Counting!
排斥派の諜報手段を断ってから数日が経った。
どうやらウルシが噂として流した排斥派の情報はちゃんと夕暮れの黒鯱に回ったようだ。
その証拠に、名無し共が、先日より数を減らしているという情報をクレナイが掴んでいる。
だが排斥派の奴らも対策を打たない筈がない。
というのも、キーシャ達が殺したはずの間諜と同じ顔をした町人が生きているらしい。
あ、これ替え玉だわ。
大方怪しまれない様に同じ顔に擬態させて再調査してるってトコか。
このまま奴らの潰し合いを傍観、漁夫の利を狙うのも悪かねぇが、嬢達の手前横から掻っ攫うのもちょい気が引ける。
なので、やっぱり敵の敵を味方にすることにしよう。
「つーわけでウルシ、クレナイ。お前らは留守番な」
「それは分りましたが…大丈夫なのですか?」
「大ぇ丈夫大ぇ丈夫。今回は嬢達も居るし、真っ向から喧嘩売りに行く訳じゃねぇからよ」
流石にこないだの一件で気が立ってるだろうし、下手な刺激を与えるつもりはない。
………『下手な刺激』はな。
「ビットさん、悪い顔してる」
「今度はどうやって相手を謀る気だ?」
「…………」
容赦無い物言いに渋面するハメになった。
「たーのーもーぅ」
「ぎゃぁぁぁ!!!」
俺の気の抜けた呼びかけと共に、海賊の手下共が酒場の中へ吹っ飛んでいく。
「なんだぁ!やかましいぞぉオメェらぁ!」
「カシラぁ!なんかバカ強ぇ連中がカチ込んで来やしたぁ!」
「何ぃ!?」
ドタバタと酒場の中が喧騒で溢れかえる。
ははは、やっぱああいう風にヒトを面食らわせるのは良いもんだ。
「下手な刺激は与えない等と言っておいて、よくもまぁ」
「あー?コイツは『下手な刺激』じゃねぇ、相手の出鼻を挫くって言うんだよ」
隣で長靴を履いた猫の爪先で地面を突付きながら、キーシャが嘆息する。
反対側ではソード・スレイヴを持ったアルカ嬢が困ったように苦笑していた。
軽く酒場の様子を伺っていると、奥から先日邂逅した全身赤ずくめの海賊女が飛び出してくる。
「誰だ、オメェら…!俺達が誰だか分かっててケンカ吹っ掛けてんのか、えぇおぃ!?」
「よーく知ってる。海賊団『夕暮れの黒鯱』。船長はシエラ・セリーナ。構成員は100人弱。現在正体不明の海賊と戦争中。こないだの海戦で船の故障、現在出港は困難。だが敵方の間諜を何人か仕留めた。どっか足りねぇ所はあるか?」
「…!?」
自分たちの正確な現状を伝えられ、シエラ船長は言葉を詰まらせた。
「因みに間諜の情報流したのは俺らな。役に立ったろ?」
仕込みの一部をネタバラシしてやると、シエラ船長の目が僅かに細まる。
くくっ…疑ってる疑ってる。
「………オメェら、どこのどいつだぁ?」
「俺らは『穏健派』。吸血種と常人種の融和を目指す組織だ。今ある組織と敵対中で、お前らと戦争中の海賊はその組織の一部。だから手ぇ組みに来た」
「ケンカ吹っ掛けられた俺らがそれに乗るとでも?」
「何、今のは挨拶代わり。お前らだって手ぇ組んだ相手が弱かったら話にならねぇだろ。こっちの戦力を教えてやっただけだ。………んで、一つ賭けでもやらねぇか?」
そうして取り出したのは54枚のカードの束、所謂トランプ。それを6デッキ。
俺は軽くアルカ嬢に目配せし、その視線に嬢は頷く。
「掛け金は互いの組織。勝ったほうが傘下に就く。シンプルに行こうや」
五分後、俺とシエラ船長は先日と同じように、酒場の奥のテーブルで向かい合う。
シエラ船長の様子を見るに、こないだのご婦人が俺だとは気付かれていない様だ。
まあ死んだフリまでしたんだから気付いたらすげーけど。
「……良いのか、アルカ?」
「何が?」
カードをシャッフルする俺の後ろでキーシャが嬢に声をかける。
「勝手に自分の組織を担保に出されて、怒らないのか?」
「大丈夫よ。私、付き合いは短いけど、ビットさんの事信用してるもの」
あらら、こらまた偉く買ってくれてるもんで。
期待を寄せられて首筋がこそばゆくなっちまう。
「……オメェがボスじゃねぇのかよ」
「まーな。俺ぁ新参の相談役だよ」
シャッフルした山を一度カットしてシエラ船長に渡し、彼女もまた念入りにカードを切る。
こっちの総員数が1000人だと教えてやったら、彼女はあっさりと勝負に乗った。
そらそうだ。賭けに勝つだけで自分らの十倍の吸血種を手足に出来るんだ、乗らねぇ筈がねぇ。
更に言うと、負けたとしても排斥派の海賊を潰す協力関係は確実に築ける。
精々飼うか飼われるかの違いしか無い。
最悪の場合、反りが合わなきゃアルカ嬢を殺すかも知れんが、そうなったらそうなったで本格的に潰すだけだ。
「勝負はどうすんだぁ?」
「シンプルにブラックジャックで。降参二回で一敗扱い、倍掛けで2勝扱い、山ぁ使い切るまでの勝数で決めようや」
テーブルの中央に置かれた山をカット。これで勝負の準備が整った。
「オイ。そこの金髪ぅ」
「何?」
シエラ船長は顔を傾けてアルカ嬢に声をかける。
「悪ぃな。オメェの手下ぁ、纏めて使い潰すぜぇ?」
「そう。こっちは仲間として丁重に饗させて貰うわね?」
「…ッ。ムカつくなぁ。その余裕ヅラァ」
シエラ船長は歯軋りしつつ、山からカードを一枚引く。出たのはスペードの7。
俺も一枚。ダイヤのクイーン。
シエラ船長がもう一枚、クラブのジャック。俺はハートの5。
「ヒット」「俺もだぁ」
まだ序盤、互いに様子見がてら一枚。
シエラ船長はハートの3。俺は…。
「…あちゃ、惜しい」
ダイヤの7。ご破算だ。
「ッはっ、まずは一勝。幸先が良いなぁ」
リードを取れた事で余裕が出来たか、シエラ船長は不敵に笑う。
さて。どうなるかね、と。
「ヒット」「スタンド」
「スタンド」「ヒット」
「サレンダー」「スタンド」
「スタンド」「ダブルダウン」
通算10ゲーム、3分の1程度山を消費した頃。
現在の戦績はダブルダウン込で2勝9敗。やや不利。
俺は裏向きで適当に置かれた捨て札を眺める。
……うん、そろそろいい頃合いかな。
「さぁて、次も勝たせてもらうぜぇ?」
「それはどうかな。……ダブルダウン」
手札はスペードの6とクラブの4。
そこから一枚引く。
一度テーブルの上に伏せ、ゆっくりと裏返す。
「……………21だ」
俺の引いたカードはハートのエース。ダブルダウンで2勝扱い。
「……チッ。運がいいヤロウだ」
「さて、本当に運かな?」
にやりと口元を三日月に歪ませると、シエラ船長は僅かに目を細めた。
「オメェ…」
「……くくく」
さてさて、この女はいつ『気付く』かな?
序盤のリードは何処へやら、俺達の勝負は完全に拮抗していた。
否、俺がある方法で『拮抗させていた』。
シエラ船長はクレバーに18前後でスタンドし、堅実に勝ちを取っているが、俺は無謀とも言えるヒットを連発。
当然バーストするのだが、ダブルダウンする時は決まって『21』を出す。
シエラ船長を始め、海賊共はイカサマを疑っている様だが、サマのタネが見えないんじゃ追求しようもない。
まあ確かにイカサマしてるけど。
そんなこんなでゲームは終盤。現在24勝25敗。
残りの山は6枚。
泣いても笑っても、次のゲームで勝負が決まる。
「そんじゃ、ラストゲーム」
「……ッはっ、どうせオメェの負けだ」
カードを引きながら船長は皮肉げに口元を歪ませる。
そらそうだ、次に勝つかドローで勝利確定だからな。
次のカードを引いてスタンドすりゃほぼ確実に勝てる。
そうして引いたのはスペードのジャックとハートのクイーン。
対して俺が引いたのは、ハートのキングとスペードのキング。
「……スタンド」
俺の予想通り、奴さんはスタンド。
俺がこのゲームで勝つにはここでダブルダウンして2勝扱いしかない。
「ダブルダウン」
「…ッはっ、躊躇いが無ェなぁ。テメェの組織じゃねぇからって、平気で仲間を売るとはよぉ」
普通ならば勝ちが決まっているシエラ船長は余裕でそう挑発する。
「………サマのタネ、教えてやろうか」
「あぁん?」
しかし、俺のこの一言でその赤い右目が鋭く細くなった。
おぉ、怖い怖い。
「オメェ、やっぱりサマぁしてやがったな!?」
「まぁ待て待て。別にカードに傷入れたとかそんなんじゃねえよ」
くつくつと笑いながら船長をたしなめ、俺はカードの山に手を掛ける。
「ただ、今まで出たカードを覚えてただけだ」
「………はぁ?」
あぁ、うん、時代の流れで『これ』廃れたもんな。
「カウンティング。今まで出た捨て札を覚えて、残りのカードの中から出てくるカードの確率を計算しただけだよ。簡単な話だ」
「次のカードを……?」
あ、やっぱこの女脳筋だわ。
「分かりやすく言うとな、この『残った2枚』は『両方共スペードのエース』だって事だよ」
そう言って俺は一枚引いてそれを裏返す。
出たのは俺の宣言通り、スペードのエース。
ついでにもう一枚も裏返すと、やはりスペードのエース。
「ブラックジャック。俺の勝ちだ」
通算26勝25敗。
やっぱ逆転勝利って気持ちいいわ。




