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暗殺、暗躍。

 月のない、星も見えない程の暗い夜。

 既に寝静まっているマイロの街の中、大通りから外れて更に暗い影を落とす路地裏に2つの影が合流した。


「…報告」


「この街の何処いずこかに吸血姫アルカード一派の影あり。手引している常人種ヒューマンが居る模様」


 淡々とした声音を発しているのは、何処にでも居る様な様相をした町人。

 否、それに扮している何者か。


「手引している者の詳細」


「赤髪に和装の女。黒髪に和装の男。弓を携えた禿頭の冒険者。黒灰色の髪をした性の判別の付かぬ者。赤髪と黒髪は黒灰色の者の部下と思われる」


「………」


 報告された内容にもう一つの影は暫し沈黙。


「この件はクルックス様に報告。追って指令を伝える。引き続き吸血姫一派の動向を…」


「探る必要はねーよ」


「!?」


 黙考した後、影が指示を口にすると、それを遮るように声が掛かった。

 咄嗟に2つの影は声のした方角……真上へと目を向ける。

 暗闇の中、遠くの光源を受けて僅かに煌めくのは、猫のように光る赤い瞳と、耳と唇に着けられた金のピアス。


「…っ!化け(ケット)…!」


「貴様に用は無い」


「さっさと逝け!」


 飛び降りた影の一人がバンダナをなびかせ、町人に扮した影の足を払いながらうつ伏せに押し倒し、もう一人が屋根の上から紅い鎖を影の首に巻き付けて引っ張る。

 ごきん、という鈍い音と共に、影自身の自重と押し付けられた過重によって首をへし折られた。


「…!」


「おっと、テメェは逃げんな、んで勝手に死ぬな」


「っ…ご…!?」


 逃走を図ろうとした影に対し、ピアスとバンダナの影…トゥゼン・ウィノーヴが直ぐ様羽交い締めにし、顎を一度殴り付けた。

 カコッ、と軽い音がした後、影はぽかんと口を開けたまま呆然とする。

 舌を噛まないように顎を外されたのだ。


「まだまだ粗さが目立ってはいるが、見事な手並みだな。人間を殺すのに慣れているのか?」


「……まぁな」


 影…排斥派との連絡役をしていた吸血種ノスフェラトゥを血晶の鎖で縛り上げながら、トゥゼンは降りてきたもう一人、キーシャ・トレインの言葉に曖昧な返事をする。


「俺達の行動で少なからず穏健派と協力関係を築いた自治体は居たけど、その全部が好意的だった訳じゃねぇ」


「……なる程な」


 その言葉でキーシャにも察しがついた。

 協力関係を築いたとは言え吸血種と常人種。そして穏健派を率いているキュリエ家の令嬢。

 突かれて痛む腹の多すぎる組織には悪意を以って近づく輩も少なくはないと言うことだ。

 そしてアルカへ向けられる悪意を、アルカが気付く前にトゥゼンが排除していたのだろう。


「よくアルカに気付かれなかったものだ」


「アルカに人間の汚さは見せたくねぇ。あいつは俺達の大将で姉ちゃんだからな…っと」


 鎖で簀巻にした排斥派の吸血種の男を地面に転がし、トゥゼンは顎でキーシャに指し示す。

 キーシャはそれに頷いて男の頬を爪で傷つけ、指先に付いた血を舐め取った。


「…………」


「どうだ?」


「急かすな。今整理している」


 目を閉じ、右手の人差し指でこめかみを叩くキーシャ。

 暫し間を置いて目を開ける。


「………当たりだ。この男、街の住人と成り代わった名無し(ネームレス)が探った情報を纏めていた様だ」


「う…お…!」


 記憶を読み取られ、情報を敵に伝えてしまった男は、自害することもままならず悔しげに呻く。


「よっしゃ、この事をビットに伝えるか」


「だな。………その前に」


 キーシャとトゥゼンは転がされている男に目を向け、血晶武器を創りだしてそれを向ける。


「貴様にはもう用は無い」


「安心しろよ。苦しまずに終わらせてやる」


「……あが…お…ろれ…!」


 隠すこと無い憎悪を滲ませた瞳。

 その目は男が死してもその憎悪が消えること無く、二人を睨みつけていた。







「クルックス・オルケイン?」


「またの名を大王烏賊クラーケン。海戦に特化した吸血種の様だな。街の住人の入れ替わりはコイツの力によるものだ」


 また分かりやすい異名だなオイ。

 クラーケン。つまりイカ。

 軟体生物特有の擬態能力がそいつの特性か。

 それを使って部下の吸血種を別の人間に見せかけていたって所かね。

 ……擬態能力を持つのはタコなのだが、その辺は結構曖昧だな。

 まあいい。論点はそこじゃねーし。


「そんで、街に潜り込んだ連中は?」


「クレナイ達の情報が役に立った。凡そ半分は既に減らしている」


「ん、3日でそれなら上等上等」


 これだけ殺りゃ、あとは仕上げるだけだ。


「ウルシ、残った名無しの情報を黒鯱に流せ。流したのがお前だって気取られないようにな」


「畏まりました」


 ウルシは頷いて隠れ家を出て行く。

 さて、あと数日は様子見と行こうかね。






 マイロの港から遥か遠くの海上。

 そこには一隻のガレオン船が錨を下ろして停止していた。


「……クルックス様、お耳に入れておきたい事が」


「んん?なんだぁ~?」


 その船長室。

 ぐちゅり、と粘ついた音を立てながら、その吸血種は部下に目を向ける。


「マイロに潜伏中の者達との連絡が途絶えました」


「………はぁん?」


 ぐちゃ、と下半身から伸びる触手が動く。

 口髭のように触手に覆われたその口元が歪に歪む。


「…連絡役はどうした?」


「そちらとも先程から…」


「……グリュリュリュリュ」


 吸血種が触手を震わせながらくつくつと笑う。


「吾輩の擬態を見破る…か。あのバカ女か?」


「いえ、黒鯱は動きを見せていません。恐らく、報告にあった吸血姫一派かと」


「ほぅ…吸血姫……我らが姫に逆らう愚か者か」


 ぐちゃぐちゃと触手をぬめらせ、吸血種は酒瓶を手に取り瓶の口から直接中身を煽ると、触手の一本を部下へと向けた。


「もう一度探りを入れさせるぅ。十人ほど連れて来い」


「はっ」


 命令を受けた部下は一度深々と頭を下げると、間諜スパイの選定の為に部屋を出て行く。


「さて…我らの邪魔をする愚か者ども、纏めて首を頂戴するかぁ」


 吸血種…クルックス・オルケインは触手をぬめらせ、口元を更に凶悪に歪ませた。

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