる。
先を見る能力、策を張る能力。
…………客観的に見て一番悪知恵が働く俺だ!
立ち上がって走りだした直後、俺の背後からデッキの床を突き破って触腕が襲い掛かって来た。
「だぁぁ!今時触手プレイなんざ流行るかァァァ!?」
俺を狙って叩きつけられる触腕をドタバタとブサイクに交わしながら半泣きで叫ぶ。
「ベル・フェドぉ!?…テンメェ、卑怯だぞぉ!!」
「グリャリャリャリャっ!!あの常人種の知恵は厄介だぁ~!先に狙うのは常道だぁ~!」
歯ぎしりするシエラ船長に対し、オルケインは俺への攻撃を緩めることなくニヤニヤと笑ってやがる。
「っ!斉天大聖、ここは任せたぞ!」
「な、おい!?」
俺の声を聞いたキーシャが黒尽くめを切り倒し、こちらに向かってきた。
不死人である俺だが、今の状況で致命傷を負うわけにはいかない。
さっきの自爆で負った傷はもう治癒しているが、これ以上回復の為に魔力を回すとキーシャの長靴を履いた猫を発現させる魔力を与えられなくなるかも知れない。
あいつもそれを理解しているからこそ、俺の安全を確保することが最優先事項だと判断していた。
「よ、は、おっと!」
触腕に打ち据えられそうになる所をギリギリの所で回避しながら逃げ回る。
「こっちだ!」
「おうっ!うぉお!?」
キーシャに呼びかけられて駆け寄ろうとするが、それを阻むように触腕がもう一本飛び出してきた。
「テメェの相手は、オレだろう…がぁ!」
「グリュ…!生意気なぁ~…!」
俺を狙うオルケインをどうにかしようと、シエラ船長は鎖を引く力を強めて自身の方へと引きずる。
「…!はぁっ!」
シエラ船長に気を取られたか、俺達の間を阻む触腕の動きが僅かに鈍った。
その隙をキーシャが見逃す筈もなく、キーシャは血晶剣を太く分厚い形状に変化させ、数本の触腕を真っ二つに切り離した。
「グリュ…ガァァァァ!!」
触腕を切り裂かれたオルケインは痛みに藻掻く。
「い…まだァァァァ!!!」
それを見たシエラ船長は更に力を込め、錨に絡み付いていた触腕を引き千切った。
「お、オギャァァァァァ!!!」
「オルケイン様!」
触腕の凡そ半数を失ったオルケインはその痛みに悲鳴を上げ、もがき苦しむ。
「アァァァアアァァ!アァァ…!ぐ…」
………?
唐突にその悲鳴が止んだ事で、俺もキーシャも、戦っていたアルカ嬢や黒尽くめ達も、そして相対していたシエラ船長も思わずオルケインへ注目した。
「ぐ…ググ…グリュリュリュリュ…」
不意に、くぐもった含み笑いが波の音に混じって聞こえてきた。
その声は、たった今負傷したはずのオルケインの喉から。
「………なぁんちゃってぇ~」
にたり、と笑みを浮かべ、オルケインは失った触腕の断面を引き寄せる。
「我輩の触腕が、我輩の肉体だと誰が言ったんだぁ~?」
「………!?」
その驚愕は一体誰のものか。
オルケインの触腕の断面がどろりとした深い紅色に変色し、そこからズルリと紅い触腕が生え、更に粘液に覆われた青白い色へと変色した。
「………まさか、血晶魔法…!?」
アルカ嬢が自らの手にあるソード・スレイヴを一度見て、その現象の正体を口にする。
「その通りだぁ~!我輩の血晶魔法はぁ~、そこらの者が振るう様なぁ~、硬質化するだけのものじゃないぃ~!柔軟にぃ~、更に色を変えぇ~、手足の如く操ることが出来るぅ~!!!」
復活した触腕をのた打ち回らせながら、オルケインはゲラゲラと笑った。
………なる程な、そういう事だったのか!
アルカ嬢がソード・スレイヴで拘束していたにも関わらず、奴の触腕に傷が無かった謎が今漸く解けた。
奴の触腕が血晶魔法で創られた武器だというのならば、その形状は自由自在。
いくら拘束されていようと、液体のように形を変えてしまうのならば脱出は簡単だし刺した痕なんて残る訳ねぇ。
考えてみりゃ、俺達はあの野郎が血晶魔法を使っている所を一度として見ていない。
否、今まで使っていたが奴の特性である『擬態』で隠されていただけ。
そして奴の触腕が血晶魔法だと言うのならば。
「グリュリュリュリュ…そしてぇ~、柔軟なだけじゃないぃ~!」
「………マジかよ」
剣、斧、槍、棘付き血晶球、ノコギリ、ハンマー。
俺の中で考えていた最悪の想定。
それを肯定するように、奴の触腕の先端が赤黒く変色し、様々な武器の形状へと変化した。
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