裏切りと大立ち回り
サーティ・カメリア。
キーシャと共に排斥派の間諜に付いて行くと、街の端の方にある民家に連れて行かれた。
中には常人種に扮した排斥派の手下共が微動だにせず鎮座している。
「へー、結構人数…っ!?」
しかし見た目は常人種である俺が敷居をまたいだ瞬間、全身が竦むほどのどす黒い殺気に当てられた。
「手を出すな、吸血姫一派の居所を知る情報源だ」
「………」
俺達を連れてきた男がそう言うと、俺に纏わりついていた殺気が鳴りを潜める。
「…ぶはっ、死ぬかと思った」
「記憶を読める吸血種は少ないのでな、これから直ぐにクルックス様の居られる船へ向かう。荷物を置いてこい」
「あいよ」
冷や汗を拭う俺と澄ました顔のキーシャは男に連れられて部屋の奥へと向かう。
男が前を通る度に吸血種共が頭を下げるのを見ると、この男はある程度クルックス・オルケインに近い地位にいる人間のようだ。
「化け猫、貴様はここで待機だ。一度我らを裏切った貴様と、クルックス様を会わせるわけにはいかんのでな」
「……やむを得まい」
移動中、キーシャに向かって男がそう支持する。
やっぱ引き離しにかかるか。
こりゃカネを支払う気は無いと見た。
大方俺一人になったところでクルックス・オルケインの船で記憶を絞り出す算段だな。
「……………!」
そう思った所で、俺はあることに気付いて足を止める。
「どうした?」
「……いや、なんでもねぇ」
俺の様子に男が怪訝な目を向けるがそれをごまかして一瞬だけ後ろを歩くキーシャに目配せした。
「………」
キーシャはほんの僅かだけ首肯し、目線を窓へと向ける。
「ち…油断していた。尾けられていた」
「……何?」
キーシャが苦々しげな演技でそう呟き、窓の外へと飛び出した。
「おい、何をしている貴様ら」
外へ出た私が茂みへそう声をかけると、がさりと生け垣が揺れて2人の人影が飛び出してくる。
「あっちゃぁ、バレちまったな、サルぅ」
「サルって言うんじゃねぇ!」
金の髪にバンダナとピアスという派手な格好をした男と全身赤ずくめというこれまた派手な格好をした女。
トゥゼン・ウィノーヴとシエラ・セリーナだった。
「化け猫テメェ!やっぱり…」
「黙れ」
「ぶがっ!?」
余計なことを口走ろうとした斉天大聖を蹴り飛ばし、そのまま奴の上に馬乗りになる。
「てめっ、何しや…」
「今は捕まったフリをしろ、この場で逃げられると逆に都合が悪い」
「っ…誰がっ…かは…!」
襟を使って首を絞めるフリをしつつそう耳打ちしてやるが、聞く耳を持たないらしいのでそのまま絞め落とすことにした。
しばらく藻掻いてから動かなくなったトゥゼン・ウィノーヴの上から退き、続いてシエラ・セリーナへ目を向ける。
「でぇ?オレも抵抗した方がいいかぁ?」
「頼む。適当にやられてくれ」
ビット・フェンの行動の意味を理解していたらしいシエラ・セリーナは私の意図を察して掌を傷つける。
「はっ、怪我ぁすんなよ!」
流れる血が形を変え、鎖に繋がれた錨の形を取ったそれを構え、私に向けて振り回した。
「っ!」
私も直ぐ様手を傷つけて血晶剣を創り、その錨を弾き飛ばす。
……重いっ…!
「…痛…やるな、シエラ・セリーナ」
「まぁなぁ。イイカンジのタイミングで気絶したフリすっから、合わせろぉ」
ぐるぐると錨を振り回すセリーナ。
私は待ち構える奴に向かって一息に跳びかかった。
「いや済まん、まさか用済みってんで口封じに来るとは思ってなかったわ」
「……」
詫びる俺に対して、男は酷く冷めた目を向けてくる。
「むぅ!むがぁぁぁ!!」
少し離れた床には、血晶の鎖でふん縛られたトゥゼンとシエラ船長の姿があった。
シエラの方は俺の意図に気付いている様だが、念の為にトゥゼン共々猿轡で口をふさいでおく。
いやはや、まさかここまで考え無しだとは思ってなかったわ、うん。
「で、どうすんのこれ?」
「穏健派副リーダーの斉天大聖、夕暮れの黒鯱の船長。私の一存ではどうにも出来ん沙汰だ」
そう言うと男は部下らしき一人に目配せする。
そいつはひとつ頷いて部屋を出た。
どうやらクルックス・オルケインに報告へ行くらしい。
「ちょいと待った」
「……どうした」
「遣いに出すのは良いが、一人だと襲撃されたら終いだぞ。あと一人…んにゃ、2人は付けたほうがいいと思うぜ?」
俺の進言に男は数瞬思案したように顎に手を当て、更に2人に向かって目配せ。
2人の部下は出て行った一人を追いかけて部屋を出て行く。
「あと俺らも行くわ。クルックス様とやらに売り込みも兼ねてな」
「……何?」
俺が助勢を買って出ると、男は当惑顔。
当然だ、俺が一人にならねーと記憶の絞り出しに難が出ると思ってるからな。
だが、トゥゼン達を捕まえたキーシャの功績を無視するわけにも行くまいよ。
「……状況が状況だ。動向を許可する」
「うし、行くぞキーシャ」
「承知した」
許可が下りたので俺達も出て行った3人を追いかけた。
しばらく走って夜道を行くと、程無くして出て行った3人の背中が見える。
「殺れ」
「ああ」
それだけ言うと、キーシャが掌を傷つけながら3人へ向かって走る。
一瞬で血晶剣を創りだしたキーシャは一閃、1人の首を切り飛ばす。
「!化け猫、きさ…」
「はっ!」
返す手で一閃、更に1人を袈裟斬りに斬り伏せる。
「おぉっ!」
「っ!」
背後から掴みかかろうとした1人だが、一瞬で血晶剣を逆手に持ち直したキーシャが振り向きもせずに剣をそいつの腹に突き立て、一気に掻っ捌いた。
「お…のれ…!」
怨嗟の声を辞世の句に最後の1人が倒れ伏す。
「お美事」
「茶化すな。戻るぞ」
「へいへい」
目の前で演じられた殺陣を賞賛するも額を小突かれ、俺達はすぐに踵を返した。
「はっ…はっ…おい!俺だ!」
「…どうした!?」
慌てて戻ってきた俺を見て只事ではないと察したのか、男が驚きながらも出迎える。
「はぁ…はぁ…遅かった…吸血姫一派の連中、もう近くまで来てやがる…!今出てった3人、殺られてやがった!!」
「何だと!?」
俺の言葉を聞いて男が出て行った。
しばらくしてバタバタと慌ただしく戻ってくる。
3人の死体を確認した男は酷く焦燥に駆られた表情をしていた。
「…くっ…どうする、この場は引き払うか…!?」
「んなもたついてたら移動中に横っ腹やられんのがオチだろ!俺とキーシャが応援を呼ぶから…」
「貴様らが出向いたとて取り合える訳があるか!私が行く!」
そう言うと男は部下も連れずにそのまま出て行った。
…………ふぅ。
俺は取り敢えず男が出て行った扉の鍵を掛けた。
「キーシャ」
「ああ」
俺の合図にキーシャは掌を傷つけて小ぶりなナイフを2本創りだし、一本を俺によこす。
俺たちはそのまま躊躇うこと無く縛られているトゥゼン達の鎖を切り始めた。
「おい、お前たち何を…!」
「あぁ?見てわかんだろ。こいつら助けてんだよ」
「むぐ…!?」
「く…ぷふ…」
俺の発言にトゥゼンと排斥派の吸血種達は目を剥き、シエラ船長はくつくつと笑う。
分かってたんならこいつ止めろよお前。
「貴様ら、やはり謀ったか!」
「キーシャ、吸え」
「………んぁ…」
俺が鎖を切りながら左手で襟を引っ張って首筋を差し出すと、キーシャは手を止めて俺の背中から首に噛みついた。
久しぶりに直接魔力を吸われる感覚を味わう。
あ、これ意外と癖になるかも。背中に胸当たっていい感じだし。
「死ね!裏切り者の化け猫!」
「それは御免被る」
血晶武器を創りだした吸血種達が一斉に飛びかかると、血を飲み終えたキーシャは自らの両腿に爪を立て、四条の傷から流れ出る血から二振りの血晶剣を創りだした。
俺達に振りかかる武器をその剣で弾く最中、腿から流れ続ける血は脚に纏わり付き、履いていたブーツとソックスを引き裂いて膝まで覆うロングブーツを創り出す。
「……!?」
トゥゼンとシエラ船長はその様を見て目を見張る。
「往くぞ、長靴を履いた猫!」
全力全開の長靴を履いた猫を身に着けたキーシャは、裂帛の気合と共に叫び、跳んだ。
一瞬でその姿を消したキーシャは、次の瞬間に1人の頭に脚のスパイクを叩き込み、その頭蓋を粉砕した。
「な、速…!」
愕然とした表情の1人はその顔のまま胸を穿たれ、身体が弾け飛ぶ。
頭を穿たれ、脳漿をブチ撒ける。
気が付けば上半身と下半身がサヨナラしている。
壁や天井を縦横無尽に跳び回るキーシャはこの場にいる敵を一蹴、或いは一刀で仕留めていく。
『資格者』。
こうして見ると雑魚との差は圧倒的だな。
「化け猫ィィィィッ!!!!!」
「黙れ、そして死ね」
最後の1人の頭を壁とサンドイッチで蹴り潰し、くるくると宙返りして見事な着地。
ものの一分でこの場に留まっていた、三十人の吸血種の悉くを鏖殺してしまった。
「ご苦労さん、手間ァ掛けたな」
「全くだ。大方私達が裏切ると思っていたのだろうな」
やれやれと溜息をつき、キーシャは長靴を履いた猫でトゥゼンを拘束していた鎖を蹴り千切る。
両手が自由になったトゥゼン坊っちゃんは口の猿轡を引き千切り、俺とキーシャを睨みつけた。
「どういうつもりだ…?」
「それは此方のセリフだ。貴様の勝手な行動でこの男の策はご破算だぞ?」
「まま、まま、結局説明しなかった俺らにも責任はあるんだしよ。取り敢えず逃げんべ」
揉めそうになる2人を諌めながらこの場からの撤退を示す俺。
いつあの男が応援引き連れて戻ってくるか分からねぇ、三十六計逃げるに如かずだ。
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