ジュダ
やっぱり短め。
ちょこちょこ書き進めます。
「…………」
夕暮れの黒鯱と手を組んでから数日。
俺は隠れ家でクレナイ達が集めた情報に目を通している。
どうやらシエラ船長は順調に間諜狩りを続けてくれているらしい。
けどま、海上に居るとはいえ相手は排斥派。組織立った吸血種の集まりだ。
補充要員は幾らでも居るんだろうなぁ。
「戻ったぞ」
「おう、お帰り坊っちゃん」
これからの行動指針を考えている最中、黒鯱と情報交換の為に出払っていたクレナイとトゥゼン坊っちゃんが戻ってきた。
坊っちゃんの背中に背負われている荷物を見るに、ついでに食材の買い出しも済ませてきたらしい。
「どうだった?向こうさんの様子は」
「シエラ殿の話では、船の修理の目処が付いたと。それでもあと数日は要しますが」
うん、順調順調。
金貨千枚なら船大工の雇入れもスムーズに進むと思ったが、大体予想通りだったな。
金に糸目をつけなかった甲斐があるってもんだ。
「そんじゃ、坊っちゃん達も黒鯱と連携してイタチごっこの続き頼まぁ。数を減らしといて損ってことは無いしな」
「応、りょーかい。ビットはどうするんだ?」
「んー…」
顎に手を当て、幾つかの選択肢を思い浮かべる。
一つはこのまま静観。
シエラ船長の船が修復されるまで今までどおりの方針を崩さす、黒鯱と足並みを揃えて連中を叩く。
メリットは最大戦力で、且つ万全を期して戦いに挑める。
デメリットは前情報の少なさ、そして負けたら終わりという一発勝負な部分。
二つ目は少数精鋭による奇襲。
海上にいる敵を海中、或いは上空から強襲して出鼻を挫く。
クルックスとやらに手傷を負わせれば上々、最低限何か情報を掴めれば十分。
デメリットは此方がやられると後々不利になる事。
そんで三つ目。
これが一番ハイリスクではあるが、その分リターンもデカい。
もし下手を打てば、俺は穏健派も排斥派も無い、全てを敵に回す事になっちまう。
……まあそうなったとしても、ほとぼりが冷めるまで雲隠れすりゃ良いんだけどな。
精々2、300年身を隠してれば俺の事を覚えてる人間は居なくなるだろうし。
呪いを解くチャンスを逃すのは痛いが、賭けってのは分が悪くなきゃ面白くねぇ。
……うし。決めた。
「アルカ嬢」
「何?」
俺は近くで書類に目を通していたアルカ嬢へ声を掛ける。
「キーシャと俺、これから派手に花火ブチ上げるから、一旦穏健派抜けさせてもらうわ」
そして、軽い散歩でも行くように、そう言葉を吐いた。
それから数時間後。
俺とキーシャは夕暮れの黒鯱が拠点にしている場所とは別の酒場に訪れていた。
「………おい」
「あー?」
殆ど客の居ない閑散とした店内の一席に着き、雑で大味なピザをぬるいエールで流し込んでいると、向かいで同じくエールを煽っているキーシャが不機嫌さを隠そうともせずに俺を睨みつけてきた。
「貴様が何を考えているのかは大体分かっているが、何故それをアルカ達に言わなかった?」
「意味ねーもん」
寧ろ言ったら裏目に出る。
この策は真意を知っている人間が多いと意味がねぇ。
勘のいい奴が俺の意図に気付き、その上でそれを汲んでくれることで初めて効果がある。
ま、一応ニオわせちゃ居るから、あいつなら気付くだろ。
ただの脳筋って訳じゃ無さそうだしな。
「んぐ…んぐ…ぷは。…ま、それはそれとして、だ」
俺はエールを飲み干し、テーブルに足を投げ出して逆さ向きに後ろを向く。
背後には、一人の男が立っていた。
「お前、排斥派?」
「………」
男の様相はこれといった特徴の見えない、何処にでも居る様な町人だが、そこからにじみ出る殺気は常人の比ではない。
恐らく件のクルックス・オルケインが放った間諜の一人だろう。
「化け猫と共に居る、と言うことは、貴様は吸血姫一派の者か」
「まーな。立ち話もなんだ、座ったらどうだ?」
「………」
俺の勧めに、男は油断なくキーシャを睨みながら空いている椅子に座る。
「貴様、何者だ。何故吸血姫一派に手を貸す?」
「おうおねーちゃん、こいつにエール。ついでに俺のおかわりも頼むよ。……掻い摘んで話せば、吸血姫とちょいとした縁で知り合って、コイツに襲われた所を助けられた」
追加のエールを頼み、キーシャを指差してそう答えた。
話題に上がったキーシャは相変わらず不機嫌そうだ。
そうカリカリすんなよ、シワが増えんぞ?
「いでっ!?」
考えを読まれたか、額に空のジョッキが飛んできた。
「………それで、何故敵だった化け猫が共に居る」
「いちち…加減しろよバカネコ…ああ、俺がカネで雇った」
額のタンコブを押さえながら答える。
さて。こっから出血大サービスと参りますかね。
「んで。この街で夕暮れの黒鯱と吸血姫一派が手を組んだんでな、俺ぁもう用なしだとよ」
「…なに?」
今まで能面を貼り付けていた男の表情が、初めて動く。
……ははっ、やっぱり知らなかったか。
「おろ、知らなかったのか?なんでも吸血姫はお前ら潰す為に手を広げるんだとよ。その為に現地の吸血種組織を取り込んだんだとさ」
お前ら潰す様に誘導したのは俺だけどな。
「…………」
俺の言葉を聞いて男は少し考えるような仕草を取る。
「………貴様達は、吸血姫一派の全容をどれほど知っている?」
……………釣れた。
「ほぼ全部、つったら?」
「常人種である貴様と裏切り者の化け猫を取り込むのは業腹だが、貴様らは役に立つ。手を貸せ」
「カネは?」
間髪をいれず交渉。
カネで釣れる小物を演じる。
………俺自身小物なのは事実だけどなー。げらげら。
「貴様の希望に見合うようにクルックス様に取り合ってやる」
「よぅし乗った!まずはこの出会いに乾杯といこう!おねーちゃん、ピザ追加で!」
オーバーに喜び、手を叩いてウェイトレスに注文。
「……ところで貴様、名前は?」
「あー?…………ロキ・ザ・ジュダ、かな?」
そう名乗った俺を見て、キーシャは呆れたように鼻を鳴らした。
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