襲撃
割とサイコ野郎なビット。
深夜。
ゲルド、ジャコ、サーミャ某と俺は月明かりの下、街にある一番高い家屋の屋根の上に陣取っている。
三日前から毎夜ここから排斥派の動きを見張っていた。
現在の所目立った動きはナシ、何度かちらっと俺に話しかけてきたあの男を見かけた位だ。
連絡、作戦構築、準備の時間等を考慮すれば、そろそろ動く頃合いだが。
「…………!旦那」
「動いたか」
ゲルドの鷹の目が異変を捉える。
例え夜だろうと、月程度の光源があればこいつは鼠一匹見逃さない。
それがコソコソと動く集団の人影だと言うのならば尚更な。
「西側から南回りに山側を目指してるな。数は十五…いや、二十か?結構な人数が見えるな」
「ナーイス。服装は分かるか?」
「顔は覆面、全身黒尽くめ。こないだ俺らを襲った連中と似たような格好だ」
当たり。
排斥派の間諜の補充要員だ。
「どうする、旦那」
「予定は変わらず。1人残して後は射貫け」
「了解」
ゲルドは剛弓に矢を番え、弦を引き絞る。
「精緻眼、鋼鉄化、螺旋道」
そして右目と両手と鏃に魔力を集中、術式を構築。
目に掛けたのは視力を極限まで上げる魔法、両手に掛けたのは腕を固定する魔法。
そして鏃に掛けたのは、強烈な渦を巻きながら音がないという奇妙な風。
「………Shoot him」
「……無音狙撃」
その言葉とともに引き絞った矢から指を離す。
びゅっと弦が戻る音だけが響き、真下に矢が放たれた。
その矢は真っ直ぐと地面に向かって落ち、ぶつかる直前で弧月を描いて路地の隙間に入り込んだ。
矢は入り組んだ路地を勢いを殺すこと無く曲がりくねり、黒衣を纏った集団を目指して音も無く飛ぶ。
「………!?」
「あたーりー。20のトリプルでござーい」
遠目から黒衣の連中の頭を矢がドスドスと貫く姿が見える。
カウントアップなら一気に大量得点だな。
数人射貫いた矢は弧を描いて再び黒尽くめ達に鏃を向けて飛んでいき、更に数人の頭を撃ち抜いた。
『…んだ…ったい…!?』
『ひっ…!?』
気が付けば1人、また1人と数を減らされて、奴らの統率が乱れてきた。
「坊っちゃん、ハナ効かせて連中の周りに伏兵が居ないか確認を、ジャコとサーミャ某は残った1人ふん縛って自害防止宜しく」
「分かった」
「畏まりました。行きますよジャクリーン」
「は、はい」
俺の指示を受けて3人は屋根伝いに、次々と仲間を屠られて恐慌している黒尽くめ共の方へ移動する。
数分待つと、血晶でガチガチに固めた黒尽くめの1人をトゥゼン坊っちゃんが抱えて戻ってきた。
「よし、襲撃が気付かれる前にてっしゅー」
「アイアイ」
足が遅い俺はゲルドに抱えられ、皆一斉に屋根から飛び降りてさっさとアジトへ向かった。
追跡された時に撒けるよう遠回りしつつ一時間後。
「んぐ!んごぉぉぉぉ!」
無事アジトに帰り着いた俺達は、戦果である黒尽くめを床に転がす。
雁字搦めにされた黒尽くめはバタバタと藻掻いているがンなもん知ったこっちゃない。
「キーシャ、頼む」
「承知した」
俺達の中で唯一血から記憶を読み取れるキーシャは、俺の言葉に頷いて転がっている黒尽くめの側に屈み込み、藻掻く黒尽くめの頬を引っ掻いて血を掬い取った。
「…………」
指についた血を舐め取って目を閉じ、人差し指でこめかみ辺りを叩いて考えるような、いつもの記憶を整理するためのクセを出す。
そうして十数秒。
「………成る程、正しく灯台下暗しだな」
「お、なんか分かったか」
「…んっ!?ひゅ…!」
記憶を読み終えた様なので、俺は無造作にナイフで黒尽くめの喉笛を掻っ切った。
途中で治癒されても困るので、黒尽くめの傷口に両手を突っ込んで無理矢理傷を裂き広げながら、キーシャに続きを促す。
「鬼だな貴様。吸血種には有効かも知れんが人道に悖るぞ」
「I'm not a human.関係ねーな。で、続きは?」
ぐちゃぐちゃと傷を弄りながら続きを催促。
「…………あ、えー…と」
アルカ嬢を筆頭に他のみんながヒイてるけど無視!
「ウルシ、地図をくれ」
「どうぞ」
キーシャに頼まれてウルシがマイロの地図を広げる。
そしてキーシャはマイロ周辺を描いた地図のある一点を指差した。
「街の端、こことは反対方向だな。そこの柵を抜けて少し行くと洞窟がある。奴らは、その奥の入り江から小舟を使って入り込んできている」
「はぁーん、なーるほど」
オルケインの部下どもが港を介さずに人員を補充する手段がこんなカラクリだったとはな。
蓋を開けてみりゃ意外とチャチなモンだ。
だが、チャチなモンだからこそ、逆に利用できる。
「キーシャ、こいつらが連絡するための暗号、合図、服装その他諸々」
「頭に入れている。無論後で教える」
「Excellent!」
ぐちゃっと黒尽くめの首から指を引き抜いて拍手する。
黒尽くめはうめき声一つ上げず静かなままだ。
「ビット・フェン。貴様、口調もそうだが、段々歯止めが利かなくなってきているぞ」
「……Oh My」
そう言われてアルカ嬢達が先程より三倍位ヒイてる事に気が付いた。
「……ワリ、ちょい弾けすぎた」
無理矢理普段のテンションに軌道修正させ、特に怖がらせたであろう嬢に頭を下げる。
「う、ううん、良いのよ。ビットさんが楽しそうなら…」
あ、イカン。これガチなやつだ。
やっぱギンかレイラちゃんが居ねぇと自制利かねぇな。
「安心しろ。最悪私が殴る」
「………そらどーも」
ははは…雇用主の心情を察して的確な発言と釘刺し…やっぱいい副官だなこいつ。
っと、閑話休題として。
「クレナイ、竜車から俺の荷物持ってきてくれ。黒いトランク」
「はい、少々お待ち下さい」
「ウルシ、これから一筆したためるからお前は黒鯱へヨギリをひとっ飛び頼む」
「はっ」
2人へ指示を飛ばし、俺は穏健派の五人とゲルドの顔をぐるりと見回す。
「うっし、それじゃ、サクッとイカのゲソを炙ってやろうや」
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