死にかける街
お久しぶりです。
最近スランプ気味。
クレナイとウルシと合流し、俺達は竜車の中で縛られた黒服と対峙する。
移動する道すがら、こいつには色々と聞いておいたほうが良いだろう。
マイロまでの御者はゲルドに任せておけばいい。
道案内はウルシがやってくれるしな。
「……さて、お前らの目的はなんだ?お前らを率いてる人間は?マイロに送り込んでいる吸血種の規模は?」
「…………」
矢継ぎ早に問い詰めるが、黒服は答える気配もなく、じっと睨みつけるばかりだ。
口を割る気は無いってか。
「キーシャ」
「……」
俺の指示にキーシャは頷き、鋭く伸びた爪を黒服に向ける。
「…!」
どうやら黒服もその意味に気付いたようだ。
本人の口から出ないなら、記憶から情報を引き出すまで。
キーシャが黒服に爪を立てて傷付けようと手を伸ばす。
「……っ!」
「あっ」
ブツン、と何かを千切る音。
その発生源は黒服の口元から出ていた。
……ああ、そうかい。そっちを選ぶのかい。
「…ん…ぐぐ…!」
「っ、こいつ、自分の舌を!?」
トゥゼンが黒服の行動に気付き、黒服の胸倉を掴む。
考えるまでもなく、黒服の口に指を突っ込んで窒息させないつもりだろう。
「坊っちゃん、もういい」
「け、けどよ!」
「かっ、がが!コ…」
議論する間も噛み切った舌が丸まって気管を塞ぎ、苦しそうに黒服が呻く。
……仕方がない。
「キーシャ」
「………どけ、トゥゼン・ウィノーヴ」
「あ?……ちっ」
キーシャに諭されてトゥゼンは渋々引き下がり、キーシャが蹲って悶えている黒服に両手を伸ばす。
「か、かか…!」
「去らばだ」
ごき、と鈍い音が響き、嬢とトゥゼンが顔を背け、ジャコとサーミャはじっと事の次第を見つめる。
首を捻り折られた黒服はあっさりと事切れ、ゴトンと力無く倒れた。
「……やれやれ、どうやら排斥派ってのは思った以上に厄介な組織らしいな」
モノ言わぬ死体となった黒服の襟首を引っ掴んで持ち上げ、歪に垂れ下がった頭を小突く。
走る竜車の扉を開けてそのまま外に放り出した。
ああやって外に放っとけば魔物が綺麗に掃除してくれる。自然の摂理に還すのがある意味一番合理的だ。
「ビットさん…」
「うん?どうした?」
死体を放って扉を閉めて振り返ると、嬢は少し悲しげに俺を見ていた。
………ああ、そうか。
「連中とあんたらは、組織としての理念や意見が完全に平行線を辿ってる。助けたところで毒にしかならんよ」
それに、と一拍置く。
「自害した奴の行動で確信した。金で雇われていたキーシャと違って、排斥派本来の構成員は、絶対に味方に就くことは無い」
「おい、鞍替えを提案した貴様がそれを言うのか」
ベシベシとキーシャに叩かれながら肩をすくめると、アルカ嬢とトゥゼンとジャコは首を傾げ、サーミャ某はなるほどと頷いた。
「…どういう意味?」
「ふむ…ジャコに質問」
「はい?」
「アルカ嬢とジャコが血晶の首輪を括られて密室に閉じ込められていました。部屋には即効性で致死性の毒薬の入った瓶が一つ。首輪はどちらかが毒を飲まないと外れない仕掛けになっています。アナタはどうしますか?」
「毒を飲みます」
「やめてっ!?」
ジャコは躊躇いなく即答し、アルカ嬢が慌ててそう言った。実際にやられても困るが。
「慕われてるねぇ。まあ実際にそんな状況になれば他の活路を探すのが一番だが。そんで、躊躇いが無いのはあの黒服も同じだよ。奴は自分の生命とその『姫』とやらへの忠義を秤にかけて、迷うことなく忠義を選んだ。それだけの求心力が、排斥派にはあるってこったな」
「………」
俺の見解にアルカ嬢は目を伏せて歯噛みする。
まだ穏健派の全容を把握出来ていないが、俺の目にはその動作だけで穏健派が排斥派ほど強力な一枚岩でないのが見て取れた。
構成員の数だけでなく、団結力ですら劣っている。
分かっていたこととはいえ、改めて突き付けられた現実に打ちのめされているんだろう。
「嬢よ」
「…な、なに?」
俺が声を掛けると嬢が気がついたように顔を上げる。
「あんたは十分やってるよ。たかだか十代で組織を立ち上げて数年で千人なんて大規模な組織に大きくして。凡夫なら到底出来やしねぇ事をやり遂げている。新参の俺が言うのもなんだが、誇ってもいいんじゃねぇかな」
「……ありがとう」
俺の言葉を受けて一応の気を取り直し、嬢は一つ頷いた。
良かった。ここで折れられちゃ面倒臭い事になる。
前情報を得られなかったのは残念だが、何時までも燻っている訳にもいかんな。
「クレナイ、ウルシとゲルドに急ぐ様に伝えてくれ」
「はっ」
指示を受けたクレナイは頭を下げて御者台へ出る。
気を引き締め直し、俺達はマイロへの旅路を急いだ。
「……おー、ようやく見えてきた」
クレナイを先頭に林道を歩く俺達の前方に、鉄柵と濠で隔たれた街が見えてきた。
貴族の家紋が飾られた竜車は流石に目立つので、ゲルドとウルシとジャコは別ルートからの侵入である。
「到着です。私が言うのも痴がましいですが…ようこそ、マイロへ」
「ん、ご苦労さん」
街と隔てる濠を渡り、ようやく俺達はマイロへと辿り着いた。
拉致られて他所に連れ出される事はあったが、自分の意志でガルサ以外の街を訪れたのは何十年ぶりだろうか。どんだけ引きこもりだよ俺。
街に入って真っ直ぐ海へと伸びる街道に出ると、俺達は皆一様に違和感に気づいた。
「……ガルサとくらべて、随分静かな街ね」
「ああ。それに外に出てる人間も少ない」
嬢の言葉に同意する。
目についただけで、外に出ている街の人間が10にも満たない程閑散とした街は、初めて訪れた俺達でも分かるほどに活気と呼べるものが無い。
「これが現在のマイロです。私達が来た当初はまだ活気に満ちていたのですが…」
「連日激しくなる海賊騒ぎですっかり意気消沈ってトコか」
「その通りです」
クレナイが頷くのを見てバリバリと頭を掻く。
こりゃ思った以上に深刻だな。
嬢達が吸血種とバレた日にゃ街の人間に何されるか分かったもんじゃねぇ。
「ジャクリーンを別行動させておいて正解だったな」
「ああ、俺らン中じゃ、あの娘が真っ先にあぶねぇ」
ジャコは頭部がカボチャ、瞳が発光体という分かりやすい吸血種だ。
吸血種への反感が募っているマイロで、下手にあの娘が外を出歩くと確実に住民、海賊の両方から狙われる。
ジャコにゃ悪いが、今回は身を隠してもらったほうが動きやすい。
「…着きました。ここが我々の拠点です」
暫し雑談に興じていた合間に、俺達がマイロで身を隠すためのアジトに到着した。
場所は街の北側郊外寄り、簡素な木小屋の裏には鬱蒼と茂った木々が天然の防壁を作っている。
「追跡されないように大きく迂回して居ると思われますので、ウルシ達の到着は今暫くお待ちを」
「おう、じゃあ俺達だけでぼちぼち話詰めっかね」
クレナイを筆頭に、俺達は続々と小屋の敷居を跨いで行った。
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