Fireworks.
スニーキングミッション。
「!?なんだきさっ…!」
ゴリ、と鈍い音。
仄暗い洞窟の中を歩いていた黒尽くめの首を、トゥゼン坊っちゃんが力任せにねじり折る。
坊っちゃんは死体から手を離して溜息を吐いた。
「ついさっき奴らの侵入の手口を知って、もう動くって早過ぎるだろ…」
「襲撃がバレちまうと、ここの警備も厳しくなる。移動していた人数が人数だからな。さっきの連中の中に、ここの警備をしていた奴も居たはずだ。ゆるい内に横っ腹ぶっ叩くのも、戦略の一環だよ。………にしてもあっちぃなこのカッコ」
汗ばむ身体を服の襟を引っ張って誤魔化しながら奥へと進む。
俺、キーシャ、アルカ嬢、坊っちゃんの四人で組んだ別働隊の服装は全身真っ黒尽くめ、つまり今この場でくたばってるこいつと同じ格好に身を包んでいた。
「……洗ったって言っても、死んだヒトの服を着るなんて、ちょっと複雑」
「極力怪しまれない様に我慢我慢。キュリエのご令嬢にゃちとキツイかも知れんがね」
「ちょっ…ビットさん!」
貴族扱いを嫌がっているアルカ嬢は俺にそう言われて覆面越しに頬を膨らませる。
普段は淑女然としているのに、こういう時だけは少女らしいギャップが可笑しくてくつくつと苦笑した。
「キーシャ、あとどの位だ?」
「もう少しだ。奥に行けば入り江がある」
キーシャの言葉を信じて俺達は進む。
道すがら洞窟内を巡回する黒尽くめは片っ端から仕留めて回った。
海上で追いかけられちゃ敵わんからな。
「止まれ」
「お」
開けた場所に出る直前、前から先導していたキーシャに制され、俺達は慌てて歩を止める。
壁に背を付けて曲がり角の向こうを指し示すのでそっと覗き込むと、潮の香りと共に小さな入り江が見えた。
視線の先には数隻の小舟が杭と縄で繋がっており、3人の黒尽くめが焚き火を囲んで屯している。
ここまでは一本道、巡回していた奴らは皆殺し。
この洞窟内にいる黒尽くめの残りはこいつらで全部か。
「どうする、ビット・フェン」
「俺が奴らの気を引く。隙を付いて一人一殺」
「承知した」
「任せろ」
「………」
トゥゼンとキーシャは頷くが、アルカ嬢は僅かにたじろいだ。
………。
「……アルカ嬢」
「っ…大丈夫、割り切れるから」
俺が声をかけると、嬢は頭を振って俺を見る。
少し声が震えているが、その眼差しに躊躇いは無い。
…腹は括れた様だな。
「よし…行くぞ」
俺は少し離れた場所から入り江の方へバタバタと走る。
「お…おい!」
「なんだ、どうした?」
俺の姿を見止めた黒尽くめが、慌てて息を切らす仲間の姿に動揺する。
「こ、この場所が吸血姫一派に知られた!斉天大聖と共に此方に向かってきている!」
「何!?」
襲撃の報を聞いて3人は慌てて嬢達が待ち構える通路へ。
「オラッ!」「ふっ!」「やぁッ!」
ゴキ、ざく、どす。
殴打と斬撃と刺突の音。
坊っちゃんに頚椎を殴り折られ、キーシャに首を落とされ、嬢に心臓を貫かれた3人はドサドサと断末魔も上げずに倒れ伏した。
「おう、ご苦労さん。………嬢」
「………ぅ………………だい、じょうぶ」
初めての殺人に著しく揺らいでいるが、その持ち前の胆力で嬢は精神を引き締めている。
………強いな。
「よし、そんじゃ一隻は残して残りの船は全部ぶっ壊すぞ」
俺の指示に各々頷き、血晶武器を手に取る。
そんじゃ、イカの腹ン中に潜り込んでやりますかね。
ギーコギーコとトゥゼンがオールを漕ぎ、小舟が暗い海を進む。
俺は持ってきた望遠鏡を覗き込み、それらしい船が無いか周囲を眺めた。
「んー…」
「………トゥゼン・ウィノーヴ、2時の方角に面舵を取れ」
「おう」
夜目が効くキーシャもキョロキョロと周囲を見回しつつ、黒尽くめの記憶から船のおおよその位置を予想して坊っちゃんへ指示する。
「……お?」
そうして暫く波に揺られていると、遠くに僅かな明かりが見えた。
望遠鏡の倍率を上げてよく目を凝らす。
「………みーっけ」
レンズの向こう側には、真っ黒なガレオン船が洋上のど真ん中で波に揺られていた。
「悪いね坊っちゃん、手間ァ掛けさせて」
「気にすんな。アルカより軽ぃから」
「………トゥゼン、それどういう意味?」
「げ、いや、その…」
俺を背負って船腹を登る坊っちゃんに、同じく横で船腹をよじ登っているアルカ嬢がドスの利いた声で詰問する。
あーあ、地雷踏んだ。
確かに俺ぁ脂肪も筋肉も薄いから嬢よか軽いが、口に出すのはイカンだろ。
「姉弟喧嘩は後にしろ。事が済む前に見つかったら台無しだぞ」
「う…はーい」
「………ほっ」
「トゥゼン、後でちゃんと話しましょう」
「………はい」
嬢にきっちりと約束を取り付けられて坊っちゃんはがっくりと項垂れる。
なんだかんだ言っても姉弟、姉に頭が上がらない様だねぇ。
そんなやり取りをはさみつつ俺達はガレオン船の船体をよじ登り、デッキの縁に手をかけて周囲を覗き込む。
デッキの上では黒尽くめの連中が数人ウロウロと見回りをしていた。
既に相手の陣地に潜り込んでいる状況だ、流石にこの場で暴れるのは得策じゃない。
「キーシャ、石かなんか投げて視線逸らせるか?」
「やってみよう」
声を落としてキーシャに問うと、キーシャは親指を噛んで血を流し、砲丸サイズの球を創った。
それを船首の方へ投げ、音を立てながら球が砕け散る。
「誰だ!」
その音を聞いた見張りが視線を向け、砕けた球の方へと足を向ける。
「今だ」
キーシャの合図で俺達はデッキに上がり、反対方向へそろりそろりと忍び込んでいった。
「…っと、その前に」
「ん?」
俺はおぶさっていた坊っちゃんの背から降りて、背負っていたトランクから中身を一つ出し、目についた樽にくっつける。
「ビットさん?何を?」
「ちょいとね、もういいよ。行こう」
俺はにやりと笑って濁し、止めていた足を再び動かし始めた。
「……ここだな、船長室」
「ふぅ…やっと着いたか」
クルックス・オルケインが常駐している船長室。
途中何度か見つかりそうになったが、デッキでやったように血晶で球を創って気を引く事でやり過ごしてなんとかここまで来ることが出来た。
「……てーかよ、お前何してたんだよビット」
「ん?…ああ、アレか」
船に潜り込んでからの道中、俺が度々足を止めてゴソゴソやっていたのが気になっていたらしい坊っちゃんが、バンダナを弄りながら俺に問う。
「もうすぐ分かるさ。な、キーシャ」
「……」
俺がお道化て見せると、キーシャは呆れたように溜息を吐いた。
そして船長室のドアの前に立ち、一定のリズムで五回ノックする。
「入れぇ」
「失礼致します」
中から迎えの言葉を受けたキーシャがドアを開けると、中には青白い顔をし、粘液に塗れた触腕を持つ明らかに吸血種だと分かる風貌の大男が鎮座していた。
「なんの用だぁ~?」
「吸血姫一派の所在が分かりましたのでその報告に参りました」
「……ほぉ~?」
妙に間延びした声で返事をする吸血種、クルックス・オルケインはキーシャの言葉に興味深げに目を細める。
「それでぇ~、吸血姫達は何処に居るぅ~?」
「はい、それは…」
オルケインの問いに対し、キーシャは一歩下がり、代わりに俺が一歩前に出る。
「ここだよ、軟体生物」
「………あぁ~ん?」
俺達は一斉に覆面を脱いで顔を晒し、オルケインがそれに面食らった隙を付いて俺は背中のトランクを地面に立てる。
上からトランクを思いっ切り踏みつけると、その衝撃で留め金が外れて蓋が開く。
中に入っていたのは、大量のダイナマイト。
「炙られて踊れ、ゲソ男」
蓋が開いた瞬間に発火装置が作動して導火線に火が点き、ジリジリと火種が進む傍らでキーシャが両腕を傷つけて自分と嬢と坊っちゃんの前に血晶で壁を展開する。
直後、爆音と熱風が俺とオルケインを包み込み、同時に船のあちこちに仕掛けていた物も爆発した。
爆風を受けて血晶の壁にブチ当たりながら、俺は口元を三日月に歪ませる。
さぁ、『花火』は上がったぜ、シエラ・セリーナ。
………Let's Carnival!!!
普段色んな意味で抑制されているだけで、本来のビットはクレイジーです。




