「騙されてやるよ、詐欺師」
「…………」
勝敗が決した。
カードを片付ける俺の向かいでは、シエラ船長が呆然と自らのカードを眺めている。
「さて。これであんたらは俺らの傘下に入った訳だが」
「………ッ。たかが口約束だ」
「されど口約束。あんたは一度吐いた唾を飲み込めない。そういう女だ」
「な…!」
俺の見解に彼女は言葉を失う。
「あんたは形はどうであれ、一度交わした約束を反故には出来ない。例えそれが一方的でもな」
「オメェが俺の何を知ってるってんだ、あぁ!?」
本質を突かれて逆上しかけたシエラ船長だが、次の俺の行動でそれは停止した。
「……悪いな、俺ぁ『詐欺師』だからよ。ヒトの心情読み取って、舌先三寸で騙くらかすのは十八番なんだわ」
「……!」
カード数枚を扇の様に広げて口元を隠す。
そして『詐欺師』という言葉。
それは全てこの女が先日出会った女を構成するもの。
「……く…はは…あっはははははははははは!!!!…あぁ。そうかい、そうかいそうかい!そういうことかい!」
それで全てを察したのか、シエラ・セリーナは天井を仰いで大笑い。
「全部、オメェの掌の上って事かぁ、ベル・フェドぉ」
「そゆこと。ベル・フェド改めビット・フェンだ。宜しくな、シエラ・セリーナ」
自分達の大将の奇行に手下共が動揺しているが、それを尻目に俺たちは互いの自己紹介を済ませる。
「こうも最初っから最後まで、完っ璧に騙されちまうと、逆に清々すらぁ。いいぜ、騙されてやるよ、詐欺師!俺たち『夕暮れの黒鯱』、頭っから爪先まで、オメェらの手足になってやらぁ!」
「ははっ、そらどーも」
「私はアルカ・ドリィ。よろしくね、シエラさん」
アルカ嬢が手を出すと、シエラ船長はそれを力強く手にとって握る。
成る程、気風の良い気持ちのいい御仁というのは本当のようだ。
「んで、オメェはあのいけすかねぇボケナス共を、どうやってハメてやるんだ、ベル・フェドよぉ」
「あ、俺の呼び方はそれで固定なのね、別にいいけど。これから毎晩クレナイとウルシ…こないだの2人な、そいつらに情報を渡させる。それで連中の間諜を潰して回ってくれ。勿論船の修理も並行してな」
「はぁん、随分と消極的だなぁ?一発ドカンとブチかましてやろうと思ったのによぉ」
俺の指示にシエラ船長は不満気に肩を竦める。
「まずは下ごしらえから。いきなり頭に齧り付いても、イカの足に絡め取られるのが関の山、邪魔な手足を二度と生えてこなくなるまでもぎ取っていくのが肝要だ」
獲物を捕らえるための足を一本ずつ、気が付けば俎板の上に乗せるために。
「……へぇ?」
俺の言葉にシエラ船長は口元をつり上げ、片方しか無い目を細める。
「あんたが俺を『詐欺師』っつったんだ。なら、敵も味方も騙くらかしてやんよ」
「ッはっ、上等ぉ」
ぱん、と互いの右手を打ち合わせる。
「あと数日は我慢してくれや、派手な花火をブチ上げてやる」
「期待してるぜ?」




